Photo by noriyukikawanaka 【車掌小説】夕焼け 小焼け 14 紗希 2019年9月27日 16:17 あの子はどこに行ったのだろう。夕暮れ時に、一人でブランコを漕いでいた。名前はなんと言ったっけ。みんなは『小焼け』と呼んでいた。まだ、あどけない顔の女の子だった。けれど学校には、たまにしか行っていない。周りの人は、何故だろうか、と言っていた。不思議そうに言っていた。けれど!本当は知っていたはずだ。担任の先生は何度も、小焼けの家に家庭訪問していた。学校に行くように。小焼けに今やっている事を辞めさせるように。応対するのは、いつも父親で、母親の所在は分からない。父親は、ヘラヘラと笑いながら担任の話しを聞いていた。わたしは知っていた。ある日、小焼けが高そうなコートを着た、背の高い男性と、ピカピカ光る下品な建物に入っていくのを見たのだ。まだ義務教育の小焼けは、毎晩のように、飲屋街にポツンと立っている。それが小焼けの仕事なのだ。働かない父親。稼がなければならない小焼け。みんな、知っていたはずだ。中には手を差し伸べてくれた大人たちもいたはずだ。小焼けは、小さな手で、ギュっと握り返しただろう。けれど誰も、小焼けを引っ張り上げては、くれなかった。こっちへおいで、とは言ってくれなかった。ギュっと握りる小焼けの手を、すうっと離したのだ。小焼けの意味を知ってるだろうか。小焼けに意味など無いのだ。ただの語呂合わせで、夕焼けに付けただけなのだ。小焼けを単独では使わない。意味をなさない。あの日、とうとう夕焼けに、小焼けは連れて行かれてしまった。山の向こうに、沈んでしまった。小焼けは後悔しただろう。大人たちを信じた自分を、許せなかっただろう。心も体も痛みでいっぱいだった、あの子のことを、わたしは忘れることは、できない。 了 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #大人とは #夕日が沈む時 #君が居なくなったのは #車掌小説 14