海中くじら1LDK
左遷された。
最後に家に帰ったはいつだったか考えていたところへツヤツヤした顔の社長がおはようとのしのし入ってきた。
そのままたいして美人とも言えない女性社員のお尻を手で当たり前かのようになぞる。
女性社員が甲高い声で社長を甘く非難する声がきこえた。
僕はパソコン画面を見ながら動けなくなっていた。
「きみ~手が止まってるじゃないか。しっかりしたまえ」
肩を揺らされる。
反射的に笑顔を作ろうとしたが、そのままの勢いで社長を殴った。
気がついたら小さな町の小さな支社にいた。
そこは平均年齢50歳で30代後半の僕が一番若い、活気がない。
クビにならなかっただけましではあるものの、毎日会社全体におわりの雰囲気が横たわっている。
そんな僕は仕事が終わるとくじらに帰る。
意味がわからないと思う。
だがくじらに帰っているのだ。
ボロボロの不動産屋に行き、できるだけ安い物件を希望した。
日当たりも気にしないし、食べて寝られればどこでも良いというと
なら、ガス代等の諸費はかかるが無料で家具がつく物件があるとにこにこと紹介された。
普通なら怪しむところだが、連日の睡眠不足や心労でぼーっとしていたので
「ならそこでいいです。」
と内見もせずに決め、鍵を受け取り少ない荷物をもって地図に従って進む。
平家の現代的なデザインの扉を開けると、くじらの口内だった
「は?」
すぐに扉を締め走って先ほどの不動産屋に行くが、ない、いくら探してもない。
僕はしばらく立ち尽くしたが、くじらに帰ることにした。
くじらでの生活は案外快適で、不思議と家具も僕も流されずに生活している。
くじらがオキアミを食べるとへやに波が入ってくるが濡れない。
ただ波の音だけが聞こえる。
少し普通の物件と違うだけだった。
しばらくは落ち着かなかったが、慣れてくるとくじらに住んでいのを自慢に思う。
それでも僕の日常はくじらと会社の行き来だけだった。
かわりない。
寝て起きるそんな感じ。
ふと休日に海を見に行った、すると朝焼けに照らされるくじらがいた。
くじらのからだに刺さっている固定アンカー光っている。
僕はぐわっと喉が焼けるような感覚に襲われ一生懸命くじらのアンカーを外し、くじらが海に帰って行くのをみた。
不思議とあのくじらは僕の住んでいたくじらだという確信があった。
その日は波の音と朝焼けの匂い空は別に晴れていなかったけれど
僕は会社をやめた。