『謎メキ!花の天カス学園』は個性が爆発する王道の青春学園ミステリー。伏線とトリックを考察。
『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 』はうえのきみこ脚本の直球勝負!王道の青春学園ものだ!変でいい、ダサくていい、無駄を愛すのだ!効率と正しさと清潔さが重視される現代社会へのカウンターか?伏線回収が美しく、ミステリーとしての質が高い。
『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 』は第29作であり、2021年7月30日に公開されました。この記事は全文無料であり、約5600文字あります。歴代の映画クレヨンしんちゃんをすべて観た私・街河ヒカリが『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 』を解説します。監督へのインタビュー記事からの引用もあります。伏線とトリックとネタについての考察もあります。2021年7月31日に記事を公開し、その後何度か更新しました。
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これ以降では映画の詳細(ネタバレ)を記述していますのでご注意ください。
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ここからネタバレです。
映画前半では何度も「エリートポイント」が強調されました。寮とトイレ以外は常に監視され、数値化され、序列化されます。清く正しく美しくあること、争わないこと、そして効率が求められます。
さらに「エリートポイント」が食事にまで反映されます。この設定に私は生々しい残酷さを感じました。子ども向けの作品でここまで描くか。食事は生きることの根幹です。これは人生の序列化を示唆しているようにも読み取れます。もっと大胆に読むと、これはまるで現実世界の貧富の差を表しているようです。
映画のパンフレットに掲載された監督の髙橋渉(たかはし わたる)さんへのインタビュー記事から引用します。
Q:天カス学園には、いまの世の中の閉塞感と似たものを感じました。
そこは意識して、常に「よい子でいましょうね」という大きな蓋が生徒たちの頭の上に載っている感じにしました。常に綺麗で清潔で、「こうすれば自分の得になる」みたいなものが生徒を追い詰めるとしたかったんです。
出典:パンフレット「監督:髙橋 渉インタビュー」
私は『謎メキ!花の天カス学園』が近年のポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)と表現の自由の問題を婉曲的に表現しているのか?と推測しましたが、これはさすがに私のバイアスが掛かりすぎかもしれません。
「エリートポイント」に象徴される天カス学園と対極にあるのが、登場人物の個性でした。今作では登場人物の個性が見事に輝いていました。私は何度も笑いました。
映画クレヨンしんちゃんではマサオくんがオラオラ系に変貌することが毎度おなじみのパターンですが、『謎メキ!花の天カス学園』では番長の影響を受けました。「鬼義理のマサ」って何だよ!笑ったわ!マサオくんが転がったのは「おむすびころりん」か?
ろろちゃんを擁護するボーちゃんが珍しく早口だった!早口なボーちゃん!
番長は怖そうに見えて実は焼きそばパンを下級生に分け与える心優しき人でした。王道のキャラ設定です。
最後のマラソン大会はベタな王道展開でした。
マラソン大会の冒頭で沿道の生徒たちは風間くんを応援していました。風間くんが勝てば自分たちがエリートになれるからです。カスカベ探偵倶楽部は沿道の生徒たちから嘲笑されました。それでも走り続けました。
阿月チシオが変顔で走り出したとき、ついにやっとリミッターが外れました。変でいい。ダサくていい。ここから『クレヨンしんちゃん』の最大の魅力である、キャラの個性が爆発します。もはや普通のマラソンではなくなり、大乱闘になりました。番長、ろろ、チアリーダーたちが次々に現れ、自分の個性を活かしてカスカベ探偵倶楽部を助けました。
この展開は『ONE PIECE』の頂上決戦で処刑台に向かって走るルフィを海賊たちが全力で援護したシーンを彷彿とさせます。
マラソン大会を観ていた生徒たちは嘲笑をやめ、カスカベ探偵倶楽部を応援します。これは『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』のクライマックスで野原一家を観たオトナたちが目を覚ましていった展開のオマージュでしょうか。
オツムンはマラソンの途中で「青春とは」と自らに問い、戸惑いました。
マラソン大会のゴールで焼きそばパンを先に手にしたのは風間くんでしたが、そのときにはもう「風間くんが勝てば生徒たちがエリートになれる」という応援の理由が消滅し、生徒たちは勝ち負けよりももっと大切な「青春」の中にいました。
オツムンは映画の後、「青春」を学ぶために学園の生徒になります。本編には入れられなかったので、エンディングで描いています。
出典:パンフレット「監督:髙橋 渉インタビュー」
『クレヨンしんちゃん』の本質は個性です。個性には非効率と無駄が伴います。「エリートポイント」に象徴される天カス学園の価値観は、『クレヨンしんちゃん』が大切にする価値観と対極にありました。対極を描くから、個性を大切にする『クレヨンしんちゃん』の価値観が際立つのです。
Q:スミコ先生が学園長に言う「子供たちにムダなことなんて何ひとつないんじゃないでしょうか」というセリフが印象的でした。
そのセリフには、「どんなくだらないことにも何かしらの役割、意味があるし、そこから何かを発見できる」というメッセージを込めています。どんなことでも、何かをやりたいという欲求、衝動というのは大事だと思うんです。自分の中にある「くだらないことをしてみたい」という欲求にときには従ってみてもいいんじゃないでしょうか。特に大人のみなさん、もっとムダだと思われることをやるべきですよ。自分自身のために。
出典:パンフレット「監督:髙橋 渉インタビュー」
マカロニえんぴつが歌う主題歌「はしりがき」にはこんな歌詞があります。
「ただ無駄を愛すのだ!」
「いざ無駄を愛すのだ!」
全体を総括すると、私は『謎メキ!花の天カス学園』を高く評価しています。クレヨンしんちゃんのファンたちからも非常に高く評価されています。前作『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は変化球でしたが、今作は直球勝負でした。ベタベタな王道展開です。それでいい。
過去の映画クレヨンしんちゃんでは、しんのすけがいい子すぎたことやヒーロー過ぎたこともありました。しかし『謎メキ!花の天カス学園』のしんのすけはおバカでした。人を困らせ人をあおります。しんのすけは悪口の才能があります。アニメキャラとしては珍しい性格ですが、そんなしんのすけが主人公として物語を前へ進める脚本を書いたことはお見事です。
『謎メキ!花の天カス学園』のマラソン大会は『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』のオマージュかもしれませんが、二作は違います。
1件目に、『オトナ帝国』においてはオトナたちはテレビでしんのすけたちを見るだけでしたが、『天カス学園』において生徒たちはしんのすけたちのために闘いました。2件目に、『オトナ帝国』においてみさえとひろしはしんのすけと一緒に闘いましたが、『天カス学園』においてはみさえとひろしは闘いませんでした。なぜならしんのすけたちを独立した個人として尊重し、子どもたちが自分の力で闘うことを尊重していたからです。3件目に、『オトナ帝国』においてしんのすけはみんなと自分の未来のために走りました。『オトナ帝国』の最後に登場人物たちは未来へ進むことを選びました。『天カス学園』においてしんのすけは風間くんのために、今を生きるために走りました。しんのすけは今しか分かんないと叫びました。
よって、二作は世界観が異なります。『天カス学園』は過去作の焼き直しではありません。明確に新規性があります。
クレヨンしんちゃんらしさと映画としてのまとまりをこれほど美しく両立させた作品は、歴代の映画クレヨンしんちゃんの中で初めてかもしれません。
『謎メキ!花の天カス学園』の魅力は、脚本を手がけたうえのきみこさんに因るところが大きいのでしょう。
Q:番長がイケメンだったのには驚きました。
脚本のうえのさんのアイデアです。仮面を取ったとき、どんな顔だと面白いだろうと考え、いろんな顔を試したんですけど、一番ハマったのがイケメンでした。さすがです。
出典:パンフレット「監督:髙橋 渉インタビュー」
うえのきみこさんは『謎メキ!花の天カス学園』の他にこれらの映画クレヨンしんちゃんで脚本を担当されました。
・2013年/第21作/『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』
・2015年/第23作/『オラの引越し物語 サボテン大襲撃』
・2018年/第26作『爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』
・2019年/第27作『新婚旅行ハリケーン〜失われたひろし〜』
映画ではありませんが、Amazonで配信された2016年の『クレヨンしんちゃん外伝 おもちゃウォーズ』でもうえのきみこさんが脚本を担当されました。『おもちゃウォーズ』は視聴者から非常に高く評価されています。私も記事を書きました。
原恵一監督が退いてから映画クレヨンしんちゃんは停滞していましたが、うえのきみこさんが脚本を書かれてからは再び熱くなりました。この記事の最後に私が書いた別記事へのリンクがありますので、お読みいただけたら幸いです。
うえのきみこさんが書いた脚本では、登場人物の個性が活き、くだらないギャグがあり、物語がどんどんと盛り上がります。しかも盛り上がるまでの流れが滑らかなのです。うえのきみこさんは発想力をお持ちで非凡なアイデアを出しているようですが、きれいに物語をまとめて着地してくれます。王道なのです。かすかべ防衛隊の友情を描くのもうまい。しんのすけと風間くんの面倒くさい友情を描くのもうまい。
さらに『謎メキ!花の天カス学園』はミステリー要素を加えたため、過去作とは違った新しい魅力がありました。視聴者がカスカベ探偵倶楽部と一緒に推理をするワクワク感がありました。伏線回収が美しく、きれいにまとまっています。
ここからは伏線、トリック、ネタを列挙します。間違っている可能性もあります。
伏線・トリック・ネタまとめ
冒頭にアクション仮面の作品(DVDかブルーレイか?)がクローズアップされた。タイトルは「アクション仮面 VS 生乾き男爵の謎」であり、アクション仮面は虫眼鏡のような道具を持っていた。これは時計台で風間くんが濡れること、吸ケツ鬼が登場すること、カスカベ探偵倶楽部が推理をすることの伏線だった。
前半で豆沢サスガくんが天カス学園のオブジェを掃除したことは、人を飛ばして滑らせるための準備だった。
後半で風間くんがフェンシングのような動きをしたことは寺盛アゲハを犯人だと思わせるミスリードだった。寺盛アゲハはフェンシングで入賞したことがあったからだ。
前半で寺盛アゲハのネイルを強調したことは、後半でしんのすけたちが拾った物体を寺盛アゲハのネイルだと思わせるミスリードだった。実際はカニの爪だった。豆沢サスガがカニを食べたことが伏線だった。アゲハのネイルとカニの爪はどちらも爪だったが、その物体を観たマサオくんが「爪」と言ったことは、叙述トリックだったのだろうか?この時点でマサオくんはネイルでなくカニの爪だと分かっていたのだろうか?(私はマサオくんのセリフをはっきりとは覚えていないため、間違っていたら教えてください)
阿月チシオが表彰される写真では、阿月チシオのゼッケンに「33」という文字があった。しんのすけはその写真をじっと見つめた。後半でしんのすけはその写真に映った豆沢サスガの目の形が「33」だったことを明かした。ゼッケンの数字の「33」は、視聴者の視線を豆沢サスガの目の形から逸らすための囮だった。
おバカになった風間くんが「しんのすけ」と言わずに「しんちゃん」と呼んだ理由は何だったのだろう?この理由は明言されなかったのか?
前半のしんのすけはみんなが走っているときに自分だけ走ろうとせず、機械に乗って怠けようとした。走りたがらなかったしんのすけが最後は風間くんのために走った。この対比が美しい。
冒頭のバスの中で風間くんだけが「ファイヤー」と言っていたが、最後にマラソン大会で走っているしんのすけが「ファイヤー」と叫んだ。しんのすけは風間くんの言葉を風間くんに返した。
豆沢サスガと阿月チシオの関係は、風間くんとしんのすけの関係なのかもしれない。サスガはエリートでありチシオが好きで、チシオと一緒にいたいからチシオを天組に入れようとした。風間くんはエリートでありしんのすけが好きで、しんのすけと一緒にいたいからしんのすけを特待生として天カス学園に入学させたかった。
天カス学園の生徒たちとかすかべ防衛隊が対になっている。豆沢サスガと風間くん、阿月チシオとしんのすけ、ろろとボーちゃん、番長とマサオくん、寺盛アゲハとネネちゃん(ギャルだから)。なお、学園長と脇野スミコ(わきのすみこ)は考えが対立している。学園長の名前は膨萩椋美(ふくらはぎむくみ)だ。脇とふくらはぎはどちらも体の一部だ。
伏線・トリック・ネタについては以上です。読者の皆様から情報をいただけたら追加する予定です。
うえのきみこさん、いつもありがとうございます。
さて、『謎メキ!花の天カス学園』の最後に次回作の予告がありました。しんのすけが忍者だったようです。一体どんな作品なのでしょう。次回作は第30作です。私は川辺美奈子さんの脚本も好きなので、次回作の脚本が川辺美奈子さんだったらいいなあと想像しています。
私・街河ヒカリが書いたクレヨンしんちゃんの記事をマガジンにまとめています。
以上です。今後も街河ヒカリをよろしくお願いします。クレヨンしんちゃんの企画をお待ちしております。