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デンマークはなぜ化石燃料依存から「再エネ8割」へ変身できたのか。原発に頼らず経済成長とCO2排出減を両立

この連載は、午後4時台がラッシュアワーという働き方をしているデンマークの人たちが、どうやって世界競争力ランキングで首位になるような経済を作っているのだろうか、という疑問からスタートしている。

このランキングを発表するスイスのビジネススクール・IMDが、2022年にデンマークを首位と位置付けた時、その理由としていたのが「積極的にサステナビリティ領域に力を入れていること」だった。

人口600万人に満たない北欧の小国ながら、デンマークは、環境・サステナビリティの分野で世界でも大きな存在感を示してきた。

2030年までの温室効果ガス排出削減量は1990年比で70%減という野心的な目標を掲げており、環境への配慮が高い政策の国(環境パフォーマンス指数)ランキングでは1位。とりわけ風力発電では世界をリードする存在であり、洋上風力発電最大手のオーステッド社や、風力発電メーカー大手のベスタス社を擁し、両社をはじめデンマーク企業は世界で最もサステナブルな企業ランキングでも上位の常連である。

1991年には世界初の洋上風力発電所を建設し、2021年には大規模な洋上風力発電のハブとなる世界初の「エネルギー島」計画を発表。ウクライナ戦争勃発後は、エネルギー安全保障の観点からも、欧州の洋上風力発電量を大幅に拡大すべく、国際的な連携を牽引する存在でもある。

ただ、デンマークがずっと環境先進国だったわけではない。今年は1973年のオイルショックから50年の節目の年だが、当時のデンマークは、エネルギー消費の9割以上を石油に依存し、西側諸国の中でも最も化石燃料比率の高い“ブラック”な国だったのである。そのためオイルショックによる経済的打撃は特に深刻で、この時の苦い経験から中東の石油に依存しない道を模索し始めたのは、日本と同じだった。

それから50年が経ち、デンマークと日本は、かなり異なる立ち位置にある。デンマークでは、首都コペンハーゲンにほど近い距離に建設された隣国スウェーデンの原子力発電所稼働などをきっかけに、原発の安全性を懸念する国民世論が高まり、1985年には原発を使わないことを国会で決議。そして、再生可能エネルギー、とりわけ風力発電を育てることに注力した。

いまデンマークでは、再生可能エネルギーが発電量に占める割合は8割以上と世界でも際立って高く、2030年までにはこれを100%にするとしている。

出所:イギリスの環境エネルギーシンクタンク「エンバー」のデータより。

私がデンマークから物を書いている理由の一つが、この国は日本とはまるで違うアプローチをとることがあり、それがインスピレーションになりやすいためなのだが、環境・エネルギー政策もその一つ。原発を持つスウェーデンやフィンランド、山があって豊富な水力発電に頼れるノルウェーなど、部分的に日本と似ている近隣諸国と比べても違いが際立つのだ。

日本をはじめ世界が2050年のネットゼロという大きな目標に向けて動くなか、デンマークはこれを水力発電も、原発も、化石燃料もなしで、再生可能エネルギーのみで達成しようとしているのである。

とはいえ、ここに至るまでには紆余曲折があったし、風力発電業界はまさに今、苦境の真っ只中にある。今回取材をしたオーステッド社は、アメリカでのプロジェクト中止を発表して株価が急落したことが日本でもニュースになったばかりだ。そんな現実も含めて、今回は、デンマークの競争力を語る上で欠かせないグリーン政策について書いてみたいと思う。

経済成長とCO2排出量の“デカップリング”を実現

2023年1月のある週末、ひとつの記録が話題となった。金曜から日曜までの3日間連続で、風力発電量が、国として必要な電力量の100%を超えたのである。

この時は3日連続だったが、デンマークでは風が強い秋から冬を中心に、風力発電だけで電力需要の100%以上をまかなえる日が、年間30日ほどあるそうだ。年間を通してみても、風力発電はデンマークの発電量全体で半分近くを生み出すダントツの存在。ちなみに2番目はバイオマスで2割、その次が石炭で1割程度となっている。

再生可能エネルギーに注力してきたからといって、経済成長を犠牲にするという発想には立っていない。むしろ、グリーン分野の産業を育てることで、国内の雇用と輸出とを生み出す「グリーン成長」をかけ声に、1990年から2021年までにGDPは7割近い伸びを見せる一方、二酸化炭素排出量は減少させるという「デカップリング」を成し遂げている

出所:デンマーク政府統計をもとに編集部作成。

再生可能エネルギーがいかに天候頼みの不安定な電力源であるか、経済成長のためには化石燃料や原発のような安定的なエネルギーがいかに重要であるか、という“できない理由”を日本でさんざん聞いてきた身としては、デンマークがこの状態までどうやって辿り着いたのかのは、とても興味深いところだ。

ただ、そのプロセスをたどってみると、オイルショックの打撃を受けた後、一足飛びに再生可能エネルギーに賭ける方針に舵を切ったわけではない。まず目指したのは、北海で産出される自国の石油と天然ガスでエネルギー自給率を上げることだった。そして同時に、“アメとムチ”の政策によって、デンマーク人の消費マインドと産業構造を変えることだったという。

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