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育休を取る父親は9割以上の北欧 私が感じる「子育てしやすさ」の理由

こちらのツイート、800近いlikeをいただいてちょっと驚きました。そして「近くまとめる」と書いた原稿は、こちら。

私がふだん見聞きするデンマークの事情に限らず、北欧全体に取材を広げていたら、5000字以上の長大な原稿に…。でも、北欧5カ国のアプローチの違いや、そもそも父親が育休を取ると何がいいのかについての専門家の見解など、学びの多い取材でした。

今では9割以上の父親が育休を取るという北欧でも、90年代は1割程度だったといい、デンマークではおむつを替えたり子育てに熱心な男性のことを指す「Blødmænd(soft man=軟弱な男)」という言葉もあったんですよね。北欧もそこから進化を遂げたからこそ今があるわけで、どうやったのかという「how」の部分を少しでも伝えられればと思いながら書いたものです。

例として取り上げたアイスランドのケースについて、アイスランド大教授が指摘したように、「譲渡不可能(non-transferable)」の育児休暇を父親に長期間割り当てることはひとつのカギであり、「北欧を含めた多くの国で、父親は経済的な保障がある期間しか育児休暇を取らない傾向がある」というのも大事なポイント。アイスランドは、父親育休の長さでは今や北欧でもトップランナーです。

この原稿は制度の説明が大きい割合を占めるため、専門家の見解も含めて硬めの内容なんですが、私が常日頃考えているのは、原稿の後半で書いた「子育てのしやすさ」をめぐることだったりします。なぜデンマークでは子育てがしやすい、と感じるのかというと、子育てを楽しむ時間と気持ちの余裕が持ちやすいことなんだろうな、というのが、今のところの私の考え。

原稿で書いたことを引用してみます。

実を言えば、私はデンマーク行きにはかなり消極的だった。新聞記者として米国赴任中に長女を妊娠したので、出産場所を米国、日本、デンマークの間で迷いに迷っていた。当時、デンマーク人の夫の生活基盤は日本にあり、デンマークには住む場所も仕事もなく、私にとっては言葉も文化も知らない場所。日本で出産するのが一番自然だと思っていた。

だが夫は、日本の「里帰り出産」のやり方では、赤ちゃんを育てるのが私や私の母親中心になってしまい、自分が出遅れることを危惧していた。

夫が指摘したのは、日本の病院で出産した場合、夫はあくまで「お見舞い」の立場になってしまうこと。たしかに、日本では母親が病院で赤ちゃんのオムツの替え方や沐浴指導を受けるのが一般的だし、そこから自宅か実家で母親と赤ちゃんのお世話を始めるとなると、スタートから父親と差がつくのは当然かもしれない。

結局、私たちはデンマークで出産することに決め、私が帝王切開で入院中の2泊3日の間、夫は同室の簡易ベッドに寝泊まりしながら、せっせと娘のお世話を始めた。翌朝、私がぐっすり寝ている間に、太陽が昇るところを娘に初めて見せてあげたそうだ。おむつを最初に替えたのも、お風呂に最初に入れたのも、結局みんな夫だったし、むしろ私よりも育児のできる人になった。何よりも、育休期間は娘とのつながりを育む大切な時間だったように思う。

今、子供たちは2歳と6歳になったが、これまでの経験から言って、育児休暇は長い子育てのほんの始まりに過ぎないと感じる。やってみるまでわからなかったが、子育てには、本当に時間も手間もかかる。しかも、それが長い期間続く。だから、日々の、特に平日の育児を父親がどれくらい「無理なく」やれるか、というのが大事な要素だと痛感する。



無理なく、というのは、父親が子供の迎えに行けるような柔軟な働き方や職場の理解、ということも含めてである。私の夫は、会社で大型のプロジェクトを任されていた時も、午後3時半に娘を幼稚園に迎えに行っていたが、それは社内向けの予定表に「お迎え」と堂々と書けたからである。夫に限らず、午後3時半にお迎えに来る父親の中には、中央官庁の役人や大企業の管理職など、責任のある仕事をしている人も多かった。そして、子供が寝た後に、日中できなかった分の仕事を自宅でやって取り戻していた。



だから、北欧の子育てのしやすさの背景には、父親の育児休暇だけでは語れない部分が大きいとは思うものの、私たち家族が今の育児パターンに落ち着いたのは、夫がデンマークでの育休期間で培った子育ての”基礎力”があってこそ、とも思う。


子育てって、「to-do」の山です。例えば平日、保育園に子供をお迎えに行ってから子供が寝るまでの間に、子供を家に連れて帰る、必要なら買い物をする、食事を作る、食べさせる、片付けをする、お風呂に入れる、読み聞かせをする、歯磨きをする、寝かしつけをする…そういう最低限の「やるべきこと」を済ませる必要がある。

日本の共働き家族のストレスフルな日常を聞いていると、平日の父親の協力があまり期待できないこともあって、この「to-do」以外の余裕がほとんどないように見えます。余裕がないどころか、時間内に終わらないので、日本では0-2歳の子供でも就寝時間が夜9時以降になることが多いとか。これは、世界的に見てもかなり遅く、子供の睡眠不足が招く悪影響も懸念されます。ちなみにデンマークの子供たちの就寝時間は周りに聞く限り夜7時台が多く、我が家は遅めで夜8時。

私の経験でいうと、子育ての楽しさ、幸せを感じる時間というのは、to-do以外の「余白」の時間にはじめてできる気がするんですよね。一緒にただぼーっと自然の中で過ごしていたり、ただほおずりしていたり、じゃれてるような時間。子供の成長のために読み聞かせをするとか、栄養のいいものを食べさせるとか、そういう「先のこと」「役立つこと」ばかり考えず、「この後やるべきこと」で頭をいっぱいにすることもなく、ただその時間を子供と過ごせるような時間。デンマークで生活していると、そういう余裕を持ちやすい生活のリズムがある。

もちろん、デンマークにいるから子育ては楽勝、なんてことはないです。2歳児はしょっちゅう夜中に起きるし、勝手におむつを取って歩き回って部屋が大惨事、なんていうトラブルは日常茶飯事で、40代も後半の私は「もう無理」と弱音を吐くこともしばしば。だからこそ、日常のふとした瞬間に、子供をただかわいがる時間の余白があるのはありがたい。逆にこれがなければ、子育ての大変な部分しか感じられず、しんどかろうなと思います。

原稿に書いたように、デンマークではほとんどの父親に育休で培った子育ての基礎力があり、午後3時半にお迎えに行けるなど働き方にも裁量を持てるため、父親も母親と同じように家事や育児をこなしています。2人でやっているから、親の側に時間と気持ちの余裕が持ちやすいんでしょうね。日本でいう「産後クライシス」はこの対極で、母親ばかりに家事や育児に過度な負担がかかるため、不満を募らせて関係にきしみが生じる…という流れですよね。

子供の成長は早いです。そして、成長を見逃した時間は残念ながら戻ってこない。「子供ともっと時間を過ごせばよかった」という後悔を持つことがないようにしよう、というのは、私と夫がよく話すことでもあります。それができる環境は本当にありがたいし、デンマークで子育てをしていて良かったと強く思うところです。

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