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“税金が重いのに、使えるお金が多い”の謎

税金が高くても余裕のある暮らし

Business Insiderの「北欧はなぜ『幸福の国』になれたのか」連載を書くにあたって、私が注意しているのは、”北欧は進んでいで素晴らしく、日本は遅れていてダメな国”という、型にはまった印象を読者に持たせないこと。

私自身、北欧というエリアになじめない時期がけっこう長かった。不便で田舎な小国に来てしまった、としばらく思っていたし、北欧の人々の生き方を見ていると、40年近くを過ごした日本や米国での私の価値観を否定されたような気もしていた。在住7年目にして連載を書く気になったのは、2人の子どもがようやく手を離れてきたというのも大きいけれど、北欧社会のあり方を素直に日本へのインスピレーションとして受け取れるようになるのに、ずいぶん時間がかかった、というところもある。

なので、北欧の記事を読む時に、日本の人たちが「いや、でも...」と言いたくなるポイントも、けっこうわかる。”デメリット”としてあげられることの一つが、


「でも、税金が高いでしょ?」

という指摘。実際、日本とデンマークの国民負担を比較すると、こんなグラフもある。

財務省ウェブサイトより

税金が高いでしょ、という指摘は、「だから、個人が自由に使えるお金が少ないでしょ?」というマイナス面の指摘なのだと思うが、これがもし、税金が高いのに、使えるお金も多い、だとしたら…?

先週、noteに全文を掲載した連載2回目の記事で、私が特に聞きたかったことの一つはこの点だった。

今年は、ウクライナ情勢の影響による歴史的なインフレという特殊事情もあり、みなさん出費にはかなり慎重になっている印象はあるものの、それでもまあ、サマーハウス(別荘)を持っている人の多さとか、海外旅行に行く人の割合だとか、私がここ7年ほどデンマークで暮らす中で見てきた人々の暮らしぶりは、「重い税金のために、質素な暮らしを強いられる福祉国家の人々」というのとはほど遠い印象だった。米国にいるような、わかりやすい超お金持ちは少ないが、一般人がわりとゆとりのある生活をしているように見える。

私が住んでいるコペンハーゲンだけの印象でデンマーク全体は語れない、というのは承知の上で、それでも東京とコペンハーゲンという首都同士の一般人の暮らしぶりを比較してみても、どうやったらこんなに家賃の高い場所に住み、シンプルに見えて実はかなり高額な家具を揃えたり、日本と比べると恐ろしく高い外食に行く余裕があるんだろう、と不思議に思っていた。

一回目の原稿に書いたように、月給平均が81万円という給料の高さも大きいが、今回のインタビューでずばり言ってもらってわかりやすかったのが、「財布が2つある」ことのメリット。

日本でも働く女性は増えている、とは言っても、日本では男性と女性では仕事の質にかなりの違いがありますよね。正規・非正規とか、総合職・一般職とか、女性はいまだにサポート役として使われている部分が大きいために、男女の賃金ギャップに大きな違い(日本は22.52%、デンマークは4.99%)が出るのは、連載の原稿でもグラフで示した通り。だから、リデゴー氏がインタビューで「財布が2つ」と言ったのは、日本でいうところの「お父さん(大黒柱)の財布が2つ」という意味だったわけです。

これは日本とデンマークのかなり大きな違いなので、また改めて原稿としてまとめないと、と痛感した点でもあった。

デンマーク人的「税金の見方」

それから、原稿が長くなってきたので削ったのだが、リデゴー氏が言っていたのは、高い税金をどう見るか、という話。インタビューでは、こんなふうに語ってくれた。

「税金が高いのは本当だけど、税金の額だけで語ることはできないよね。それによって何を得ているのかを考えないと。スーパーに行って、かごに次々と商品を入れれば、そんなに商品を入れていないほかの客と比べたらすごく支払いは高くなる。でもそれは、その分、受け取っているものがあるからでしょ?だから、税金について語る時には、払う金額ではなく、それによって何を得ているのかも同時に考えないと」

デンマークでは税金が高い分、他の国であれば自分の財布から支払わなくてはいけないもの(高額な保育料、医療費、大学の学費など)を、自分の財布からは払わずに済んでいる。人々がどの時点で払うかの違い、ということを彼は言いたかったわけですね。他の国と比べて、手取りから払わずに済むアイテムが多いなら、金銭的な余裕も生まれやすくなる。

デンマーク人は「喜んで税金を払う」という、奇妙な人種として描かれることがあるのだが、そんなデンマーク人的な感覚についてもリデゴー氏が語ってくれていたので、少しここに書いておきたい。

「税制というのは、富を再分配する手段でもある。私があなたより多く稼げば、私はより多くの税金を納め、そのお金はあなたの子供の教育費に使われる。でもそれは、私にとってもいいことなんだ。なぜか?その子供が教育によってより価値のある存在となれば、よりたくさん稼ぎ、それが私の将来の年金として戻ってくるから。老いた私が頼るのは、あなたの子供の稼ぎなんだから」

かなり壮大な感覚ではあるが、デンマーク人が高額な税金にあまり不満を持たないのは、長い目で見れば、払った分はいずれ自分に返ってくるという感覚を持っていることが大きいのだ。

フレキシキュリティはコピーできないのか?

もう一つ、私がインタビューでぜひ聞きたいと思っていたのが、「デンマークのフレキシキュリティ政策がそんなに素晴らしいなら、なぜほかの国はとっくにコピーしてないのか?」という素朴な疑問だった。

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