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ホイスコーレと直線的でない生き方

最近、デンマークのいくつかのメディアで、デンマークのホイスコーレ(højskole)という学校に通う外国人のうち、日本人が最多となった、という話題が取り上げられていた。

ホイスコーレは成人向けの教育機関で、色んなタイプがあるが、伝統的には20代の若者たちが寝食をともにしつつ、教養を学んだり議論を重ねたりする場所。日本では、正式名称の「フォルケホイスコーレ」と呼ばれることが多いが、デンマークでは一般的に「ホイスコーレ」と呼ばれている。

2024年春の時点で、ホイスコーレに通う留学生872人のうち、日本人が167人に上り、近隣の欧州から来る留学生をしのいでトップになったそうだ。デンマークのメディアは、アジアの遠い国から多くの人々がはるばるやって来ることに驚きを込めて紹介している。ある日本人女性はインタビューの中で、「自分自身をもっと知りたかった」「日本の競争社会に疲れた」と話していた。

私自身、デンマークに来て以来、日本の方からホイスコーレについて聞かれる機会が何度かあって、日本での知名度の高さに驚いたことがある。というのも、デンマーク人の間では、ホイスコーレってそれほどメジャーな存在ではないからだ。

似たような存在の「エフタースコーレ」の方は、もっと広く浸透していて、最近は人気にさらに勢いがついている。こちらは、主に義務教育の9年生(中学3年生)を終えた後、高校に進学する前に一年間通う全寮制タイプの学校で、2024年には生徒数が32,000人に上ったそうだ。こちらについては、子どもが通っているという家族を何人も知っているが、エフタースコーレに行くと人間的に成熟する、とポジティブに捉えられている印象がある。

どちらの学校にも共通しているのは、入学試験もテストもなく、何かしらの学位が得られるわけでもなく、いわば人間形成の場となっていることだ。高校や大学に進学する前に、自分自身を知り、どういう将来を目指したいのかといったことについて、いったん立ち止まって考える場所になっている。

デンマークの人たちは、高校卒業から大学に入るまで、もしくは就職するまでに、さまざまな時間の過ごし方をする。ホイスコーレに行く以外にも、半年間ほどアルバイトをして、貯めたお金で半年ほど海外を旅行したりと、10代後半から20代前半の一時期を、ギャップイヤーとして過ごすのがごく一般的だ。日本との違いは、高校から大学、そして就職と、ストレートに進むことが、必ずしもいい選択だと捉えられていないことだろう。

ホイスコーレが日本人にとって魅力的に映るのは、自己探求に時間をかけるデンマークの文化に惹かれるところがあるからかもしれない。これまで、ホイスコーレに通うためにデンマークにやって来た日本人に何人か出会ったが、仕事や勉強に追われる日々からいったん距離を置きたい、と考えて、ホイスコーレ留学を選んだという話だった。地方都市にあるホイスコーレは全寮制で、デンマーク語ではなく英語で授業が行われる学校もあるので、留学生として英語を学ぶ場所としても魅力的なのだそうだ。

私は縁あって、主にデンマーク人が通うクリエイティブ系のホイスコーレで講演を頼まれたことがあり、学生たちと日本とのキャリアパスの違いについてディスカッションをしたことがある(この記事のトップ写真はその時のもの)。彼らの話を聞いていると、日本人とはまた違った悩みがあるんだなあと考えさせられたのだが、今回はそんなことも含めて、ホイスコーレやデンマーク人たちの直線的でない生き方について書いてみたい。

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