見出し画像

TKGブームの舞台裏・前編 〜卵かけごはんのインパクトはすごかった〜

マーケティング理論が続いたので、ここらでちょっと実例を。

T(たまご)K(かけ)G(ごはん)をご存知だろうか。
これを流行らせたのは、手前味噌だが私たちチームだと思っている。

当時、卵メーカーに勤めていた。鶏を飼って、卵をパックして売る会社だ。マーケティングチームは3〜4人(入れ替わりの激しい会社で。笑)、業務内容も、ブランディングから商品開発、販促、広告、広報とそれっぽいことは何でも。
どうやったら卵がもっと売れるかばっかり考えていた日々。

Nさんという優秀なスタッフがいて、彼が何度か「TKGでキャンペーンやりませんか」と言ってきていた。
「TKG」という言葉は、広告代理店A社が出版した卵かけご飯の本の制作チームを奥付で「TKGプロジェクト」と称していたことから始まっている。
2007年くらいだっただろうか。地方に卵かけご飯専門店がちらほらとでき始め、TKGという言葉がキャッチーだったのと、きっとA社の働きかけも良かったのだろう、TVで少しずつ紹介されるようになってきていた。

会社から卵を販売する先は主にスーパーで、営業は、バイヤーと商談してお店の棚に並べてもらうだけではなく、販促活動として売上を上げるために売場の装飾をしたり、買ってくれたお客さんにプレゼントをするキャンペーンを行なったりする。キャンペーンは全国でやる場合もあれば、地方限定、スーパー限定の場合もある。

その時点で、A社の承諾を得た上でTKGの本を活用させてもらい、個別のスーパーでのキャンペーンや売場作りをしていて評判も良かったので、全国的に展開したらどうかというのが彼の提案だった。

TKGには可能性がある。やりようによってはハネる。ただのキャンペーンのネタにして小さく終わらせるのはもったいない。タイミングが大事で、どんなに良いネタも早すぎるとうまくささらない。潤沢に予算があれば、TVや雑誌などのメディアに載せたり、イベントをやったりして、先に流行を作って仕掛けることもできるが、マーケティング予算などないに等しい会社である。世の中の流れにうまく乗らないといけない。
どのタイミングがいいのか、というのはマーケターの勘。
「まだ早いかな〜」と何度か提案を却下した。

2008年夏に、主力商品のリニューアルとTVCMキャンペーンを行って、商品の認知度がうまく上がったのだが、予算の問題でCMが継続できなかった。
何もしないとすぐに忘れられてしまう。せっかくできた認知を、お金をかけずにいかに維持、伸長するかに腐心するうちにそのタイミングがやってきた。

ブロガー900人がTKGを実食

2009年のGW直前に開催予定のサンプリングプロモーションに出たらどうか、という話がきたのである。
女性ブロガー対象に30ほどの企業が自社商品のサンプルを配るというイベントで、その時は、昼の部(主に主婦)、夜の部(主に有職女性)各450名が参加予定だった。
予算規模もちょうどよく、商品のメインターゲットは20後半〜40代主婦。一般ブロガーに書いてもらうのは商品の特性から言ってもピッタリだ。
うちの卵はこんなに美味しいです、こんなレシピはどうですか?などとやっても何の面白みもない。だったらTKGだ!!ということになったのである。

試食枠を確保し、当日は、卵1個とご飯1杯、自社商品のたまごかけご飯専用醤油1本を配布。
食べてもらいながらプレゼンした。

「皆さん、TKGってご存知ですか?
 T=たまご K=かけ G=ごはん です!!」

TKGを知っている人に手を挙げてもらうと、1割くらいだったか。ちょうど良い人数。みんなが知っていたら何のインパクトもない。誰も知らないと、流行っていると言っているのは企業だけってことになり信用してもらえない。

当時、たまごかけご飯は少々肩身の狭い存在だった。
主婦からすると、手抜きすぎで出せない。外食でもメニューにない。生で卵を食べることに抵抗がある人も少なくない。子どもの頃に食べた卵が美味しくなかったという印象が残っていたり、白身が気持ち悪いという人もいた。

TKG来始めてますよ〜、生の卵を食べるなら、安心安全で美味しいのがいいですよね、うちの卵がピッタリです!というプレゼン。

流行りの兆しを見つけて広めるのが大好きなブロガーにヒットした。

ブログから火がつく

30もの会社の商品をプレゼンされ、何を書くかは自由で、ほとんど取り上げられない商品もある中、900名のブロガーのうち、300名くらいがブログに書いてくれた。その回の商品の中ではダントツの多さだったそうだ。
TKGの力はすごかった。

多くのブロガーは、ブログに関連するリンクを貼ってくれる。
会社のHPでは、見てもらえないし、話題にもならない。リンクさえしてもらえないかもしれない。
そこで、プロモーション用に「全国のたまごかけごはん」という特設サイトをオープン。地方ごとにどんなトッピングが好きか画像付きで紹介してもらうもので、会社のロゴは入れたが、なるべく企業色を出さないようにした。
(今もまだ残っているが、少し変わってしまっている)

シンプルなサイトだったが、それが功を奏した。
わかりやすかったのだろう。サイト自体がネタにもなり、ブログのほとんどに「全国のたまごかけごはん」サイトへのリンクが貼られ、アクセス数も伸びた。それらのブログや、TKGサイトを見た人がまたブログを書いてサイトを紹介してくれた。
ブログでTKGの記事が増えたからだろう。まもなく、アメブロで「TKGのトッピング」がお題になり、一気にTKGの注目度が上がった。

そして、プロモーションから1ヶ月半、6月半ばにヤフーのトップニュースに取り上げられ、予算がなくて脆弱だったサーバーが30分で落ちた。

その後は、オンラインオフライン共に多くのメディアでサイトが紹介され、社内でわずかながらサイトの改修費用も認めてもらえた。
予算がなく、最初は順位の入れ替えなど、手入力だったのだ。

じゃあそれで卵の売り上げが増えたのか、と聞かれるとそこはちょっと難しい。
卵は、需給バランスで相場が大きく動き、10円の差で売れ行きが大きく変わる。キャンペーンの効果があったとしても測定は困難だ。好感度や認知度の調査はお金がかかるので承認されない。
ただ、メディア露出を広告費で換算すれば1,000万円以上になったし(ちゃんと計算してないけど)、全国でのプロモーションや売場作りに繋げるなど、営業には活用してもらえた。マーケティングチームは武器職人なので、営業が戦いやすくなって成果を上げてくれればそれでいいのだ。

成功のポイント

少々古い事例で申し訳ないが、TKGブームは、過去の私の仕事でも大成功例の一つであり、参考になるところがあると思って書いてみた。

私がやったことは、
・タイミングを見計ったこと
・企画の統括(社内の説得・調整が一番大変)
・当日のプレゼン(喋るのがNさんよりうまかった。笑)
という、リーダーとして当然の役割だけである。

TKGを見つけてきて、却下しても諦めず、実務までパーフェクトにやってくれたNさんが最大の功労者だ。更に、他のメンバーの協力、ちょうど良いタイミングでプロモーションの提案をくれ、イベントでサポートしてくれた代理店の方々、素晴らしいアイデアでサイトを作ってくれたWeb制作会社チームの力があってできたこと。

それ以前に、TKGという言葉を作り、仕掛けていた人たちがいた。
卵かけご飯専門店の増加やTV等メディアの露出でブームが生まれる条件が整ってきていたタイミングを私たちがうまく利用し、火をつけられたのだと考えている。

こうやって、TKGブームが生まれた。
あくまでも私の視点だが、そう捉えている。

サンプリングプロモーションをやる時は、ここまでうまくいくとは考えなかった。効果を最大化するために、出来る限りのことをやっただけである。

本当にうまくいく仕事は、全てがピタッと当てはまるように思う。
絶妙なタイミングで役者が揃うのだ。仕事がその成功のために必要な人を自ら集めているんじゃないかとすら思う。環境が整い、呼ばれた人間は自分の果たすべき役割を粛々と全うするだけ。そして、チームワークがいい。世の中の流れも味方についてくれる。
天の時という言葉があるが、機が熟していない時に無理に動かそうとしても動かない。無理にやると、せっかくの芽が潰れてしまうこともある。待つことが成功への近道のこともある。

まあ、こんなにうまくいくことなんて滅多にないのだけれど。

TKGの舞台裏には、もう一つ、商標の話があるのだが、長くなるので次回に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?