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勝手にチャレンジ1000 0089ネオ時計・くり時計

 我が家のニューフェイスくりのすけ(本名マロン)のことは書いたので、先住民のネオのことも書いておこう。
 ネオは当時の飼い犬ジョンが朝の散歩の途中で見つけた。
 子猫がいたよ、と、夫が言うので見に行ったら、一匹で川土手の草むらにうずくまっていた。近くに親がいるかも、と、その時はそのままにしておいたが、お昼、末っ子ともう一度見に行ったら、やはり朝見たところにいて、わたしたちに気づくと、ヨロヨロと立ち上がり、気丈にも威嚇してきた。野良の矜持というか、人の世話にはならない、といった風情で立ち去ろうとするのだが、もう、どう見ても痩せて衰弱して今にも倒れそうだった。親について行けなかったのか、親が寄らなくなったのか、かすれた声でにゃーにゃーいうのをタオルでくるんで獣医に連れていった。

 獣医では脱水症状と言うことで点滴を受け、鼻を拭いてもらったが、ちょっと危ないかも、といわれ、悲しい気持ちになった。受付でどうします?病院で預かって里子に出しましょうか?と聞かれたので、うちに連れて帰ります、といって連れて帰ったのだった。

ネオは最初ネコだった。
家に帰ってから、順調に回復して、鼻づまりで毛の生えた小さな塊から小さな猫になって、再び獣医に行った時にお名前は?と聞かれて、末っ子が、ネコ(子)です、といったところ、「この子男の子ですよ」といわれ、「じゃあネオ(男)で」と。だから、ネオは救世主のネオというわけではないのである。
   こうして我が家の一員になったネオは、先住犬のジョンになつき、レースのカーテンをよじ登り、カーテンレールの上でフリーズしてレスキューということを何度か繰り返し、やがてカーテンレールの上は歩けないほど大きくなり、どちらかと言うと、大きくなりすぎて、部屋でもっとも高い場所であるピアノの上は、軽々上れるのに降りるときは私の肩を貸し、ネオを背中に乗せたまままま屈み、高度が低くなったところでエレベーターから降りるようにぴょんと降りて着地する、と言う乳母日傘ぶりとなった。うちは古い家でリビングの壁はビニール素材の壁紙ではなく、漆喰の壁に天然素材の繊維を編んだ壁紙が張ってあったのだが、ピアノの接している壁と、ソファの接している壁は、ちょうどネオの手が届く範囲が、もあもあと、帯のようにほぐれていった。

 ネオは茶色いトラジマで、足先が4本とも靴下を履いたように白い。肉球も4つとも全部ピンクで瞳は金色がかった緑だ。ずっと犬を飼ってきたわたしたちは猫が無臭であることに驚き、その糞の臭気に驚き、散歩不要の楽さに驚きつつ、家を犠牲にして暮らした。ネコはしつけられないと思っていたからだ。
 やがてジョンが亡くなり、ピアノを実家に戻して、壁紙を張り替えた。ピアノがなくなって、高いところはソファの背中しかなくなってしまった。ネコタワーは好きではないらしい。   「ネコはわかるわよ」と、猫飼いの先輩である友人が、猫は、ダメ、というとやっていいことと悪いことがわかるようになる、というのだ。悪いことをしそうになったら、うちの場合、壁に爪を立てそうになったら、静かにダメよ、といってやめさせるとしないようになる、と。
そんな簡単なこと?
友人曰く、静かに、普通の声でダメよ、と、言う。大きな声をあげたり、脅かしたりしてはダメだと。
果たして、ネオは壁に爪を立てなくなった。
猫はわかるのだ。
ちゃんとやってよいことといけないことをわかっていて、何か悪さをするときは悪いこととわかってやっているのである。ネオはときどき、こちらをうかがって、そっと壁に爪を掛ける仕草をしていたが、やがてそれもやらなくなった。

 ジョンがいなくなって寂しくなりはしたが、リビングは一匹で占領し、我々の関心も一身に集め、ある意味我が世の春、否、夏であり秋であったところにある日くりのすけがやってきた。リビングはすっかり赤ん坊犬くりのものとなり、私も実家に泊まることが増え、きっとストレスフルなことだろうと思うが、これが至って大人の対応で、時に近づきすぎるくりのすけにネコパーンチ!を繰り出したりしながら我々にはさほど面倒も掛けず淡々と暮らしている。ネオちゃん!いつのまにそんなに大人になったの!と、愛おしいやらありがたいやらで、ネオの株は上がる一方であった。
日頃我慢させることも何かと多いので、私のいる夜は、リビングのとなりの部屋で、ケージてはなく、私と一緒にベッドに寝る。ネオもそれを喜んでいるように思えていた。

 ところが、ある頃から、ネオと私の至福の時間を乱すものが現れた。くり時計である。夜中や早朝にくりが吠え出すと仕方なく起き出す私を、ネオは恨めしそうに目で追う。こうしてネオと私の蜜月は終わり、後朝の別れとなる。私の胸にまたまたネオに対する申し訳なさと愛しさが募る・・・というお決まりの流れが、最近はちょっと違ってきた。くりが吠えるとネオも鳴き出すのである。くりに負けじとかなり激しく。
ネオは大きな音が嫌いで、私が静寂の菜かでくしゃみをしたりすると、たしなめるかのように、ニャッと、鳴く。そういう意味で、朝からうるさいくりに堪忍袋の緒が切れて、うるさーい!子供!鳴くにゃ!とばかりに鳴いてるのか?それとも私に、おかあしゃん行くにゃー!行かにゃいでここにいてにゃー!と鳴いてるのか?

くり時計に負けじと鳴り出すネオ時計。わがまま小僧ワンコに、こうなったら先輩にゃんことして黙ってはいにゃいぞ、とばかりに精一杯叫んでいる。二匹の掛け合いに私はすっかり目が覚めて、早すぎる朝の支度を始めるのだ。

 その後、今のところ、ネオには超早朝朝ごはんにするということで手を打ってもらっている。カリカリを入れたお皿と共にケージに入ってもらい、私はくりのもとに行く。
なんか、結局我慢させてしまって申し訳ないな、と思っていたが、最近では、ネオも心得たもので、くりがくーんと一声出し始めると、はい、ごはんですね、と、にゃーと言いながらベッドから降りてケージの前でスタンバイ。
そのにゃー、は、ごはんですにゃー、か?朝だね、小僧のとこに行ってらっしゃいにゃ、か?
わがままは言わない。すっかり大人のネオである。
 そういえば今年で9才か。いつまでも見た目は箱入りぽっちゃり王子のネオ。ソックス履いて、ピンクの肉球のぽっちゃりおじいさんとして、いつまでも仮寝の宿りを楽しむ仲でいたいものだ。













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