PAT Company「眠れぬ森のオーバード」感想
ずっと楽しみに待っていた公演!千秋楽の配信公演を視聴しました。
前作「GOOD EVENING SCHOOL」のBlu-ray先行でチケットを取っていたのですが、緊急事態宣言の関係もあり残念ながら会場を訪ねることはできませんでした。
それでもどうしてもこのミュージカルが見たい!と強く願っていました。途中で公演が続けられなくなってしまう舞台も散見されるような大変な状況下で、最後まで無事に完走できたことを本当に本当に嬉しく思います。感染対策にご尽力くださった制作スタッフの皆様、キャストの皆様、会場に行かれたパトカン社員の皆様の努力あってのことだと思います。本当にありがとうございました!
<⚠️以下、ネタバレありの感想です>
「市民論」の一節から静かに入っていく感じ、何となく前回のGESを思い出しました。あ、心さんの物語が始まる、と感じさせるスタート。
そして続く亡霊の歌声で一気にミュージカルの世界に入っていく感覚。周りの空間が一気に組みあげられていくような、歌の力の凄さを感じました。
全員で歌うとより一層すごい!鯨井Pの言っていた「色気のある歌声」という意味がよく分かる。皆違う声質だけれどぴったり填まるような調和がめちゃめちゃ美しい…!ワルツのような躍りも指先まで美しくてドキドキ。歌、振付、照明の力が演者さんたちの美しさを更に一段二段パワーアップしてくれている感じがして、チームで作ってる演劇の強みを感じました。
はじめの15分ほどで畳み掛けるようにミステリーもののお約束を済ませちゃうのもすごい。歌にあわせてテキパキと展開していく様が軽快で、容疑者の自白も切ないけれどあっさりと片付けられていく。
自白の歌のショウゴの声の翻り方好きです。12年前…というフレーズに、船越英一郎さんと崖の図が頭を過った(議事録#3参照)
ここからがいよいよ「事件の後」にスポットを当てた物語のはじまり。
キレたおしてるリンちゃん、マイペースモエちゃん、業界人オーラ半端ないアヤセさん、神出鬼没ミキティ。この時点でもう個性がすごい!
アヤセさんのソロ曲は結構ズバズバ痛いところを突いてくるような毒気のある歌詞で、ここにも心さんぽさを感じました。毒気とはいいつつもカラッとお洒落で嫌な感じにならないのは舘さまの力なんでしょうか。すごい。カッコイイ。リンちゃんぶん投げてても許せちゃうかっこよさ(笑)ジャズっぽいメロディー超似合う!
場面かわって一人で心細そうに歌うモエちゃんの可憐さ。儚い。明るいシーンを挟んで話は賑やかに進んでいくけれど、時々こういう苦しさ心細さに一気に引き戻されるのが不安ごとを抱えているときのリアルな感じだな~と思いました…
そしてナイフを見つけちゃったホムロさんの狼狽っぷりがすごく心さんらしいセリフ回し!静かなモエちゃんの独唱から段々心拍数が上がっていって、次のワトちゃんの歌に繋がる疾走感、好きです!
ワトちゃんの歌はボリウッド映画みたいなメロディと振付がエネルギッシュで大好き!音楽にしても振付にしても本当に幅が広くて驚く。テーマがテーマだから神妙になりがちな本筋をこういう音楽でパッと明るくしてくれるのいいなあ~~と思いました。そしてミキちゃんリンちゃんの声色や表情よ(笑)探偵物語からおしりたんていまで幅広く押さえていてニヤリとしました。ホムロさんのプレッシャーやばい。
そして空き部屋を開けられそうになったミキちゃんの咄嗟の奇行がめちゃくちゃ怖い。殺人があった屋敷で夜を過ごしている中、いきなりあんな錯乱されたら怖くて泣くよ!!あまりの勢いに笑いましたが!初見時にはなぜあんなことになったか分からずただ恐怖でしたが、繰り返し見てるとマズイぞ…っていうミキちゃんの表情の変化が楽しかったです。あの停電ってミキちゃんがなんか仕込んでたんかな?偶然?
そして亡霊さんのロンドン橋は頭から離れないくらい印象的。いまだかつてあんな格好いいロンドン橋あっただろうか?歌の凄さに圧倒されればされるほど笑えるという…。す、すごい!!という気持ちと何これ?!という堪えられない笑いで画面の前でニヤニヤしました。2つ以上の強い感情が同時に出てくるとパニックになりますね。
そして亡霊パニックから間髪入れずにやってくるサカヤパニックにも笑いました。登場シーンが好きすぎる。ガタイが良い分怖い!ギャーーーってなりながらも頑張って応対してるホムロさんと、そこは守ってやらんのかいというワトちゃんが可愛かったです(笑)そしてサカヤさんが脱ぎ出した後、いろいろ開花したリンちゃん。序盤はイライラしつつも常識人側にいた彼女が本領発揮して輝く様が素敵。かちさんの体と喉の負担、絶対えらいことになってるよなあと思いつつもそれを忘れさせてしまうくらい輝いて全力で楽しそうなんですよね!好きだ〜。
ミキちゃんの性別の謎にそっと触れてくれるモエさん…モエちゃんには男性に見えてるってことですよね…誰も特に触れないのでその辺どうなってるのかと思っていたんですが、今後もミキちゃんという存在のもつ謎は謎のまま解かれずにいてほしいな。(今後も出てくるテイで語る)
名探偵の推理が外れた!となってからの怒涛の展開、改めて見ると焦っているかのようなスピード感。犯人はあなた!って指差すのは四人だけなんだね(ミキちゃんは見てるだけ…)
「刺される」と言う噂の2幕頭。美しく優しいメロディが流れ、どこに向かっていくのかと思ったらサカヤがまさかの姿で登場して吹きました。そのまっすぐな目は何!?誰よりもめちゃめちゃ嬉しそうなリンさんが輝いてます。
見えないものはないのと同じでしょう、正義は誰かが後から決めるから、など時々刺さってくる歌詞が印象的でした。
マッチョ…いるだけでおもしろいな…
褒められれば鼻が高くなり嵌められればしょげるホムロさんの素直さ、変わった人の多い作品内で気持ちを寄せやすい存在でホッとします…。しょげてしまうホムロさんと、頑なに「僕の考えは絶対に正しい!」と譲らないワトちゃん。それでも歌って思い出を語り合っていくうちにまた向き合えた二人の笑顔が尊い。
「運命の選択間違えてもまた何度でも裏返せばいい」って言うのも優しいメッセージですよね。そして作品の結末のことを思うとなんだか意味深。。(ちなみに川底に沈んだ一枚のコインを必死で探すって言うのが無実の証明になる、って言うのは何か元ネタがあるんでしょうか?)
そして倉田のよっちゃんを呼んでずらかろうとするミキちゃん!ミキ・亡霊ラインのコミカルさ、癖になりますね!亡霊として出てきたときの迫力が倉田になった途端まるで無くなってオーラが全く変わってしまうのがすごい。笑
そして荒れているリンちゃん。自分と関係をもつ男はどうせ既婚者か彼女持ちだって聞かずに思い込んじゃってやさぐれたのかな…。ここまで度重なる奇行で皆をおののかせてきたミキちゃんですが、ここにきて振り回されてオロオロしているの新鮮でいいですね!
リンちゃんの歌、まじで魅惑のかちひろこすぎて衝撃でした アモーレ… うま美し面白い 全部のせすぎない?
そしてすぐ自分の名前に反応しちゃう倉田さんの可愛さ。呼ばれると我慢できずに飛び出ちゃうんですね!私の名前はクレタ 倉田じゃない~♪となってからのもうめちゃめちゃな感じ好きです。ドロヨツってあだ名もすごい…原田さんあんなに品のある人なのにドロヨツって…今作の原田さん、ギャップで笑かしにくるのがすごい
わちゃっとコミカルなシーンが続いた後、静かに始まるひばりの歌で空気が一度取り替えられる感じ。いくら楽しげにワイワイしていても根本的解決をしていない以上、ふっと不安に引き摺り戻されてしまう感じリアルですよね。
いよいよフィナーレでモエちゃんへの引導を渡そうとする場面…事実に気づいてしまってもどうしてもモエちゃんをかばおうとしてしまったり、元カレか!?としつこく気にしたりするホムロさんの人間くささは愛おしいですね。犯人の独白シーン、大事な人を庇おうとする人たちの愛情が悲しい。。行動は間違っちゃっているけれど皆優しい人なんですよね。あと独白する曲のアレンジが人によって違うのいいなあ!そしてドロヨツは歌がうますぎるからこそ笑えて仕方ないwww
ワトちゃん、狂気…って思ったけど、狂っていると言うよりはまっすぐすぎて頑なすぎた、アリの巣に水を入れちゃった子どもみたいな印象になりました。こんなことになると思わなくて、引っ込みがつかなくなって怖くなっちゃったんだよねと思うと悲しい。受け止めてくれるホムロさんになんだか母性のようなものを覚えました。ここまで事実を明らかにすることにこだわり続けていたホムロさんが庇うことを選んで犯人側に行ってしまったことは、どう捉えたらいいのか…見終えてからも胸にもやっと残りました。道を踏み外してしまったんだろうけれど。何が正しいのかなとか、そもそも正しいってなんだろうなあとか。答えは出なくてもいいのかもしれませんが。
また「朝までどうしようか」に戻り、開き直った狂気というのか、空元気というのか…どこか不気味な明るい空気の中で流れる最初の曲のリプライズ。GESの「カエルの子はクジラなの」を思い出しちゃうような悪夢感!すご〜く怖いんですが印象的で忘れられない画でした。佇んでいるホムロさんの迷子みたいな心細そうな目。。そして運んでるシーンかなり怖い。
最後のシーンでは冒頭と違ってブレーキきいて止まれたけれど、結局行くんだよね…。どうなるんだろう。ブレーキは皆が何か少しずつ思い止まれることの象徴だったらいいなあ。この辺の解釈は観客に委ねられているのかな。次こそ少しでも明るい結末になってほしいです。
今回なんといっても歌が印象的でした。
繰り返されるフレーズに感じる祈り。物語が終わった後も何度も口ずさみました。大丈夫、大丈夫、全てうまくいく、大丈夫…。不思議なもので口に出して自分の耳で聞くと、逸っていた気持ちが少しずつ落ち着いてくるんですよね。物語の世界から現実に戻ってきても、この言葉のもつ優しくて力強い祈りに助けられています。
心さんがインスタに書かれていた脚本家としての思いを読んで、以前の会議(議事録#4)で「ある問題をテーマとして取り上げたときに、どこまで自分たちがその問題に責任を持てるのか」と言うような話になったことがあったなと思い出しました。
今回の作品は「希望の物語」である。 という心さんの言葉。
コロナ禍の世の中、どうしようもない問題を解決する特効薬的な方法があるわけじゃないけれど、大丈夫全てうまくいく、という優しいメッセージを力強く繰り返してくれて、どんな中でも笑いのある明るい雰囲気を前面に持ってきてくれる。これがパトカンの答えなのかなあと私は受け取りました。
「作品の表面に見えてなくてもいいけれど、テーマに対する責任はちゃんと背負っておきたい」と言っていた製作陣の誠実さを感じ取れたような気がします。
今、見れて良かったなあ。
身動きが取れない状況にある人にこそこのミュージカルが届いてたらいいなあと思うので、配信を決めてくださったことの意味がすごく大きかったと思います。ありがとうございました!
第二回公演を終えた今、今後のカンパニーの行く先が楽しみです!眠れぬ森のオーバードの裏話や設定も聞きたい(#22で言われていた登場人物の名前の由来とか)し、また初期の頃のようにものづくりについて話し合うPAT4も見たいです。楽曲解説も聞きたい!
第一回公演が決まって以来走り続けてきっぱなしだった皆さんを思うとしばしのんびりしていただきたいな、と思いますが、それはそれとしてまた会議が聞ける日を心待ちにしています。
鯨井Pが西麻布の窓際で「俺もここまで来たか…」って言ってくれる日を夢見て。(議事録#4より)(ビジネスジャンプか!)