2020/5/4 監視対象
お昼のスパゲティを皿に盛って、さあこどもたち、食べるわよ!というタイミングでベルが鳴った。住まいに直接やってくる客など飲料水の配達人しかいないのでちょっと怯えながら「誰?」と娘と顔を見合わせる。
のぞき穴を見ると、三人の男性。アパートメントの管理会社の顔見知りの人だったので、扉を開けて挨拶する。
「奥さんが雇っている運転手が、コロナ陽性の疑いで入院をしているようです。最後に会ったのはいつですか?」
うちでは在宅開始以来ずっと運転手にも在宅をしてもらっていたので、3月中旬から1か月半以上会っていない。先月末あたり、ちょっとたまには車のエンジンをかけてもらったり、洗車したり、車両税支払いの手続きをするのに一旦来てもらおうか……と思ったが、家がけっこう遠いし、下手に外に出させて何かあっても嫌だからやめておいたんだった。
なぜその情報が管理会社経由で入って来たかというと、どうやら運転手仲間の間で連絡をとりあっていたらしい。彼らが口にする運転手の名前が私の知っているものと違うので、本当にあの人?と思って写真を見せてもらうが、マスクで目元しか見えない。似てはいるけど、このくらい似た人って普通にいるよな、という程度でなんとも確信が持てない。
しかし、こうやって接触のある人を確認していくのだな。彼らいわく、ここのアパートメントではまだ陽性は出ていないらしい。
3人を見送ってから、すぐに運転手にWhatsappメッセージを送った。
「そうです、PDPで入院しています。どこにも出かけないでずっと家にいるのに、なんでこうなるのかさっぱりわかりません」
PDP:Pasien Dalam Pengawasan (監視対象患者)
ODP: Orang Dalam Pemantauan(観察対象者)
ジャカルタ特別州のホームページによると、PDPは①38度以上の発熱②上気道感染症があり、かつ肺炎の症状と感染者との濃厚接触か感染国への渡航歴のある人。ODPは①と②に該当するが肺炎の症状がなく、感染国への渡航歴のある人とされている。
保健省の統計では21日時点でPDPは1万6763人、ODPは18万6330人に上るが、いずれも死者数は明らかにされていない。
両者はPCR検査を受けていないか、受けたとしても検査結果を待っている状態にあるため、新型コロナの感染は確定していないが、IDIのスラマット・ブディアルト副会長は「PDPの70~80%が感染していると思われる」と指摘している。(2020/4/22 じゃかるた新聞より)
話を聞いてみると、つまりこういうことだ。喫煙者の彼はどうやら激しい咳をしていたらしく、家に小さな孫もいることだし、万が一のことがあったらいけないからと町内会長に促され、病院に行ってレントゲンを撮った。結果、肺に斑点がみられた。発熱はないが、病院(RS Persahabatan)でPDPとして14日間隔離決定。
「頭にきちゃって。医者に怒りましたよ。コロナらしい症状があるわけでもないのに!」
お医者さんは今大変なんだから、そんなに怒るものではないですよ、と伝えたけれど、「単にたばこのせいですよ!」と怒りはおさまらない。いやいやいや、コロナじゃなくても十分悪い病気にかかっていやしないか。
陽性かどうかの結果が出るのがずいぶん先で、14日後とのこと。現時点で2日目。陽性と確定したら、クマヨランにあるアジア大会の選手村として建てられた施設に移されることになる。
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実は、彼についてはもともと6月までで解雇する予定だった。次女の中学校送り迎えのためだけに雇っているので、今後スクールバスがある高校に移ったら車も手放す予定だ。それについては本人にももう話してあるし、退職金も先に払ってある。来週は、断食明け大祭ボーナスを予定通りお支払いする。運転は決してうまくはないし、道はあまり知らないが、朝はどんなに大雨でも遅刻はない、正直でよい人というのはなかなか見つけられない。うちの次女のことも「もう孫みたいに思ってますよ」とすっかりおじいちゃんなのだが、実は私より3つしか上じゃないのが判明したときはかなりショックであった。
陰性であることを願うが、肺の斑点問題もしっかり解決して元気になってほしい。