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第2回:誰が、なんのために海外公演を行うのか

突然ですが、皆さんが舞台公演に足を運ぶ目的は、なんでしょうか?「出演している俳優さんのファンだから」「舞台上で繰り広げられる非日常的な世界に没頭したいから」など様々でしょう。

では、皆さんが足を運ぶ舞台公演の主催者が公演を行う目的は、なんでしょうか?おそらく多くのお客様は、主催者の目的など考えずに、純粋に舞台公演を見ることを楽しんでいらっしゃると思います。今日は「誰が公演を行うのか」を見渡すことからスタートし、海外公演を行う目的について整理していきたいと思います。

■誰が、なんのために公演を行うのか

観客が舞台公演に足を運ぶのは、あるいはもっと踏み込んだ言い方をすると舞台公演のチケットにお金を払うのは、舞台上に登場する人や世界を味わうことが目的といえるでしょう。そのことと表裏の関係として、公演を行う側、つまり主催者は、舞台上に登場する人や世界を披露することが目的で公演を行います。

では、舞台上に登場する人や世界を披露することの目的とは、なんでしょうか?なんだか禅問答みたいになってきましたね。公演を見た観客に、どんな感情や思考を抱いてもらいたいのか、どんなことに関心を持ってもらいたいのかは、公演を行う目的に直結します。それは公演ごとに異なりますが、誰が公演を行うのかによっても異なります。

例として、「花王ファミリーコンサート」を見てみましょう。

花王株式会社は日本では知らない人はいない大手の化学メーカーです。その花王が日本各地でコンサートを主催していることをご存知ですか?

https://www.kao.com/jp/corporate/sustainability/society/community/family-concert/

ウェブサイトではコンサートの目的について以下のような説明があります。

「2002年より、事業場立地地域で、地域の方々に質の高い音楽に触れる機会を提供し、音楽や芸術を楽しんでいただこうとコンサートを開催しています。このコンサートは、地域貢献と文化支援、社会支援を融合した花王ならではのプログラムで、企画から当日の会場整理、会場アナウンス、切符切り等の運営はすべて社員の手づくりで行なっています。また、チケット収入は、全額、公演開催地域の音楽教育事業などに役立てていただくよう寄付しています」

全国各地の花王の工場がある地域で、アーティストを招いて、社員手作りのコンサートを開催し、売り上げを地元の音楽教育のため寄付しているそうです。花王は企業の目標として掲げるサステナビリティを叶えるためのESG(Ecology・Society・Governance)戦略に基づき地域貢献活動の一環としてコンサートを行なっているのです。化学メーカーとしての一義的な役割を超えて、持続可能な社会を築くための活動として、地域の観客に豊かな芸術を届けていると言えます。

■誰が、なんのために海外公演を行うのか

では、多くの観客が外国人であることが前提の海外公演はなんのために行うのでしょうか?企業としての花王が、自社工場のある地域の住民に持続可能で豊かな暮らしを届けているように、日本の誰かが外国へ行って、現地の人々の豊かな暮らしを叶えるために行うのでしょうか?結果としてそれも目的の一つになり得ますが、実は海外公演にはもっと様々な理由や目的があります。ここでは3つに大別して触れて行きたいと思います。

①アーティスト自身が目的を持って行う

アーティスト自身が、自らの表現をより多様な観客に向けて発表し、自らの芸術的な思考や技術の先進性・普遍性を異文化環境で投げかけることで、現地の人々を啓発し、またアーティスト自身が観客の反応から新たな知見を得るための海外公演。「アーティスト自身が」といっても、もちろんアーティスト自身が身銭を切って渡航し、会場を確保して、そこで待っていると観客が来る、というわけではなく、現地の劇場やフェスティバルのプロデューサーなどがファンディングしたり、会場提供することで公演が実現します。ですから、アーティスト自身が経済的な目的を持って作品を提供する市場を海外に求めているということにもなります。

②日本の国、自治体など行政機関の目的に基づいて行う

アーティストなど表現者自身ではない主体が目的を持って、海外公演を行うこともあります。代表的なものとしては、国や自治体など行政機関で、これには政策的な目的・それに基づく公的な予算が伴います。

日本では、いくつかの省庁で舞台の海外公演を主催したり、助成金を出したりしていますが、その目的は各省庁ごとに異なります。一例を挙げると

◉芸術文化振興基金(文部科学省所管の独立行政法人日本芸術文化振興会が設ける基金)

文化庁と並んで、日本の文化振興を担う行政組織です。「文化芸術振興費補助金(国際芸術交流支援事業)」という助成金を設け、日本のアーティストの海外公演や、外国のアーティストの招聘公演、国際舞台芸術フェスティバルなどを支援しています。

目的:我が国の優れた芸術文化の海外発信/国際文化交流の推進/我が国の文化拠点である劇場・音楽堂等が行う実演芸術の創造発信や人材養成・普及啓発等


◉国際交流基金(外務省所管の独立行政法人)

目的:少し硬い表現になりますが、法人設置の根拠となる法令「国際交流基金法」にはその目的が以下のように書かれています。

「国際文化交流事業を総合的かつ効率的に行うことにより、我が国に対する諸外国の理解を深め、国際相互理解を増進し、及び文化その他の分野において世界に貢献し、もって良好な国際環境の整備並びに我が国の調和ある対外関係の維持及び発展に寄与することを目的とする」

芸術文化の振興それ自体というよりは、文化芸術を通じた良好な外交関係の樹立が目的です。組織の紹介ページでは、これを平易で親しみやすくし「日本の友人をふやし、世界との絆をはぐくむため、「文化」と「言語」と「対話」を通じて日本と世界をつなぐ場をつくり、人々の間に共感や信頼、好意を育んでいきます」と表現しています。

文化事業部門における全般的な活動や、「海外派遣助成」「アジア文化創造協同助成」など助成事業で海外公演を主催・支援しています。

◉クールジャパン機構

「日本の魅力ある商品・サービスの海外需要開拓に関連する支援・促進」を目指し、設立された官民ファンドです。株式会社ではありますが、海外需要開拓支援機構法という特定の設立根拠法が存在し、また出資金計863億円のうち政府出資が756億円を占める、公的意義の高い組織です。クールジャパン機構を通して出資金を日本文化発信を行う事業会社等に出資しています。個別の公演に出資するというよりは会社設立などより大きな規模の事業への出資が中心のようです。


目的:ウェブサイトでは「コンテンツ、ファッション・日本食をはじめとする衣食住関連商品、観光、サービス、先端テクノロジー、レジャー、地域産品、伝統産品、教育等の日本の文化やライフスタイルの魅力を付加価値とし産業として発展させ、海外需要の獲得(アウトバウンド)及び日本国内への取り込み(インバウンド)につなげ、日本の経済成長の原動力にします」と書かれています。

③日本関連のステークホルダーが目的に沿って行う

諸外国における日本文化・日本社会への理解を深めることで、現地での日本関連法人、個人の活動を有利にする。

例:ジャパン・ソサエティ・ニューヨークや、海外に工場を持つ日本の大手企業など、各大学の日本語教育コースなどです。

https://www.japansociety.org/


長くなったのでそろそろ終わりにしますが、海外公演は決してアーティストだけでおこなう活動ではなく、様々な主体が実現したい目的に応じて行うものであり、その目的によって、公演内容もそれぞれとなる、ということを覚えておいていただけたら幸いです。

次回は海外公演の実務について書きたいと思います。


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