第1回:海外公演とは
海外の景色や、華麗でにぎやかな劇場の様子をお伝えしたいところですが、初回は個別具体的な話ではなく、「海外公演」とは何か、その目的や実施理由など、仕事の対象としての海外公演について、整理しながら書いていきたいと思います。
■「公演」とは
公演という言葉を耳にしたことのないと思いますが、その言葉の意味をあえて言葉にしたことがある人は少ないかもしれません。まずはコトバンクから。
演劇やダンスなど「舞台芸術」は、誰もが一度は体験したことのある芸術様式かと思います。歌舞伎、能、落語などの古典芸能から現代演劇まで、バレエやコンテンポラリーダンスから日本舞踊や民俗芸能まで、舞台上で披露されるパフォーマンスは、古くから今日までポピュラーな娯楽として、たくさんの人々が集まり鑑賞を楽しむ機会を提供されています。また観客としてだけではなく、プロのパフォーマーとして、あるいは小学校の学芸会や部活で、本業の傍で、舞台に立つことを楽しんでいる人は数多くおり、舞台表現を見ること/舞台表現をすることは、共に私たちの生活に様々な形で作用しています。公演とは、同一の場で「見る人」「見られる人」の存在する環境や、そこで行われるパフォーマンスのことだと私は捉えています。同時に舞台芸術がこのような前提を乗り越えてなお人々を魅了する表現として更新されていくことを、常に期待しています。
他にも様々な芸術や表現がある中で、舞台芸術は「場」が規定されることが前提となります。美術や映画とはちがい、鑑賞者の目の前で作り出され、披露される身体的、視覚的、音楽的、言語的な表現を通じて、表現者と観客の間に文化的、芸術的、娯楽的な対話を生み出したり、一定の、あるいは多様な思考や感情を抱かせたりする活動。それが公演です。
この公演は、舞台上で行われる表現が全く同一のものであったとしても、「どこで」、「誰が誰のために」行うのかによって、性質が全く異なってきます。
■「海外」での「公演」
海外に仕事の場や対象を求めるということは、自国から外国に足を運んで、価値を届ける活動に従事することを意味します。自分のいる場所から、遠くに行って表現することで、異なる文化的背景から生み出された舞台芸術を届けるのが、ツアー公演です。
その中でも海外公演は、外国に赴いて表現することにより、異なる言語、文化、週間、歴史観、経済的背景を持つ人々と、思想や技術を共有する活動と言えます。表現者から観客へ、一方的に表現を届けているだけではなく、観客から生じるリアクションにより表現や作品そのものに新たな価値が生じるという観点からすると、海外公演は、より遠くの、より異なった環境にいる表現者と観客を結びつけるという意味で、表現や作品をより大きく成長させ、付加価値を与える活動となります。
■今日の海外公演
このように公演は、「同一の場」「観客がいること」を前提とする活動であることから、新型コロナウィルス感染拡大環境下では、実施が困難となることは、ご存知の通りです。加えて、海外公演は、人、モノの移動、いわゆる「モビリティ」が制限された状況では成立せず、現在おそらく舞台芸術の海外公演は世界中で一つも行われていないことが想像に難くありません。
他方で動画のインターネット配信など、パフォーマンスを届ける技術はかねてより発達し続けて、今では海外にいるアーティストの表現を自宅で鑑賞することは当たり前になりつつあります。果たしてポストコロナの時代に「海外公演」は再び必要とされる日が来るのでしょうか?
この問いの答えを探しながら、引き続きnoteを書き進めていきたいと思います。次回は「海外公演の目的」についてお届けする予定です。