書評 苦しかったときの話をしようか
著 森岡毅 版 ダイヤモンド社
言わずと知れた、USJをV字復活させた伝説のマーケター。森岡毅氏が大学生となった自分の娘に語ったキャリア論。いわば森岡家の私家版教育論。 マーケターとして実務の中に身を置いて戦いきってきた、森岡氏だからこそ言い切れるきれいごと一切抜きのキャリア形成の書であり、自分を成長させたいと願う人に向けた世界認識のお作法の本。最終章の、キャリアのスタートとなった米国P&G社での壮絶な経験とその向きあい方は学びに満ちています。今さらキャリアではありませんが、私はこの本を自分自身を本質的にUPDATEするための考え方をインストールするために読みました。
モノゴトを考えるときの前提「構造」を知る
森岡氏によれば、資本主義の本質は人間の欲であり、資本主義は人間の「欲」をエネルギー源にして、人々を競争させることで社会を発展させてききました。もっとシンプルに言えば、サラリーマンを働かせて、資本家が儲けるという構造をもった社会。そしてこの資本主義社会は、無知であることと愚かであるものから罰金を科す社会のこと、と定義されています。そして経済の格差は知力の格差の結果であるとも。
パ―スペクティブとはその人が「認識する世界」のことで、サラリーマンにどっぷりつかってしまうとサラリーマンとして認識できる世界しか知らないことになってしまう。自分が認識する世界の構造をしり、自分の周りにあるそれ以外の世界を認識することは選択しを増やすことにつながります。
資本主義社会の愚か者とは
愚か者とは、欲しい情報がすぐにネットで検索できる時代にあってネットにただ転がっている情報をただ拾うだけの人間や、検索してヒットしなければ即「情報がない」と騒ぐ人間を指しています。
彼が定義する情報とは、事実やデーターをを己で集めて、己の知性を駆使して投合・推理し生み出す付加価値をさしています。
知性とは自分の力で手掛かりを集めることから世界の成り立ちを知ること
魔法の質問未来の自分はどんな状態ならHappyなの?
森岡氏も未来を考えるときは、具体的なモノからでなく、状態から考えレイヤーを落としてゆくことを提唱されています。確かに具体的な何かを積み上げるのではなくHappyな状態を感じ、それに肉付けをしてゆくほうが、限定されずに思考できます。同時にその状態の定義づけを行いながら、具体化してゆく。このプロセスを繰り返すことでやりたい事とその実現プロセスが輪郭を表してきます。
失敗をしない人生そのものが、最悪の失敗
わたしもこの人生、今から思えば顔から火が出るような失敗は数知れず、やらかしてきました。ただ、あの失敗や、あのチャレンジがあったからこそ、私のパースペクティブ=世界に対する認識のありかた、広がりは多様になりました。前職を退職しなければ絶対見えなかった景色をみながらそう思います。
娘に贈るキャリアの本ですが、人生というキャリアをアップデートさせるにために何度も読み返したい書籍です。
京都で「知的資産とビジネスモデルの専門家」として、活動しています。現在は内閣府の経営デザインシートの普及に勤めています。