太田道灌(おおたどうかん)と七重八重 花は咲けども山吹の その2(全3回)
ポン!昨日の続きだよ。
雨は大粒となり、ぼしょぼしょと木々の葉をたたき、道灌(どうかん)たちはびしょぬれになってしまったよ。そこへ、中村重頼(なかむらしげより)が走って戻って来た。
「道灌さま、あちらに家が一軒ありました。あそこで蓑を借りるとしましょう。」
と中村重頼は二人を案内して、三人で小走りして、家を目指した。
「すまぬぅ、急な雨に困っておる、雨よけの蓑を貸してはもらえぬか」
中村重頼が大声で言い、三人はみすぼらしい農家の戸口に立った。雨はなおもやみそうにないんだ。家から出てきた男は三人の姿を見ると、びっくりして、
「お待ちください」
と言ってあわてて中へ入っていった。するとすぐに、15、6歳の娘と一緒に戸口へと出てきた。娘の手には、山吹の花があったんだ。その娘は雨の吹きつける戸口で膝をつき、うやうやしく頭を下げると、山吹の花を両手で持って道灌たちの前に捧げ差し出した。
「お恥ずかしゅうございます。このとおりでございます」
と父親らしいその男は、跪いて(ひざまずいて)頭を下げたんだ。道灌たち三人は、その山吹の花を見ると、その意味することがすぐに分かった。
「七重八重 花は咲けども 山吹の みのひとつだに なきぞ悲しき」
道灌はもちろんのこと、樋口も中村も歌をよく詠んでいたからね。これはあの有名な平安時代の兼明親王(かねあきらしんのう)の山吹の歌だなと分かったんだ。
今日はここまで、また明日。ポン!
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