光るアワビ その2(全2回)


皆からそう言われて男狹磯(おさし)は、黙って考えていました。
「いやぁ、そは言うてもな、さっきは50尋は、ゆっくり超えておったからな。これ以上は無理や」
と年老いた者が言いました。50尋とは、90メートルくらいでしょうか。
「やってみようか。」
男狹磯は、つぶやくと青い空を見上げて、そしてから遠く見える山々に別れを言うように一つづつ見て行くと、心が決まったようで、長い長い縄の端をしっかり腰に巻きつけると、海の底へとぐいぐい潜っていきました。船の上の者たちは一言も言わずにぐんぐん海の中へと繰り出されていく縄を見ていました。やがて50尋も過ぎて60尋になろうかとしたときです。縄にかすかに、引けの合図がありました。
「おお、やったぞ!」
船の上の者たちは大喜びで必死になってグイグイと縄を引いてたぐっていったのです。やがて男狹磯(おさし)が水面にその姿をあらわしましたが、ぐったりとして息はありませんでした。けれども、両腕には、大きなアワビの貝がしっかりと抱かれて(いだかれて)ありました。そのアワビの中には、大きな桃ほどもある、それは美しい白玉があったのです。皆は男狹磯に手を合わせると、急いで允恭天皇へその白玉を献上したのでした。その美しい白玉をイザナギの神の神社に祀りますと、多くの獲物を得ることができるようになったのです。

允恭天皇は、命を懸けて白玉を獲りにいった男狹磯のことが可哀そうでなりませんでした。
そこで男狹磯のために大きなお墓を作って丁寧に弔う(とむらう)ことにしたのです。

今、岩屋の浜から山の方へと少し登っていきますと、石の寝屋(いしのねや)と呼ばれている大きな石踏み(いしぶみ)があります。それが男狹磯のお墓です。遠い遠い昔のお話しですけれど、いまだに伝えられているのです。

これでおしまい。
今日も読んでくれてありがとう。
ポン!

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