柿とみたらし用水 その4(全4回)


この子らを罪人にさせたくないと考えた善五郎じいさん。
遠くで、「柿泥棒!!」、と呼ぶ声が聞こえてくる。善五郎じいさんは、二人にかけよると、つるはしを振り上げて怒鳴ったんだ。
「こら、見逃してやるから、とっとと消えろ。これはワシがもらっていく。」
「じいさん、これは母ちゃんの薬代にするんだ。見逃しておくれよ。」
「うるさい。つべこべ言わず早く、おっかさんのところへ帰れ。」
善五郎じいさんはね、この後すぐに柿泥棒の罪で捕らえられてしまったんだ。毎日穴を掘っていたから、疲れていたんだね。体を壊していたのかもしれないね。番屋に連れて行かれると間もなく息を引き取ってしまったというんだよ。
「善人のふりしてなぁ、何が用水堀だ。柿泥棒をしておったくせにな。」
村人たちは口々に言っていたよ。善五郎じいさんがせっかく掘っていた用水路の穴は草に埋もれていったよ。

兄弟たちがあの時の、つるはしを振り上げてくれた善五郎じいさんのあの顔がちらついて黙っていられなくなったのさ。兄弟はね、山のふもとに立て札を立てたんだ。本当のことを書いたのさ。柿泥棒は僕たちでしたってね。

それからというもの。兄弟はね。一日の畑仕事を終えるとね。善五郎じいさんの掘ってくれた穴に入って行っては、カチーンカチーンと掘り進めていたんだって。夜になると穴の中からカチーンカチーンと音がする。一年たって二年が過ぎたよ。やがて、村人たちも一人二人とお手伝いしてくれる人たちが増えていったんだって。そうしてやっと、あの宮ノ谷から水を引くことができるようになったんだ。田んぼに水を引けるようになったんだよ。皆大喜びだったよ。これからは、お米がちゃんと獲れるようになるってね。村人たちは、決して善五郎じいさんのことは忘れなかったんだ。そしてね、これは「みたらし用水」って呼ばれるようになったんだよ。

これでおしまい。
善五郎じいさん、すてきだったね。
最後まで読んでくれて、ありがとう。
お休み、ポン!

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