困ったじょっぱりのお殿さま、津軽信義(つがるのぶよし)さま その3(全3回)


昨日の続きだよ、ポン!

そんな訳で三代目の、じょっぱりの信義(のぶよし)さまは、することがなかった。信枚(のぶひら)さまの、やりかけの仕事を続けていただけ。したことと言ったら、西浜鰺ヶ沢(にしはまあじがさわ)の大森村(おおもりむら)や湯治場(とうじば)の大鰐温泉(おおわにおんせん)なんかに、お別荘を建てて、ガールフレンドたちを住まわせていたくらいだ。だから、子供は39人もいたって。 

ある夜、じょっぱりの信義さまは、いつものようにお酒を飲み過ぎてしまった。白目には赤い筋の網目がかかり、眉間には青筋が脈々と波立っている。「今宵はなかなかに胸悪きこと極まりなければ、その方の指にても噛みたらば、いかがにや」{今夜は胸がむかむかしてたまらん。そなたの指でも?み切ってしまえば、この胸も雲が晴れるように気持ちよくなろうて、どうだ}信義さまは、お傍に仕えていた女の人たちに睨み(にらみ)ながら、大声で言ったんだ。 
「いとも易き(やすき)御事(おんこと)なりや」 
{それはとても容易い(たやすい)ことですは。}
久祥院(きゅうしょういん)さまは静かに立ち上がると、縁側にお出になると口を漱いで(すすいで)手を洗って、お塩を付けて指を清めたんだ。いらだっている信義さまの前に静かに座って、謹んで左手をついて白く細い右手の指を揃えると、信義さまの前へ差し出した。じょっぱりの信義さまは、荒々しくその指を噛んだよ。カリカリと音を立てると、信義さまの口からは血が溢れ出てきた。信義さまは、プーっと血と指とを膝の上に吐き出した。信義さまはしばらく久祥院さまのお着物が赤く染まっていくのを見ていた。 
「悪いことをしたのぉ」 
そう言うと、ぷいっと奥のお部屋へ行ってしまった。久祥院さまは信義さまのお世継ぎの信政(のぶまさ)さまをお産みになった方なんだ。信政さまは四代目城主となられる方だからね。久祥院さまは、さぞ痛かったろうね。声も出さずに我慢していたんだろうね。可愛いそうだったよ。 

おやすみ、ポン! 

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