吉吾(きちご)どんと鯖(さば)売り その2(全2回)
鯖売りは、目のことを聞かれて答えたよ。
「おー、そうよ。目が悪うてな、困ってるんじゃ。よく分かったな」
「おぉ、わしも目が悪かったんじゃがな、この不思議な炭俵の中に入ってみたらな。目が治ったんじゃよ。どうじゃ、入ってはみないか?」
「おーっ、それなら有難たや(ありがたや)」
鯖売りはね、炭俵の縄を解くと吉吾どんを外に出して、自分がさっさと中に入ったのさ。しめた。吉吾どんは炭俵の上から縄をぐるぐる掛けて、
「すぐに目は治るさ。」
と言ってね、鯖売りの天秤棒(てんびんぼう)を担ぐと、
「さば、さば、さばは要らんかね?」
と歩いて行ってしまったんだ。天秤棒とはね、棒の両側の端に桶(おけ)みたいのがぶら下がっているんだよ。その中に売りたい物を入れておくのさ。棒の真ん中を、ひょいと肩に乗せて歩いて売りに行くのさ。
そこへ、ぶりぶり怒りながら戻って来た若者たちは、炭俵を棒で担ぎながら言ったんだ。
「おい、吉吾どん。また騙した(だました)な。宝物なんぞありゃしなかった。」
「おーい、どこへ行くんじゃ?何をするんじゃ?」
「なぁに、さっき言ったとおり海の中に放り込んでやるんじゃい」
「いや、待ってくれ。人違いじゃ。わしは鯖売りじゃ。魚屋じゃよ。出してくれ」
「声までうまいこと変えておるわい。今日こそはこうしてやるんじゃ。」
若者たちは海の所へ行くと、ぽいっと炭俵を海の中へと投げ込んでしまったんだ。
「やれやれ、これですっきりしたわい」
若者たちが帰って行くそこへ、
「さば、さば、さばは要らんかな?さばじゃ、さばじゃ」
「おぉっ、吉吾どん。何してるんじゃ?」
若者たちはびっくりしてしまったよ。
「今日は、鯖を売っておるんじゃよ。見てのとおりじゃ」
「さっき、炭俵の中に入れて海に放ってきたじゃないか」
「あぁ、投げ込まれたところが浅瀬だったんでな、さばしか獲れなかったんじゃよ。もっと深い所へ放り込んでくれたらな、でっかい鯨(くじら)でも取ってきたところじゃったんだがな。」
「本当に鯖を取ったのかい?」
「ほら、鯖をこうして売っているじゃないか」
吉吾どんはね、カラカラ笑って言ったって。吉吾どんはそれから急いで海に行くとね、アップアップしている炭俵を引き上げて鯖売りを助けてあげたんだって。鯖売りは散々だったね。吉吾どんのとんちは冴え(さえ)てるね。
これでおしまい。
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