「唎酒マイスター」の内容と難易度
1.1日目
唎酒マイスターとはどんな資格?
酒蔵や酒販店、飲食店など お酒に携わる人にとって「唎酒」はとても大切で必要な技術・能力です。公益財団法人日本醸造協会では毎年「実践唎酒セミナー」を開催し 日本酒の仕事に従事する人たちの唎酒能力を向上させる機会を作るとともに、参加者の技術の習熟度をはかる試験をします。
8つの項目それぞれについて、講義→練習→試験という流れで行います。
まぐれ当たりでなくきちんと判別できていることが必要なので、合格基準も統計学を用いて決まっていて難易度高め。
8つ全てに合格すると「唎酒マイスター」の称号が付与されるのです。
場所は東京都北区滝野川にある「旧大蔵省醸造試験場第一工場」通称赤レンガ工場。
重要文化財に指定されていて資料館のようにもなっています。
2.においの識別
まず1日目の午前中はこの2日間で行う実習や試験の概要説明があり、その後さっそく1つ目の「においの識別」が行われます。
においの種類は
a. β-フェニルエチルアルコール
b. メチルシクロペンテノロン
c. イソ吉草酸
d. γーウンデカラクトン
e. スカトール
の5つ。
別部屋に行き まずは「a」のテーブルに座ると、試験管から下図のようなムエットが渡されます。
この5本のうち、どこか2本にaの試薬であるβ-フェニルエチルアルコールが付いていて、残りの3本には無臭の試薬がついています。何番と何番についているかを当てるというもの。
aが終わったらb、と5つのにおいのブースにすべて行き試験を受けます。
意外に匂いは弱めではあるものの 難なくクリア。
3.アルコール度数の順位
ベースが同じお酒でアルコールが12度、14度、16度、18度、20度の5つが用意されています。
それがランダムに並べられ 1番はアルコール何度のものか、2番はアルコール何度の物かと当てていく試験です。
まず練習用にひととおり唎酒させてもらえます。
練習ではもちろんアルコール度数の低いものから試し、その特徴を捉えていきますが
この5つのサンプル、お酒の濃淡や甘さや酸味に影響しないよう非常にうまく調整してあるんです。
あくまでもアルコール度数の違いだけで判別できるかどうかの試験なので。
しかも本番はランダムに並べられているため 20度の後に14度を唎酒すると14なのか16なのかわからなくなるという…。結構難しいですね。
やや迷いつつも無事全問正解。
4.日本酒度の順位
日本酒度とは日本酒の甘さを測る指標で、比重によって決まります。
簡単に言えば、日本酒の中に糖が多ければマイナスよりの数値になり、少なければプラスよりの数値。
−10、−5、±0、+5、+10
の5種類を判別していきますが、濃淡や香りに一切差が出ないよう調整されているのでこれまた手強いんですね。
−10と−5の差がほとんどない。
−5と±0も順番バラバラだと難しい。
アフターの伸びをきちんと取れるかどうかがカギとなります。
ということで無事に全問正解。
5.甘味の識別
甘味の識別は、さきほどの日本酒度よりもさらに差異が少なく サンプル3つの内1つだけ補糖してあるものを選ぶ、というのを12回繰り返すというもの。
3つの内2つは日本酒度+0.5(グルコース濃度2.7)
1つだけ−3.2(グルコース濃度3.4)
あんまり変わらないんです。
補糖の方が多少 中盤のふくらみ、アフターの伸びがあり、補糖されていないものはアフターがキレて苦味が出ると私なりに解釈し試験に挑戦しました。
自分なりにどう差異をとらえるかがきちんとできていたので、意外にも苦戦せず 日頃の唎酒が功を奏して舌が麻痺してしまうこともなく。
テンポよくやっていったら時間が余り、丁寧に見直し確認もできて終了。無事全問正解。全問正解は1人だけでした!
6. 2日目 清酒の香りの識別
酢酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、DMTS(ジメチルトリスルフィド)、TCA(トリクロロアニソール)、ジアセチル、酢酸、イソバレルアルデヒド、アセトアルデヒド
この9つの試薬の入った液体の香りを嗅いで当てるマッチング法試験。
これは普段からさんざんトレーニングしているのでさほど難しくはなかったものの、試薬だと普段の清酒と違ったり薄かったりしてやや迷うものもありました。全問正解。
7. 酸味の識別
清酒の酸味の識別ができるかどうかの試験。
酸味とひとくちにいっても、日本酒における酸は乳酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸と様々です。
ベースの清酒にそれぞれ乳酸、リンゴ酸、コハク酸を加えて酸度を0.3だけ高くした物を用意。
2つの内、どちらが補酸したものかを当てます。
乳酸5回、リンゴ酸5回、コハク酸5回
合計15回の比較。
ベースのお酒が全く酸がないわけではないのと、加水されたお酒なのでアフターに酸浮きしており
今回の試験の中ではいちばん難しかったです。
リンゴ酸はわかりやすいのですが、コハク酸が特に難しかったかな。
全問正解。
8. 味の濃淡・甘辛の識別
濃醇辛口/ 濃醇甘口/ 淡麗辛口/ 淡麗甘口
がそれぞれどれかを当てる問題。
濃醇といってもそんなに濃くて旨口には感じません。
ベースのお酒に酸度を0.5上げて、グルタミン酸ナトリウムを100ppm加えたもの。
これは4問全て正解して合格になります。
まあこれはわかりやすいと思いますよ。
無事正解。
9. タイプ別清酒の識別
吟醸酒・純米酒・本醸造・低アルコール酒・甘口酒・辛口酒・原酒・生酒・山廃酒・多酸酒
の9タイプの市販酒を用意。
はじめに練習としてこれらを唎酒し、その特徴をメモ。
全てスペックが公開されているのはありがたいですね。
次に本番用のお酒が配られ、1番は何か、2番は何かを当てていくマッチング形式の試験。
練習用もそのまま置いてあるしまあ外すことはまずないな…今まで全問正解で来ていて ここさえ正解すればノーミスかぁ。
今まで私はマッチングのテスト外したことないしね、ラッキーなんて思ってしまったのが悪かった。
慎重にやったはずなのに、安易な思い込みが間違いを招いてしまったのです。
ひとつひとつじっくりとアフターまでとりながら唎酒すれば簡単にわかったものを…
あ、コレは甘口だわ。とちゃちゃっと振り分けてしまったミスから、2項目がどんなに探せど見つからない迷子に陥り 結果は 合格ではあったものの
「全部門全問正解」を最後の最後に逃してしまいました(涙)
慢心が招いた凡ミス。
きっとこのまま調子に乗らないように神様から注意を受けたんだと思って、次に繋げようと思います!
10. 合格率
コロナ前までは1回に30名受験できたそうですが、コロナ後は対策をとって、全て自分の席に座った状態で受験できるよう工夫され 15名しか受験できなくなりました。
そして今回も合格率は50%以下でした。
1回で合格する確率は3割程度と言われています。
合格出来なかった科目が3つ以下なら、来年にそこだけまた再チャレンジできます。4つ以上ある場合は、改めて初めからの試験となります。
11. 次のステップ
この先に「清酒専門評価者」という資格試験が待っています。
この「清酒専門評価者」は、独立行政法人酒類総合研究所が開催・認定する資格で
やはり酒のプロのみ(ほとんどが酒蔵の方々)が受験できる、唯一 国が認めたお酒の技能資格です。
受験資格も
1.大学(短大含む)の農学・食品・生物系学科卒業以上の経験を有する方
2.職業能力開発促進法に基づく酒造技能士2級以上を取得されている方
3.当研究所主催の酒類醸造講習(旧・酒類醸造セミナー)、旧清酒製造技術講習を受講済みの方
とある中で
4.公益財団法人日本醸造協会主催の「実践きき酒セミナー」を受講済みの方
というのがあるのです。
酒蔵でなくても一定期間官能評価に携わった経験があり、私が今回受講した実践唎酒セミナーを受ければ受験資格が得られます。(必ず受験できるかどうかはわかりません。全く関係ない業務の方は受験できない事もあります)
これで私も受験資格が得られたことですし、
次のステップでも頑張りたいと思います。
以上唎酒マイスター受験レポートでした。
目指している方のご参考になれば幸いです。