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怪談『海』

ある日、私が寝ようとすると、不思議な現象が起こりました。
ベッドに入り、目を閉じると、すーー、と落ちるような感覚がして突然
「とぷん」
という音がしたかと思うと、ベッドや掛け布団の感触は無く、いつの間にか水中に居たのです。
ゆっくりと目を開けると、体は海の上に浮かんでおり、満天の星空が目に映りました。
そして、潮の匂いと水の感触だけしかない状態で体は抵抗する事無く
「ゆら~り、ゆら~り」
と流されていきます。
最初は驚きましたが、初日はその空間の妙な心地良さからか、猛烈な睡魔に襲われ、いつの間にか寝てしまっていました。

次の日は普通に朝起きる事ができ、そのまま日常生活を送り、また夜、ベッドに入って目を閉じました。
するとまた同じように
「とぷん」
という音と共にいつの間にか水の中に居ます。
ですが今回は体がうつ伏せになっており、海の中が見え、かつ何故か水中なのに呼吸が出来るという状態で、海中の綺麗な珊瑚礁と熱帯魚達が見えました。そして
「ゆら~りゆら~り」
と流れに身を委ね、流されているといつの間にか眠りに落ちていました。

さらに次の日、また
「とぷん」
と、そして綺麗な熱帯魚達を見ながら寝ようと、色んな方向を見ていると、遠くの方に何か黒い物が見えました。
黒い物が何なのか不思議に思いつつ、また眠りに落ちました。

そして、数日海中で寝る日常を繰り返していたのですが、不安な事が一つありました。
日に日にその黒い物が大きくなっていく事です。
いえ、大きくなっているというよりも、私が大きな物に近づいていっているという感覚でした。
それに近づく事に、えもいわれぬ不安を感じていたのです。

そしてある日、
「とぷん」
と海に沈むと、遂に黒い物が目の前まで迫っており、私の体はゆっくりとその黒い物に吸い込まれて行きました。
黒い物の中は、水中よりも体が軽く、ゆったりとしており
(良い眠りにつけそうだ)
等と思って、ふと、自分の体に目をやると
いつの間にか自分の体に皮が無いのです。
そしてゆっくりと肉も溶けていき、痛みも無く血も出ないまま、脂肪が溶け、筋肉も溶けていきました。
抵抗のしようも無く、ただ唖然と見ていると、遂に骨が溶け初め、遂には何も無くなってしまいました。
ですが、何故かそれを見ている自分が居るのです。
体も溶け、真っ暗闇の中、目を閉じているかどうか、そもそも目があるかどうかもわからないまま、意識だけはっきりとそこにあるのです。
黒い何かの中居るという事しかわからないまま、暗闇の中を漂い続けます。
いつ終わるかもわからないまま。

あとがき

この怪談は「眠れる怪談」をテーマに書いた作品です。
この作品は結構色んな場所で語りましたね。
私の声質も相まって、この作品の朗読で何人も寝落ちさせて来ました。
そんな思い出深い作品です。

もしこの怪談作品を少しでも楽しんで頂けたら、スキやフォロー、コメントを頂けると嬉しいです。

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