要約①「取り返しがつかない油断が起こるとき」~「なぜ暗号解読に多様性が必要なのか」
2001/8/9、米航空訓練校に入学した33歳モロッコ系フランス人。不審行動が多く、逮捕されるが釈放。9/11テロ実行。なぜ阻止できなかったか。1993年から毎年のようにアルカイダはテロ攻撃を起こし残虐性を増していた。予測できなかったことでも起こった後ならどうとでもいえる。これを「後知恵バイアス」という。一方「赤旗の山から赤旗を探す」に近いという人も。どちらも間違いと考える人はいなかった。
9/11で失態を犯したとされるCIAは、厳格な採用基準を設けていた。知性・精神状態で輝かしい成績を収めた2万に1名が採用。白人・男性・アングロサクソン系・プロテスタントばかり。問題は起きたが傾向は改まらなかった。「能力の高さと多様性は両立しない。言語道断!」二重スパイ防止もある。それが間違いであることが、近年わかってきたが、当時は気づいていなかった。危険な2項対立であることにも。
「人と違う」ではなく、有能・速いなどが採用基準であるべき。本書はこういう考えが間違いであることを紐解く。個人に焦点を当てると全体論的視点を失う。アリの巣で考えると、個々を観察しても巣については何も学べない。巣全体を一つの生命体として見るべき。多様性には性・種・年・信仰「人口統計学的多様性」と見方・考え方「認知的多様性」がある。AIも多様性がカギ。多様性は成長に欠かせない。
ある実験で、日本人とアメリカ人では視点が違うことが判明した。日本人は背景を重視し、アメリカ人は物体を重視する。これは、両者が協力しあうと、全体像を鮮やかに捉えらえ、より現実を理解できる。これは個人の中でも、的確なヒントになる異なった視点を手に入れることで、起こせる。何層にも折り重なった問題の解決には、何層もの視点が欠かせない。視点が多様化すればするほど、見つけられる有益な解決策の幅が広がる。
水を泳ぐ魚は水を認識していない。これと同じようなことが我々にも言える。普段どんなフィルターを通して世界を見ているのかを自覚していない。ある人は自転車を運びながら駅の階段を上り下りするようになって、はじめて駅が多くの人にとって不便だと自覚した。盲点は目に見えないのである。また、ウエディングリストパラドックスのように、贈り物を贈る人は受け取った自分を想像するので、相手の欲しいものを選ばない傾向があるということも視点の違いを表す。
こういったケースにも、人口統計学的多様性がもたらす集合知が役立つ。実際に多様性が顕著な企業の自己資本利益率は高い。そして、多様性に欠ける集団は盲点も共通しがちだ。提示された材料を元に、殺人事件を解決する実験でもそれは立証された。さらに興味深いのはその解決の行程がまるで違う点だ。多様性のある集団は、様々な議論が為され、苦労しながら正解に辿り着く。そして多様性のない集団は、気持ちよく話合い、自信満々に不正解を選んだ。
・オサマ・ビンラディンは、米に対する「ジハード(聖戦)」を宣言したが、CIAは次の2点からその脅威を軽く見ていた。
① 洞窟の中でキャンプファイヤーを前にしゃがんでいる。
② 「ジハード」の後には、詩を詠んでいる。
しかしながら、「洞窟」も「詩」も、イスラム教の“預言者”のモノ。
・多様性に欠けたチームであるCIAは、いくつもの“点”を見付けていたのに、それを、線でつなげることが出来ず、「9.11」を」防ぐことが出来なかった。
・多様性の欠如は世界唯一の情報機関をも弱体化させた。
・多様性に富んだ集団なら、アルカイダのみならず世界中の脅威に対してもっと深い洞察力を発揮できただろう。
・考え方の枠組みや視点の違う人が集まれば、物事を詳細かつ包括的に判断できる大きな力が生まれる。
2016年、PK線で負け続け優勝をしていないイングランドサッカーの課題解決の為英サッカー協会は技術諮問委員会に著者を含めサッカーとは無縁の人たちIT起業家、ラグビーのヘッドコーチ、プロ自転車の監督、女性初の陸軍士官の女性。を招聘した。
この集団は認知的多様性にあふれたチームであった。
サッカーに詳しい人たちで監督へアドバイスを送っても、そもそも、監督自身サッカーに詳しく、結局、程度の差はあれど、潜在的にあった固定観念をより強固にしあうだけという、画一的な人の集団、賢者の集団が愚者の集団になる典型例を回避するためにとられた策だった。
背景の異なる人たちからの発言は「反逆者のアイデア」。多様性富んだ人々が集まると根本的に異なる意見が飛び出す。
著者は多様性に関すつ講演会に参加する中で、気づいたことが、
人それぞれ、多様性に対する定義が異なっているから、科学する必要がある、と。
そもそも、集合知とは何か?どうすれば生まれるのか?その障害は?反逆者の集団はクローンの集団を打ち負かせるのか?を科学する。
人頭税の失敗:生まれも育ちも似たり寄ったりの階級の優秀な人たちの議論によって生まれた。「居心地の良さ」が知の追求にもたらす危険性。イギリス戦後政治史に広く根を張る問題は多様性の欠如。生まれも育ちも似たり寄ったりのエリート感性で、同じような考え方「居心地の良い」仲間で政治意思決定をおこなっている。
似たような人間の集まり=クローン集団では、ひとりひとりがどれだけ優秀でも同じ背景を持つものばかりで意思決定集団を形成すると盲目になりやすい。
(※ブリッジとなる箇所、問題例示と半疑問的な解答)
集団における画一化に起因する問題点の事例
・大手銀行の新卒行員
・スウェーデン北部カールスコーガ町議会における除雪計画
難問に挑む際に重要なのは一歩下がれる柔軟性、盲点を見つけられる多様性
一定の方向性に則した高い能力の人材を集団化しても、大きな力は発揮されない。多様性に富んだ集団を形作ることで認知的多様性は力を発揮し、大きな集合知を生み出す。
・名門大学の優秀な学生ばかり集めたソフト会社では、「知識のクラスタリング」が生じ、クローン集団ができあがってしまう。
・集合知を得るには、能力と多様性の両方が必要。能力が高い人間が集まっても、集合知が高くなるとは限らない。
・多様性だけも不十分。中年白人男性と若い黒人女性の組合せでも、同じ大学・同じ教授なら、クローンと変わりない。
・同じ白人中年男性でも、マネタリストとケインズ派という異なるエコノミストは集合知を生み出す。
・高い集合知を生み出すには、対処する問題と密接に関連しつつ、相乗効果を生み出す多様な視点をもった人々が必要。
・AI開発の現場でも、「多様性に富んだ問題解決グループが、一貫して精鋭グループを凌いだ」
・男性科学者は「単純にメスは強いオスを選ぶ」と考えていたが、女性科学者の進出により、実際にはもっと能動的で複数のオスと性交することが分かった。
・日本人の科学者は、個々の対象よりも背景に着目する。霊長類は、オスによる支配と考えられてきたが、群れの中心がオスではなく、メスの血縁者で成り立っていることを解明した。
・エニグマ解読チームを組成するに当たり、クロスワードパズルを12分で解けた人に70万円の賞金を付けて、募集した
・数学者や論理学者を集めただけでは、複雑で多次元的な問題を解決できない。認知的多様性が必要=クローン集団でなく、反逆者集団
・「指輪物語」の作者JRRトールキンにも声をかけていた
・チームには、同性愛者(当時は違法)、女性(スタッフの大半)、高い地位についたユダヤ系の人、信仰など社会的背景が異なる人、などがいた
・暗号解読のキーワードには、恋人の名前や罵り言葉などが使われていた。これに気づくには「人を読み解く力」が必要
・「問題空間をできるだけ広くカバーする」には多様性が欠かせなかった
・クロスワードパズルも暗号解読も、文字列や単語から何らかの関連性を見出す作業=水平性思考が必要
・問題を作った相手(敵)の頭の中に入っていくことが大事
・勝因は、一風変わってはいるものの、卓越した人々を集めることに成功し、高い集合知を得たことによる
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