
新規事業アイデアを作る①事業領域設定
注意書き:書籍ではなくnoteなのでなるべくカジュアルな書き方をしようと思います。また例え話は分かりやすさのために登場させているので厳密な調査を経たものではないことはご承知おき下さい。
アイデアをどう考える?
既存事業が成熟している・もしくは数年内にピークを打つことは分かっている、新たな成長方針が必要だ。このような状況に直面している企業は多いのではないだろうか。
そこで登場する課題No1は「アイデアをどう考える?」である。
ここでゼロベースでブレストを行いアイデアを出し、経営陣の好みなどで絞り込んで、実証実験を行い、よさそうなものを実行しよう、となるとさらに行き詰まることになる。
さて、この方法は何がよろしくないのだろうか。
自社の能力が持つ制約条件を十分に踏まえていない
領域を絞り込まない場合は趣味の事業に偏る
会社としての戦略的目標を明示されていないため、判断軸は好みになる
これらの点が特に成功のしづらさを作っている。それではどうするべきか?という点を今回は説明しよう。
自社の能力を把握した領域設定
能力の制約条件は極めて強い!
夢のない話に思えるかもしれないが、自社が成功出来る事業領域は極めて限定されたものになる。どのような企業もあらゆる領域で成功することは出来ないし、する必要もない。
新たな事業を検討する際には「自社が獲得でき得る事業領域内」という限定された範囲にある目標をどう達成するか?ということに焦点が当たるべきだ。
青い鳥現象に気をつけよう!
ウンウン考えて素晴らしいアイデアが生まれて、自社の強みが実は活かせて楽に勝てて、スケーラビリティがあるものなんてものは存在しない。これはよく「青い鳥現象」と呼んでいる。
存在しないものを追求し続けることは現実から目を背ける結果になる。
苦労してでも達成するべき目標を明示し、実現に向けて努力し続ける
という姿が事業を成長させていく実態に近い。
これをするためには「そもそも自社の能力はどの程度か、その能力を活用し実現でき得る事業はどの範囲にあるか」ということを設定しなくてはならない。
実現性がないアイデアを真剣に考えない
そうでなければ何でも出来るような気になってしまい、実現性が最初からほぼないアイデアが生成されることになる。そして最終的には「それ出来るの?」「そもそもうちがやるべき理由は何?」という問いに回答出来ず否決される。
それであれば自社の能力を把握した領域選定(「それ出来るの?」への回答)、自社の戦略的目標達成に沿った領域選定(「うちがやるべき理由は何?」への回答)を最初から時間をかけて行うべきだ。
これを議論すると気付くはずだが、自社が成功でき得る事業というのは極めて狭い範囲に限定されている。ゼロベースで全く知らない領域に関するアイデアを議論するというのは超長期的な観点で意味はあるかもしれないが、短期的な実現性には極めて乏しいということになる。
「時間と金をかけて能力獲得をする前提で制約条件外へ行く」という「飛び地への進出」という判断はときには妥当性がある。これは能力はないが、当該領域へ行くことが戦略的に重要なので苦労してでも行こう、という判断である。
当然のこと、参入当初は相当の苦労を強いられるが時間をかければ能力獲得は出来る。場合によってはM&Aを活用するのは有効なオプションとなる。この飛び地進出は組織へも、担当へも相当なストレスを強いることになるので頻繁に発動したいものではない。
戦略的目標を踏まえた領域選定
能力による制約と意思による推進
上でもやや言及したが、領域を定めるには能力と同時に意思も重要である。
まとめるなら能力により、制約条件が定まり、意思によって導かれるということになる。
能力により事業領域を定めるならば、既存領域と近傍領域が全て候補になるが「そもそも自社は5~10年後何になりたいのか?」が議論されているなら、自然とその中で方向はどちらがよいか、を定めることが出来る。
「何になりたいのか?」というのは抽象的なビジョン・願望を問うているのではなく、企業の長期戦略そのものに対する問いである。ということはこれに対する回答は財務的な数値(売上、利益)とも結びついた回答になる必要がある。
例えば「人を笑顔にしたい」のような目標は企業の戦略に指針を与えず、目標にならない。
さて、これを決めるのは経営陣の責務…ではあると思うが、実際これに即答を出来るケースは相当少ない。実務的にはどのように進むかというとボトムアップとトップダウンの衝突の繰り返しにより、自社が行きたい領域というものが組織の総意として浮かび上がる。
これは曖昧な記述なので具体的に説明しよう。
ケース:とあるA社の例(架空の会社です)
社長に問う!「ビジョンを語って下さい!」と問う!
しかし社長および経営陣は現在の事業を立ち上げたメンバーではない。製造出身、財務出身、営業出身者などで特に調整に長け、何等かの実績があり、社内の人望がある人が経営陣となっているので必ずしも長期的な方針を描く能力を培ってきたわけではない。明確な回答は出てこない。
「こういった事業はうちらしいよな」「競合のあの会社があれやっているらしいな」としか出てこない。
さて、あなたが「新たな収益の柱作ろうプロジェクト」のリーダーであればどうするだろう。
経営陣に対する愚痴をこぼすのも一手ではあるが、それではプロジェクトは進行しない。
まずは自分で深く考え、自社能力を前提としながら自分でぼんやりとした長期戦略を描いてしまおう(正確性はまず、問わないこととしよう。気軽にやろう)。
今、これを語る人はいないのだから気軽にまずやる。
そしてその長期方針に沿った事業案をいくつか経営陣にぶつけてみよう。ここではかなり具体的なものをぶつけることが重要である。「このような事業領域はどう思うか」と問うても有効な回答は得られない。
この領域であればこれも出来る、こちらの領域であればこれも出来る、などとアイデアを散弾のようにぶつけていく。そうすると明確な方針というのは出てこないが「組織として意思決定しやすい投資案件のクセ」が見えてくる。
こういった事業であれば経営陣は承認しやすい、また実行チームも組成しやすいというクセは企業によってかなりある。このクセを把握するためには経営陣に対して意思を明確に説明せよ、という要求をすることによってではなく、具体的な投資案件をぶつけることによって見えてくる。
やや非効率的なのは残念であるが、意思表明をしない経営陣に対して愚痴を言っているよりも遥かに進展が見られるだろう。
この混沌したプロセスで領域が定まってくれば以下の効果を感じ始めるだろう。
意思決定がしやすくなる(毎回領域に関する調査と議論を必要としない)
アイデアが生まれやすくなる
プロジェクト間でのシナジーが強く働く(顧客や業界関係者らとのコネ、知見、能力が共通で使い回せる)
この過程では「このアイデアは自社が対象にしたい領域内にないことが分かったからボツ」というものも出てくる。最初はアイデアを棄却することに慣れないかもしれないが、これは領域が定まり始めているという観点でよい傾向である。
検討・調査、さらに実証実験の費用と時間を投下してから棄却するよりもアイデア発生時から「これは駄目だ」と分かった方がアイデアの発案者にとっても実は優しい。
長くなったので次回へ
「アイデアをどう作るべきか」という問いはかなり大きな問いなので今回は領域論の一部に留まってしまった!次回以降も「アイデアをどう作るべきか」を書いていきたいと思う。
今回の記事はまとめるなら「会社の事業領域は能力により、制約条件が定まり、意思によって導かれる。組織としての意思は明文化されている場合は少なく、プロジェクト担当者が彫刻を削り出すように具体的な事業案をぶつけながら描く必要がある」ということだ。