「ベスト盤」を見直す

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音楽好きの方は概ねそうかと思うのですが、
「ベスト盤」というものを軽んじていると思います。

『あれは「ヒット曲」や「自分の知っている曲」だけつまみ食いする、
比較的文化程度が低位の方が買うもの』
『本当に音楽を愛する人は「オリジナルアルバム」で聞くのが基本』
『ベスト盤が混じったCD棚なんて、絶対に他人には見せられない』

ところがですね、
60を過ぎ、さらに「前期高齢者」になると、
CD一枚を聞き通すのがキツイのですね。
最後には、「我慢比べ」みたいになってしまう。
(これがレコードなら片面20〜30分ですから問題ないのですが)

そこで、改めて「ベスト盤」を見直したいわけです。

黒かった髪にいつしか白毛の領土が増加し、
常にいっぱいだったのお菓子の箱も、
蓋を開くごとに、空白が目立ってきました。

体力、気力の衰えは自然なことと受け入れ、
気負い込むことなく、
美味しいところを「つまみ食い」し、
なおかつ「音楽愛好家」としての堅持を保つ。

気に入った「ベスト盤」をご紹介しながら、
そんな「前期高齢者」の音楽の楽しみ方を
探っていければと思います。


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最初に取り上げるのはこれ。ビーチボーイズです。

この2枚組は30年以上前に出たもの。
まだ「CD」という記録メディアの少年時代。
レコードでは聞こえなかった音が聞き取れる!とみんなが興奮しました。
しかもレコードのように劣化せず「半永久的」に聴取可能なのです。

そこからレコードを捨て、CDへの買い替えが進んで行くわけですが、
しかし一枚が3000円以上と、まだまだかなり高価でした。
だからせっせと「貸しCD屋」さんに通ったものです。
そんな時期だからこそ、この「40曲で¥4000 1曲100円」
(当時のこのシリーズのキャッチフレーズ)
という「お徳用盤」を出す意味があったわけです。

さて、ビーチボーイズは、私がハイティーンの時代でも、
もうすっかり過去の懐メロバンドでした。

ちなみに、当時聞いていたのは、レッド ツェッペリン、ピンクフロイド、
サンタナ、ジミヘンドリクス、ジャニスジョプリンといったところ。
レコード屋さんでは「アートロック」と種別されていたものです。

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それがある日、中古レコード屋さんで激安だったこの盤を、ジャケットにひかれて買い、部屋で聞いたところ、これが良い!

じっくりと聞き込むのではなく、何かをしながら流すのですが、
こんなにも晴れ晴れと気持ち良く、心になじむ音楽はありません。
しかも、繰り返し聞いても、聞き飽きるということがないのです。

ビーチボーイズというと、すぐに「ペットサウンズ」だ「スマイル」だ
という話しになりがちで、
私自身、「スマイル」は海賊盤を何枚か買った口なのですが。

思うに、ビーチボーイズの曲の魅力や魔力は、
こういう、サーフィンやホットロッドを扱った
大量生産・消費された膨大な作品群の中にこそあると思うのです。

そういう意味で、ビーチボーイズこそ、ベスト盤が一番似合うバンド
思うのです。
頭から尻尾まで捨てるとこなし、
「どこを切っても金太郎飴」ならぬ「どれを聞いてもビーチボーイズ」
30年以上前のベスト盤を、今も持っている由縁です。

もうひとつだけ、余計な話を。
私が大学を卒業した春に、矢作俊彦のデビュー作「マイク・ハマーに伝言」が出版されたのですが、
この小説が、当時新品はベスト盤しか売ってない懐メロバンド、ビーチボーイズの曲の魅力を、非常に活かしていると思えたので、抜粋します。

なお内容は、横浜署の特殊パトカーに追われて事故死した男の弔い合戦に、
友人たちがその怪物パトカーを高速で追い詰め、自滅させるというもの。
ビーチボーイズは、警察無線を無力化させる海賊放送電波として流れます。

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さて、次はこれ

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そう、エリック・クラプトンです!
いいですねー、このジャケット写真。
ブルース演奏中、チョーキングで感極まって仰反っているのでしょう。

実はこれ、いわゆる「ベスト盤」ではありません。
クラプトンの音楽人生を追ったドキュメンタリー映画
「ERIC CLAPTON:LIFE IN 12BERS」というのがありまして、
これがかなり良い構成の映画でした。

映画を見ながら「ああ、このサントラ盤があったらなあ」
と思って後で探してみたら、
なんとあったのです(笑)

で、このCDの構成が、また実にいいのですね。

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このCD、映画の内容にきちんと添いながら、
嬉しいことに独自の選曲・構成となっています。

そして、二枚組ということで、駆け足にならず、
美味しいところをじっくりと聞かせてくれます。


一枚目の冒頭は、なんと、クラプトン自身の演奏ではありません。
彼が少年期に夢中になったブルースマンの曲を贅沢に3曲も。

そしていよいよデビューした「ヤードバーズ」から2曲。
しかし、ポップスを要求されることに不満を抱いてバンドを脱退。
英国ブルースの父「ジョン・メイオール」の元でグングン成長しながら、
本領を発揮して弾きまくったルーツブルースが2曲。良いです。

勢いに乗ったクラプトン。
抑えきれない才能と膨らむ意欲で、
ギター、ベース、ドラムスのスリーピースバンド「クリーム」を結成。
ブルージーなギターとジャズ的なアプローチが画期的でした。
このバンドの、実験的かつキャッチーなナンバーがまず3曲。

「クリーム」の斬新な演奏で世界的に有名になったクラプトン。
本場アメリカに渡り「アリサ・フランクリン」の録音に参加。
クラプトンの名を決定付けたライブ演奏「クロス・ロード」を挟んで
「ビートルズ」の録音に参加。

「クリーム」時代最後の曲は、3人が競い合うように即興演奏を繰り広げたアメリカツアーでの、まさに息詰る空中分解直前のライブ
17分を超えるこの演奏はこれまで未発表のものです。

ハードなツアーで、刺激的な即興演奏を常に求められ、3人の関係も悪化。
バンドを解散し、身も心も疲れ果てたクラプトンが参加した、
地味な曲を演奏するスーパーグループ「ブラインド・フェイス」から、
これ以降の、クラプトンが求めた音楽性に繋がる曲を1曲。

ここまで17曲が一枚目です。
濃い時代はたっぷりと聞かせ、薄い部分はあっさり流して、
構成に緩みがなく実にメリハリが効いています。


そして二枚目は、クラプトンというギタリストの最高に充実した時代。
いきなり「ディラニー&ボニー」の7分超えのライブから始まります。

「クリーム」時代の、緊張感の強い、どこか刺々しかった演奏とは一転。
信頼する仲間たちと、実に楽しげにリラックスして、
「レイドバック」しながら、生き生きと弾きまくる新生クラプトン。
しかも、ボーカルもクラプトンです。

そしていよいよ、「レイラ」で有名な「デレク アンド ドミノス」時代。
なんと15曲中、この時代の曲をたっぷり7曲も収録!
しかも、録音を残しながら幻に終わったセカンドアルバムの曲や
ライブ音源など、6曲がこれまで未発表のものなのです。

アルバムの最後を締め括るのは、
ドラッグによる廃人状態から、ようやく立ち直ったクラプトン。
そんな彼をまたも襲った不幸な出来事、
幼い息子の事故死という悲劇を乗り越えて作った
「ティアーズ イン ヘブン」です。


以上、まさにこれこそ「ベスト盤」と呼ぶべき
充実した内容のアルバムとなっています。

オススメです。

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