どうしたら社員の自律性を育むことができるか①
前回の投稿では、うまくいかない事業承継、コロナ禍での環境変化対応がうまくいかないケースなどから、企業経営における「行動環境」、なかでも社員の「自律」の重要性について指摘しました。それでは、どうしたら社員の「自律」を育むことができるのでしょうか。自律と反するもの、自律を阻むものは、どのようなものなのでしょうか。今回は、企業経営における「自律」について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
自律とは、社員が自分の価値判断基準に基づいて、主体的に自らの行動を決めることを意味します。会社の経営理念やビジョン、行動指針を、社員が十分に理解し、自らの価値判断軸に同化させており、それに基づいて、顧客の立場で考え、行動できているということです。
自律がうまく機能している会社では、多くの社員が次のような思いをもって仕事に取り組んでいるはずです;
・仕事にチャレンジのしがいを感じている
・問題や困難な事態があっても、私や会社の成長につながる機会と捉えることが多い
・仕事を通して成長を実感している
・仕事を通して取引先やお客様から「ありがとう」と言ってもらうことに大きな喜びを感じる
・この会社で働くことに大きなやりがいを感じている
こうした社員が成果を上げないはずがありません。
では、社員のこうした自律を育むものについて考えてみましょう。
自律がうまく機能するためには、次の3つの条件が必要となります;
①組織、会社の経営理念・ビジョンをしっかり理解して、自分の価値観を会社の価値観と同一にしていること
②権限の委譲をしていること
③情報を会社全体で共有できていること
そして、もちろん、一定レベル以上の仕事の能力があることが前提となります。
②の権限移譲しておけば、社員は自律して、主体的に考え、行動してくれると考えている経営者や上司が少なくないようです。しかし、権限移譲だけでは自律はうまく機能することはありません。自分がどう判断し行動すればよいのか、その拠り所がなければなりません。
また、もし自分で決めることができたとしても、会社の情報が共有されていなければ、自分の判断が果たして正しいのかどうか、判断しきれません。
もう少し詳しく考えてみたいと思います。
まず大切なことは、皆さんの会社が何を大切に経営されているか、ということでしょう。売上・利益至上主義といったいわゆる「業績軸」の経営では、社員を道具のように考えてしまい、組織内の全ての人々を統制的に管理してしまいがちです。そして、自律性を損なうこととなってしまいます。組織内の誰もが目の前の売上・利益を上げることに躍起になって、数字にコントロールされる、おカネに振り回されている状態です。そうした組織では心理的な自由も制限され、自律が育まれる余地はありません。目の前の売上・利益が上がっていたとしても、それを継続させるのは容易なことではないでしょう。
業績は、社員の成長、モチベーション向上の結果であると考えるとどうでしょう。実際、私が関わった1560社から回答のあった四国生産性本部の調査では、生産性の向上に成功した企業にその成功要因を尋ねています。そこでの結果は、「従業員の意欲・モチベーションの向上」が最も多くなっていました。
何を大切に経営するか。その順序を誤らないことです。社員が意欲的に働けることをまず大切にすることです。
それから、社員に自律性を求める前に、経営者や幹部、上司自らが自律していなければなりません。例えば「業績を上げなければならない」「目標を達成しなければならない」ということに日々追われている事業部長など幹部、上司は自律的だと言えるでしょうか。業績を上げなければならないという圧力に統制されていると言えるのではないでしょうか。
このような統制的な心理状態にある幹部が、社員に対して自律性を支援することができるはずがありませんね。社員や社員の置かれている環境に目を向け、社員の考えや行動に対して前向きの姿勢でそれらを捉える。まずは社員の考えや行動をいったん受容して、それらを尊重する。そうした行動は、経営者や幹部、上司自らが自律していなければできることではありません。
そして、社員は、叱責や高い目標・ノルマ設定などのプレッシャー、報酬などによって外部から動機づけられるよりも、自分で自らを動機づける方が、組織において自らが果たすべき役割や責任をより強く自覚し、創造性に富んだ積極的で高付加価値な行動をとるものです。どのようにすれば、社員が自らを動機づけるような状況を生み出すことができるか。それは、成長ドライバ理論のフレームワークでいう「行動環境」の他の4つのサブドライバに目を向けると、いろいろと見えてくることかと思います。
社員の自律性を伸ばすという観点から、成長ドライバ理論のフレームワーク図において「自律」と他のメインドライバ、サブドライバとがどのように関連しているのか。次回、より詳しく述べていきたいと思います。 (東渕)