【ビジネスモデル】「顧客」→「提供価値」→「価値を生み出す方法」の順番で考えること
会社が成長する原動力となる要素。
次に「ビジネスモデル」のあるべき姿について説明しましょう。
ビジネスモデルについては、ほんとうに多岐に渡ってさまざまな考え方が示されてきたのですが、おおむねその捉え方は集約されてきたと思います。それを私なりに整理するとこうなります;
【ビジネスモデルの本質】
・「顧客」→「提供価値」→「価値を生み出す方法」の順番で考える
・「顧客」の絞り込みが不可欠
・提供価値としての顧客満足が重要
【顧客満足を実現するためのポイント】
・重要成功要因(CSF)とユニークセリングプロポジション(USP)
・事前の期待を上げすぎないこと
・顧客に聴く
「成功するビジネスモデルの鍵」とでも言いましょうか。良いビジネスモデルを作るには、「顧客」→「提供価値」→「価値を生み出す方法」の順番で考えることが非常に大事です。
【ターゲット顧客を絞り込む】
まずターゲット顧客を絞り込むということですね。
つまり、幅広く、多くのお客さまに喜んでもらおうと思うと特色のない商品・サービスになってしまい、結局どのお客さまからも評価されないということになりかねません。ターゲット顧客を絞り込むということで、自分たちが目指すお客さまの顔が見えるようになります。そうするとそのお客さまが何を欲しているのか、何を求めているのか、「求める価値」ですね。企業側からすると「提供すべき価値」というのが初めて見えてくるということです。
ターゲット顧客を絞り込まないと提供価値があいまいになりますから、結局は良いビジネスモデルにならないでしょう。
そして、ターゲット顧客を絞り込むということは、実は、お客さまを狭く絞り込む、限定してしまうということではなくて、自社の商品とかサービスが目指すべき価値を先鋭化させる、つまり、エッジを効かせるということを意味しています。
ターゲット顧客を絞り込むことでお客さまの顔が見えてくる。お客さまの顔が見え、お客さまの声が聞こえると、お客さまが本当に欲しいと思ってることが何なのか、求めている価値が初めて見えるようになるのです。これに対してエッジが立った商品・サービスを提供できれば、当初狙っていたターゲット顧客以上に他の顧客層へも広がるのです。
絞り込めは絞り込むほど目立つようになって、結局、幅広く多くのお客さまに評価され、売れていくということです。
ターゲット顧客を絞り込んでくださいと言うと「お客さんが減るからイヤだ」というようにおっしゃる経営者の方がいますが、そうではありません。
こうして提供価値が明確になれば、価値を生む方法はいくらでも考えられるはずです。ここで大事なのは、この順番で考えるということです。ターゲット顧客の絞り込みをして、提供価値を考えて、価値を生む方法を考えるという順番。
ターゲット顧客を絞り込むという点で一つ、実際にあった事例をご紹介しましょう。少し前のお話になりますが、ある中堅建設会社の社長さんが、公共工事が縮減していく中、建設業だけでは雇用が保てないということでトマトの水耕栽培を始めました。美味しいトマトを生産できるようになったのですが、どのお店に持ちかけても取り扱ってくれないのです。そこで私のところに相談に来られたのですが、このような失敗、ビジネスモデルの基本的なところが守られていないことによって失敗するケースって少なくないのです。
他の事例で言うと、こちらも建設会社さんですが、木製の壁紙というものを発明したのです。空気中のホルムアルデヒドなどの有害物質を吸収して分解するという素晴らしい環境性能を具備した壁紙です。当時、建設資材に関連した健康被害について世の中の関心が高まっていたころのことです。それでも、結局、その高品質な壁紙はまったく売れなかったのです。
両者の失敗に共通しているのは、ターゲット顧客から入っていないということでした。
トマト栽培の事例では、その時点から、改めてターゲット顧客の絞り込みをやっていただくようにしました。ターゲットとなる顧客像についていろいろと試行錯誤をして、結果、「東京都23区内に住む世帯年収1,500万円以上の30歳代までの家庭の子育て中の主婦」という条件を設定しました。ターゲット顧客ですね。子育て中の富裕層ということです。容易に想像できるように、富裕層ですから教育に熱心な方が多いのです。教育熱心なお母さんが欲しくなるトマトってどういうトマトなのかというと、頭が良くなるトマトですね。食べると頭が活性化する。だからトマトが価値なわけではなくて、頭が良くなるということが価値なのです。
では、どうすれば「頭が良くなるトマト」ができるかというと、EPAとかDHAなどといった頭が良くなる(と言われている)栄養素を水耕栽培の溶液に入れるというだけです。実際に科学試験場で検査してもらって。
そうして「頭が良くなる」という価値がそのトマトに付け加えられれば、実はそのターゲットにだけ売れて終わるのではなく、例えば60歳代以上のシニア層でちょっと記憶力が落ちてきたかなという方にもヒットするわけですね。ターゲット顧客を絞り込むことでエッジが効いた提供価値が生み出される。それが想定していなかった他の顧客層にも受け入れられる。
文具通販のアスクルの事例も同じで、アスクルは約2億円もの費用をかけてターゲット顧客を絞り込んだそうです。それは、従業員数30人未満の事業所の総務担当の女性社員。そういうプロファイルの女性社員の方が文具通販というサービスに対してどのような機能を求めるのかということを、徹底的に調査したのです。その結果、もう皆さんよくご存じのように、電話一本、FAX一本でボールペン一本から、翌日には配送してくれる。このようにお客さまに徹底的に寄り添ったサービスを提供することになりました。文具にとどまらずトイレットペーパーとかミネラルウォーターなどといった重い、かさばるものなんかも届けてくれる。
さらに、総務担当の女性社員の方が文具などの消耗品購入のために支出する際、たいていは月額予算が決まっています。消耗品購入をアスクルに一元化すれば、例えば月額予算が5万円と決まっていたとして、今回の注文をしたら5万円を超えるという場合に、「今回のご注文により、月額累計5万円を超過します」というアラートを受けることができます。
このように、総務担当の女性社員の方が徹底的に楽になるようなサービスをどんどん追加していくわけです。そして今までになかった市場を作り上げた。アスクルが登場するまでは、文具の通販、文具の宅配で1兆円近い市場ができるなどとは誰も考えていませんでした。そういう新たなマーケットを作り上げた原動力となったのが、ターゲット顧客を徹底的に絞り込むという作戦だったのです。「商品・サービス」からビジネスモデルを考え、単に文具やトイレットペーパー、ミネラルウォーターなどの消耗品を通販で売ります・・・というビジネスでは、おそらく今のような成功はなかったでしょう。