企業成長の原動力となる「システム化・型決め」
会社が成長する原動力となる要素、「成長ドライバ」。
次は、メインドライバの一つ、「システム化・型決め」 です。
「システム化・型決め」とは、普通の能力の社員が普通に働いて所期の成果を上げることができるように仕事を仕組み化していくことを意味します。ビジネスモデルが実際に動くようにするためには、多くの手続きからなる一連の業務の仕組みに落とし込む必要があります。しかも、誰が担当しても一定の手順を踏めばスムーズに遂行でき一定以上の成果が生み出せるように業務を標準化し、手順をマニュアル化することが必要です。起業した社長自らを含め一部の優秀な人でなければ成果を上げられないというのでは、組織として成長することは容易ではありません。
一連の作業を仕組み化することが「システム化」であり、個々の作業が「型」、それを決めることを「型決め」と呼びます。「型」が集まると「システム」と言えるものとなります。これらによって、普通の能力の人が普通に働いて所期の価値が生み出せるようになります。つまり、ビジネスモデルに「実効力」が吹き込まれると言えるでしょう。
システム化・型決めでは、標準化、マニュアル化が大切です。より良いものにするため、可能な限り多くの企業のやり方を学び、ベストなやり方を手本にすることが望ましいでしょう。また、いったんシステムや型ができ上がっても、機能向上や費用節減を目指して常に改善しなければなりません。良い会社を視察・研究するベンチマーキングの狙いの多くはここにあります。
「無印良品」(株式会社良品計画)では、どの店舗でも、顧客にアピールできる陳列をアルバイト社員であってもできるようなマニュアルが整備されています。これによって、売り場の効果を高めることに成功しています(松井忠三著『無印良品は、仕組みが9割』角川書店)。さらに、そのマニュアルには「改善し続けること」という項目も含まれています。いったんでき上がったら終わりということではなく、改善するところまで仕組み化するということです。
株式会社日本理化学工業はダストレス・チョークのトップ企業ですが、この会社は、仕事のやり方を工夫することで多くの障がい者を雇用し(従業員の7割を占める)、自立した社会生活をできるようにしています。例えば、時計を読むことができない障がいのある人の場合、砂時計を使う仕組みにして、働けるようにしています(大山泰弘著『働く幸せ~仕事でいちばん大切なこと~』WAVE出版)。
なお、システム化・型決めを行うのはビジネスモデルだけではありません。経営理念の浸透、社員評価や人材育成、取引先との関係強化、コストダウン活動、クレーム応対等々、他のドライバにもまたがって幅広い領域で行われます。これらの活動は、継続して行われる必要があります。属人的になされていて、その人がいなければまったく分からないというのでは問題です。そのため仕組み化すること、すなわち、システム化・型決めが必要になってくるのです。
また、会社の成長ステージによってシステム化・型決めをする中身は、効率化を主目的とすることから、変化を生み出す方向へと変わっていくことが理想的です。この点、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年8月号、40~55ページに掲載された高宮慎一著「起業から企業へ:4つのステージも乗り越え方」や、クリストファー・A・バートレット&スマントラ・ゴシャール著『The Individualized Corporation 』(邦訳:『個を活かす企業』ダイヤモンド社)などが参考になります。
「システム化・型決め」の重要性やその実践については、マイケル・E・ガーバーの一連の著作が参考になります(『はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術』世界文化社 など)。重要であるにもかかわらず、経営学の研究においてはあまり関心を持たれていない領域だと感じており、残念です。株式会社良品計画の再生の鍵はまさにこの点にあったのではないかと、上記で紹介した松井忠三氏の著書を読んでいて感じたところです。
中堅・中小企業の経営者の方や採用担当の方の多くは「優れた人材を探そう」という姿勢で採用活動に取り組んでおられることと思いますが、実際に優れた人材を採用するということは容易ではありません。そうした姿勢や取り組みを否定するものではありませんが、同時に「優れた方法」を探すべきではないでしょうか。仕組みというのは人が変わっても会社に残っていきます。会社の資産となります。仕組み作りというのは、会社を成長させていくための重要な原動力となるのです。