必然としての「良い会社」のあり方
1.モノの豊かさから人の幸せへ
西暦2000年くらい以降、「良い会社」をテーマにした多くの書籍が上梓されてきました。
「いい会社をつくりましょう」(2004年)、「日本で一番大切にしたい会社」(2008年~)、「日本一社員が幸せな会社のヘンな”きまり”」(2011年)、「会社の目的な利益じゃない」(2013年)、「ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった」(2017年)などがその一例です。
このような「社員(人)を大切にする経営」重視の出現は、時代背景を考えると、必然と言えます。
西暦2000年というと、1991,92年のバブル経済の崩壊から数えて、10年近くたった頃です。失われた20年の中間あたりです。日本の歴史においても、「失われた20年」と言われる時代は、大きな転換のあった貴重な時代と位置付けることができます。
つまり、その間に「モノの豊かさから人の幸せへ」という価値観にドラスティックに変わってきたのです。それに合わせて、「人を大切にする経営」に関する書籍や研究が表に出てくるようになったと考えられます。
昨今の働き方改革も、その流れの一環としてとらえることができます。
2.「人」重視の必然
ではなぜ、「モノの豊かさから人の幸せへ」と価値観が変わったのでしょうか。その必然をもたらした背景として、まず、社会構造の変化があったと考えられます。
第2次世界大戦後、わが国は、高度経済成長に象徴されるように、一貫して量的成長、売上・利益拡大を指向してきました。
しかし、バブル経済を招来し、1990年代初めのバブル経済崩壊で、それはあっけなく崩れ去り、前述のとおり、20年にも及ぶ長きにわたり、経済の低迷の時代に突入しました。
その間、何が起こった確認しましょう。
まず、人口推移を見てみましょう。わが国の総人口は2006年~2007年ごろをピークを迎え減少に転じたことは有名ですが、注意すべきは、それに先立って、失われた20年の初期、1990年大中ごろに、15歳から64歳のいわゆる生産年齢人口がピークを打って減少に転じていた点です。
失われた20年の前半にすでに働き手がどんどん減っていく時代になっていたのでした。
一方、産業構造はどう変化したか。第2次産業から第3次産業にウエイトを移し、さらにすべての産業がサービス業化していきました。「サービス」を担う主体は、物でも機械でもなく、「人」です。
顧客満足の重視、イノベーションの重視など、全ての産業で、人でなければ提供できないような価値が重要になってきたわけです。また、新しい時代を切り開くための起業や第2操業なども考えを出すのは「人」です。
このように失われた20年を通じて、「人」の役割が増してきたわけです。
今述べたように、生産年齢人口が1990年代半ばにピークを打ち、働き手が減っている半面、「人」の側面の重要性を増してきたのです。
そのため、「人を重視する経営」になっていくのは自然なことでした。
人重視の経営は必然であり、今後もその傾向が継続することは間違いないでしょう。
3.新たな価値観の時代
もう少し価値観の変化を見ておきましょう。
バブル崩壊後は、世界に手本とする経済モデルがなく、我が国は、自ら新たな時代の方向性を模索せざるを得ませんでした。
国民もそのような環境下で、根本的な価値観の転換を模索したのでした。
成長や物的な豊かさではなく、例えば、持続可能性(サスティナビリティ)の重視、ライフスタイルとしてのロハス、感性の重視、人と人の絆やつながり、共感性の重視などが大きな流れとなってきました。
失われた20年の間に、徐々に転換は進んでいきましたが、決定的な転換点は、2011年3月の東日本大震災であったと言えるでしょう。本当に大切にすべきものが何か、国民一人一人が自分の胸に手を当て考えさせられ、強く気付かされたのでした。
これを節目に、わが国は新たな価値観の時代に入ったと考えられます。そして、これらの価値が重視される時代、トレンドは、多少の揺れ戻しはあるものの、今後も続くことは間違いないと思われます。
4.「人の幸せ付加価値」の時代に成長できる企業と経営者
このような価値観の変化にあわせて、企業に対する評価の方法も、従来のように「経済付加価値をどれだけ生み出したか」だけで計るのではなく、そこに「かかわる『人』をどれだけ幸せにしたか」も重要な尺度になっていきました。
このことからも、企業経営が「人を重視する経営」になっていくのは自然なことでした。
昨今の「働き方改革」もこの流れの一環として出てきていると言えます。
では、企業に対する価値評価の尺度に、幸せ付加価値が含まれるようになったことは、企業経営にとってどのような意味を持つでしょうか。
一つは、これに対応できない会社は生き残れないということです。
「人としての幸せ付加価値」が低い会社には、入社したい人が集まらないようになります。
「ブラック企業」という言葉に代表されますが、すでにそのようになっています。
また、「人としての幸せ付加価値」が低ければ、社員の働くモチベーションも高まらないでしょう。背伸びして頑張ろうという意欲も湧いてこないでしょう。顧客満足をより高めるような接客を進んでしたり、商品やサービスのイノベーションを創出したりすることも起こりにくくなります。
結果的に、徐々にそのような会社は、淘汰されていくことになります。
今後、「人としての幸せ付加価値」と「経済的付加価値」を両立させていく経営が、企業経営の大きな基軸となるでしょう。
そして、それができる経営者こそがこれからの時代を切り拓いていくことでしょう。