「私、社長よりも深く会社のことを愛しています」

中小企業家同友会全国協議会が発行する「中小企業家しんぶん」。4月15日号のトップに、東京同友会が4月1日に行った「2019合同入社式」の様子が紹介されていました。

”No Work Work No Life”
(ノー・ワクワク・ノー・ライフ)

タワーレコードの「コーポレートボイス」”NO MUSIC NO LIFE”にかけた、この見出しに目を引かれたのです。

そのフレーズは、株式会社船橋屋執行役員企画本部長の佐藤恭子さんによる記念講演のタイトルでした。

佐藤恭子さんは、合同入社式に参加した新入社員に、①なぜあなたはその会社でなければならなかったのか? ②なぜ入社した会社はあなたでなければならなかったのか?という質問を投げかけ、やりがいを自分自身で見つけ成長していくことの重要性やそれが社会貢献につながるということをお話しされたそうです。

船橋屋さんは、社員も、お客さまをも惹きつける「仕掛け」がほんとうに上手ですね。

最近では、「SDGs」に習い船橋屋さん独自の「FBGs」を設定して、2022年までに6種全28項目の目標を掲げているそうです;
https://job.rikunabi.com/2020/company/r314600028/blog/detail/190/

2016年2月12日に初めて船橋屋さんを訪問し、佐藤恭子さんのお話を伺った際の記録をここに残しておきましょう。

船橋屋さんが社員の皆さん一人一人がイキイキと活躍されている「良い会社」だということは、訪問してすぐにわかりました。

その船橋屋さんも、ほんの数年前までは伝統と知名度に寄りかかり、事業・組織運営の面では課題満載の状態だったといいます(そのあたりの事情は、2018年11月1日に放送された『カンブリア宮殿』でも詳しく話されていました)。

銀行出身の専務取締役(現社長の八代目、渡辺雅司さん)が、社内改革を断行するものの、行き過ぎた「業績軸」の経営に社員はついていけず、「社員が辞めては採用をする」の繰り返し。正社員、パートとして採用するのは女性だけ。それも3年以内に辞めることを前提に、配属先での業務さえこなせればよいという状態だったそうです。

そんな船橋屋の組織改革を推し進めた中心人物が、2003年に新卒で入社した女性社員、佐藤恭子さん。

大手企業の無機質な就活生への対応に違和感を覚え、伝統ある船橋屋で和と洋のコラボをコンセプトとする新店オープンのプロジェクトに興味を持ち入社を決めた佐藤さん。なんと、選考期間中に船橋屋の全店舗を訪問、買い物をし、店舗別の分析レポートを自作して、社長、専務に「私、本気です。内定をください」と直訴したというエピソードもある方です。

このように意欲あふれる佐藤さんでしたが、入社早々に壮絶なイジメの標的とされます。

くず餅をもっと知りたいと工場長に臆せず質問をしたりすると、先輩社員に呼び出され2時間以上にわたり「新入社員の分際で工場長様に直接話しかけるとは何事か」と叱られ続け、ロッカーには「あなたはうちの会社に合わないから辞めなさい」という張り紙が常に貼られる。社食のお弁当には異物を入れられる・・・などなど。

入社した4月のうちに、早々に退職の意向を当時専務取締役だった現社長の渡辺さんに相談したところ、先代の社長が全社員を集め、「新入社員をいじめるような会社にしたつもりはない。そんなことをしていた奴は前に出てきなさい」と厳しく叱責。名乗りでたわずか3、4名の社員は会社を去っていったそうです。

そのような社長、専務の気持ちに答えようと、佐藤さんは船橋屋でどんどん新しい仕事に挑戦していきます。

しかし、「業績軸」バリバリの経営を続ける船橋屋さんはなかなか良い状態に向かわなかったそうです。2008年、渡辺雅司さんが社長に就任した後、佐藤さんらやる気のある若手社員との会話を通じて「業績軸」経営の限界に気付き、経営を180度転換することを決意されました。ここから船橋屋さんの目覚ましい改革と発展のストーリーが始まったのです。

2007年3月期と2014年3月期との比較で、売上は38%増、経常利益は583%増。離職率は81%減となったとのこと。

今ではビジネス系、人事総務系の数多くのメディアで紹介されたり、視察や見学会が絶えない良い会社の代表事例となっていますが、この「良い会社づくり」のプロセスで大きな効果をあげたものは次の2つだったそうです;
・ 新卒採用
・ 社長が積極的に外部の研修やセミナーを受講し、他社の経営者とともに学び、自己変革を進めたこと

新卒採用は、佐藤さんが2008年からずっと担当してきたもので、
・他社の文化に染まっていないピュアで意欲のある真っ白な人材を採用し、船橋屋の価値観の共有を強化することによって、会社と社員のベクトルを合わせる
・採用選考や選考後のフォロー、入社後の育成に先輩社員が関わることによって、人材を大切にしようという意識を醸成する
といった確かな成果をあげてきました。

もちろん、ただ新卒採用をすればよいというわけではありません。創意工夫を重ね、いかにして船橋屋で活躍できる人材を見出し、採用し、育てられるか。ここにものすごい経営資源を投じているのですね。ネッツトヨタ南国の横田英毅さんのお話と共通する事象を多く見出すことができました。

初年度2008年の採用選考ではわずか250人のエントリーだったのが、2015年には16,000人を超えるエントリーを数えるまでになりました。当日の視察会では、2010年に新卒採用で入社した男性社員の坂井貴大さんもお話をしてくださったのですが、2003年当時の佐藤さんが壮絶なイジメにあったというエピソードは作り話なのではないかと言うくらい、2009年、2010年の時点で既に「良い会社」になりつつあったようです。

坂井さんは、東京の大学を卒業後、実家のある福岡に帰り就職する予定だったそうです。そして、東京でも、誰もが名前を知る大企業2社の採用選考を突破し、内定までもらっていたそうです。それでも、「一人一人が輝いていた」船橋屋に魅力を感じ、「イキイキと楽しく働きたい。命がけで楽しく働きたい」と、ご両親を説得して入社したといいます。この坂井さんの入社にまつわるエピソードだけでも、船橋屋さんの魅力が感じられますよね。

そんな船橋屋さんですが、2015年、渡辺社長が「次代の船橋屋のリーダーはみんなで選ぼう!」と「総選挙」を実施しました。

その総選挙で、佐藤恭子さんが見事優勝し、新たに設けられた執行役員制度により執行役員 企画本部本部長に就任されました。

投票理由として多かったのが、「女性が活躍する会社になってほしい。そのモデルになってほしい」という点。これから迎えるであろう結婚、出産、育児と、船橋屋での仕事をいかに両立させていけるか。佐藤さんは、次世代に向けて、そうした姿を見せて、メッセージを発し続けたいとおっしゃっていました。

佐藤さんは、自らを「五代目の奥様の生まれ変わり」と信じていて、船橋屋の歴史資料館を作りたいと、誰も近寄らない古い資料が山積みになった倉庫の整理、文献・資料の整理をするなど、業務外の活動にも力を入れています。

「私、多分社長よりもずっと、うちの会社のことを愛していると思います」
・・・そんな佐藤さんの一言がとても印象的でした。

株式会社船橋屋ホームページ: http://www.funabashiya.co.jp/
佐藤恭子さん: https://job.rikunabi.com/2020/company/r314600028/senior/K104/

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