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社長の「情報収集」

社長の仕事は、遠きをはかり、事業や組織に関するありとあらゆることに目配り、気配りをし、適時に的確な手を打つこと。このためには、社長は常に現場に即した正しいリアルタイムの情報を持っておかなければなりません。正確な情報なくして適時に的確な手を打つことなどできないからです。社長は社内外の情報に敏感になり、効率よく正確で有用な情報を迅速に得られる仕組みを持つ必要があります。

では、社内の情報について、社長はどのように情報を得るようにすべきでしょうか。

情報を得るための「工夫された仕組み」を持つこと

取締役会や各種の経営会議で提出される報告書をもって「情報収集」と言っているようでは、「良い経営」はできないでしょう。社長が「社長の仕事」をしなければならないということは言うまでもありませんが、だからと言って、社長室や役員会議室で、幹部や社員によって情報が届けられるのを待っているというのでは、あまりにも工夫が足りません。

電子メール、グループウェア、社内SNS、各種指標の設置とRPAによる自動解析、・・・等々さまざまな文明の利器を活用し、いかにストレスなく多くの現場に即した情報をリアルタイムに手にすることができるか。特に、成熟した事業を手掛けるばかりでなく、新規事業に挑戦している場合や、競合環境が激しく変化への迅速な対応が求められるような状況に置かれた会社の経営において、こうしたことが重要なポイントとなると考えます。

但し、ひたすら広く、深く、細かく、リアルな情報を入手することにやみくもに奔走するというのでは、これも感心できません。経営のフレームワークやスケルトンを持ち、それらの要諦を押さえながら、そこに情報を貼り付けていくイメージを持つことが肝要です。時に、種々雑多とも思える情報も含めて、それらを基にリアルに自社の経営の姿を描き出し、そして、それをもとに目指す方向にマネージをしていくわけです。

こうした情報収集のアタマと仕組みを構築してしまいさえすれば、むしろ、取締役会や各種の経営会議において提出されるレポートなど、新たな情報を得るために目を通す必要はありません。というのも、レポートは、それを作成するプロセスにこそ意義があるもので、そのプロセスがうまく機能していることが確かめられさえすれば、社長はその結果自体に目を向ける必要はないからです。幹部や社員による情報収集とそれらを取捨選択してまとめ上げる仕組みがきちんと機能していれば、社長が持っている情報と大きな相違があるはずがないためです。

もちろん、社長とて、すべて正しく見通しているというわけでありません。社長にも情報の欠落もあるでしょうし、情報を基に組み立てる論理に飛躍もあるかもしれません。上がってきた情報と社長自身の見方を比較し、謙虚に振り返り、自らの見方を変えていくことも必要でしょう。しかし、それらが的確にできるためには、経営のフレームワークやスケルトンが社長の頭にしっかりビルトインされている必要があります。やみくもに情報が集まる仕組みを作っても、情報過多で動きが取れなくなりがちです。社長は、情報を貼り付けるフレームワークを持ったうえで、リアルタイムに情報が得られる仕組みを持ちたいものです。

情報を与え、問いかけをし、
社長の意思を伝えるということ

一方、社長が効率よくスピーディにできる限り多くの情報を得るべきであるという理由についても考えてみましょう。それは、「情報を与えること」、そして、そのことで社員に「働きかけ」をすることも社長の重要な仕事の一つだということです。

社長の仕事とは、自分自身の活動から直接的にアウトプットを出すという仕事ではなく、自分の影響力が及ぶ組織内の人、すなわち、幹部・社員全員に影響を及ぼし、働きかけをすることによって間接的にアウトプットを上げることです。適時、的確な影響を及ぼし、働きかけをするためには、適時、的確な情報を持つ必要があります。社長の判断、意思決定や、それを伝えることを通じて、また、日常的なとりとめもない社員との会話などを通じて、社長は幹部・社員に情報を与え、影響を及ぼし、働きかけをするものなのです。

社長がリアルタイムに現場に即した生の正確な情報を常に持つことができれば、日常的もしくは偶発的な幹部、社員とのごく短時間の会話においても、非常に意味のある有益な「対話」とすることができるようになるはずです。社長が幹部・社員との間でこのような対話が日常的にできるようになれば、社長、幹部、社員間の情報ギャップや考え方の相違などが、それらが大きな問題へと発展するずっと前に調整、解消することができます。社長自身の気づきも多く、深いものとなるでしょう。

社長による「経営意思決定」というと、取締役会や各種の経営会議で重大な決定をし、それをトップダウンで全社へ伝達するというイメージを持たれがちですが、より重要なのは、そのような形態の意思決定・伝達ではなく、日常的な対話、会話、問いかけを通じて幹部・社員に働きかけ、伝える、(社長により決定された)意思なのです。こうした意識を持つことができれば、社長と幹部・一般社員との間の認識のギャップは埋められ、幹部・社員は会社の定める望ましい方針のもと一貫した判断・行動を取ることができるようになります。

社員一人一人をしっかり見てあげること

社長によるこうした情報収集やそれによるマネージの活動には、意識しておくべきもう一つの側面があります。それは、「社員を見る」ということです。

社長が自分のことや自分の仕事を見てくれていると実感できることは、社員のやる気、安心感、安全感を高める大きな力となるものです。社員数数十名、百数十名程度の規模の会社であれば、全ての社員と社長が一対一でつながっているようでなければなりません。一人一人の社員が日々どんな仕事をしているのか、どんなことで悩んでいるのか、どのように成長しているのか。業種・業態や、工夫された情報収集の仕組み次第では、数百人規模の会社になっても、それは不可能なことではないでしょう。ハーブ・アロマテラピー関連製品の製造・販売等を手掛ける「生活の木」の重永忠社長が講演会で、社員数約800人の規模になっても社員全員、一人一人の仕事や性格などを把握し、コミュニケーションを欠かさないようにしているとお話しされているのを伺ったことがあります。やろうと思えばできないことではないのです。

特に大企業出身の経営者の方は、階層型の組織を作りたがる傾向があるように思います。もちろん、ある程度のチーム編成をしてチーム単位でのマネジメントをすることは必要かと思います。しかし、精神的には「社長とその他社員全員」というような「文鎮型」の絆を感じてもらえるような組織とするほうが、中小企業の強みを生かしたビジネスが可能になると思います。

電子メールやグループウェア、社内SNS等の情報に目を通し、作業はしなくとも社内で何が起きているのかをリアルタイムで捕捉しておく。問題が起きそうなところで、ほんのわずか一言でも良いので社員に声がけをする。その一言をきっかけに社員が軌道修正したり他者に協力を求めたりするよう、働きかけをする。こうした日々収集するリアルタイムの情報が、社内外で起こっていること、重大な環境変化の兆候などを教えてくれるもので、要所、要所で大きな決断をする際の根拠を与えるベースにもなるのです。(東渕)

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