「会社の健康診断」結果の読み解き方② 職位による認識・評価のギャップ

「『会社の健康診断』結果の読み解き方① 会社健全度」のnoteで少し触れた通り、職位ごとにアンケート回答結果を集計し診断結果を表示することとしている点が「会社の健康診断」の大きな特徴の一つです。

会社健全度の数値は、経営者のアンケート回答結果に基づく数値、幹部のアンケート回答結果に基づく数値、一般社員のアンケート回答結果に基づく数値の3つが併記されています。

個別診断要素であるメインドライバ、サブドライバ、そして、「企業環境分析」「成果分析」「成果」のドライバ値・評価値を算出するにあたっても、それぞれの個別診断要素に関連するアンケート設問項目について、経営者による回答値、幹部による回答平均値、一般社員による回答平均値を比較して把握できるように一覧表示されています。

そのメインの目的は回答者による回答の「ばらつき」度合を視覚的に把握できるようにすることではありますが、箱ひげ図についても、経営者・幹部・一般社員の職位ごとに分けて製図した箱ひげ図を並べて表示しています。

「総評」のページに表示されているドライバ値を指数表示したレーダーチャートも、別のページで、経営者・幹部・一般社員の職位ごとに分けて製図したレーダーチャートを並べて表示しています。

このように、職位による認識・評価のギャップを把握できるようにしていることがポイントです。

レーダーチャートで認識・評価のギャップを見る

職位ごとに各メインドライバ、サブドライバのドライバ値がレーダーチャートで表示されます。

レーダーチャートをタテに3つ並べると、五角形の面積の大きさ、形状の違いがよく分かります。

このレーダーチャートには「企業環境分析」「成果分析」「成果」の3つの診断要素が含まれていませんが、五角形の面積の大きさはおおよそ「会社健全度」の値と連動します。

多くの会社では、メインドライバ、サブドライバ共に、社長のレーダーチャートの五角形の面積がもっとも大きく、一般社員がもっとも小さくなっています。

レーダーチャートの五角形の面積の大きさ、形状について、幹部による認識・評価に基づくレーダーチャートが社長に近いか、一般社員に近いかによってもとるべき対応は変わってきます。

幹部のレーダーチャートが社長に近い場合は、社長と幹部の認識・評価が近いということで、さほど大きな問題とはなりませんが、社長・幹部の認識・評価と一般社員による認識・評価の差が大きい要因として幹部によるマネジメント行為が十分でないことが挙げられる可能性があります。幹部は経営陣の一員として、社長の想いや方針を各部署の現場に落とし込んで一般社員をリードする役割を担います。この役割が充分に果たされていないということであれば、幹部の自覚やマネジメント能力を改善するところから着手しなければなりません。

幹部のレーダーチャートが一般社員に近い場合には、社長は相当苦労されていることでしょう。孤独感も持たれていることと思います。この場合も、幹部の自覚やマネジメント能力を改善することを目的として役員合宿などを重ねることによって、経営陣のチームとしての一枚岩化を目指すところから着手しなければなりません。

このように、まず、レーダーチャートの面積の大きさの差がどの程度あるかに注目してください。また、五角形の形状を比べることによって、自社の強み・弱みの捉え方に相違がないかどうかも確認してください。認識・評価の差、そして、強み・弱みの相違が大きいドライバは、改善の優先順位が高いと言えます。

五角形の面積の大きさの差が大きく、また、五角形の形状も異なるということは、職位によって見えている会社の姿が大きく異なるということを意味します。そのような状態から、経営理念・ビジョンに向けて改善・成長を図っていくことは相当な困難を伴うことでしょう。

まずは全社的な対話の場を設け、対話を通じて認識・評価のギャップをできるだけ埋めるようにするとともに、会社のさらなる改善・成長に向けた課題・優先順位の認識を共有することを目指しましょう。その際、会社がどの方向を目指すのか、目指すべき将来像やビジョンが明確にされているべきであることは言うまでもありません。これがない場合は、全社的な対話に先立って、もしくは、並行して、社長・幹部とで会社の目指す方向性や将来像を徹底的に話し合い、明らかにして、社員に伝えられるようにすることが必要です。

折れ線グラフで認識・評価のギャップを見る

タテに3つ並んだレーダーチャートでは、五角形の面積の大きさ、五角形の形状によって、職員による認識・評価のギャップを視覚的に捉えることができるものの、値を厳密に比較することは難しい状況です。

そこで、数値(ドライバ値および指数表示)、折れ線グラフでも確認しましょう。

こちらの一覧表、折れ線グラフでは、メインドライバ、サブドライバに加え、「企業環境分析」「成果分析」「成果」の3要素についても表示されています。

社長、幹部、一般社員それぞれの評価(ドライバ値)を5点満点の指数換算した値が折れ線グラフで重ねて表示されています。各ドライバの評価値の高低や折れ線の形状で、社長、幹部、一般社員による認識・評価のギャップを確認します。

レーダーチャート、折れ線グラフ、ドライバ値一覧表で、ドライバ・診断要素ごとに職位による認識・評価のギャップを把握した後、どうしてそのようなギャップが生じているのか、設問単位まで遡って確認することになります。

着目するドライバについて、そのドライバ値を算出するために用いられている設問を「アンケート設問xドライバ対応一覧表」で特定し、職位による認識・評価のギャップを設問ごとに分析します。

箱ひげ図で認識・評価のギャップを見る

職位による認識・評価のギャップを設問ごとに分析するためには、独自に考案した上述の「箱ひげ図」が便利です。

社長、幹部、一般社員の3つの箱ひげ図を、タテ軸3.00に引かれた赤線を基準にして、上下タテにならべて比較してみましょう。アンケート設問ごとに平均値の高低、箱の上下の長さの違い、箱の描かれている領域の高低などを視覚的に容易に把握することができます。

ここでは、「職位による認識・評価のギャップ」に加えて、「回答者による回答のばらつき度合い」についても確認することができます。

すなわち、箱の上下の長さが短い設問は、皆が共通してそのように認識・評価しているものと言えます。逆に、箱の上下の長さが長い設問は、皆の認識・評価が分かれているものです。

皆が共通して高く認識・評価しているものは、自社の強みであると言えます。逆に、皆が共通して低く認識・評価している者は、優先度の高い要改善項目であると言えるでしょう。

また、皆の認識・評価が分かれているものについては、適切な情報伝達が行われていない可能性があります。しっかりと伝えることによって比較的容易に改善を図ることができる項目であるとも言えます。

幹部の機能を生かす

経営診断を重ねていくにつれ、つくづく考えさせられることは、日本の中小企業が「幹部」の機能を生かし切れていないということです。ほぼすべての診断事例において、「幹部」に関する検出事項が挙げられます。

・ 社長による認識・評価と、幹部による認識・評価との間にギャップがあり、幹部による認識・評価が一般社員によるものに近い。
・ 幹部について問う設問における評価が低い。
・ 幹部相互間の信頼が低い。
・ 幹部間によって認識・評価のばらつきが大きい。

しかし、それを「幹部に問題あり」という一言で済ませてしまうのは身も蓋もなく、解決への糸口もつかむことができません。

そもそも中小企業においては、「社歴が長いから」という理由だけで役職を与えるということが多く見受けられます。そうした幹部社員に対して幹部としての明確な役割を与えることをせず、幹部としての教育も支援もしない。マネジメントの機能が与えられないからプレーヤーに専念せざるを得ない。メンバーから尊敬されるどころか、「同じ仕事しかしていないのに給料が高い」などと批判の目にさらされることも少なくありません。

そんな状況に置かれた幹部にとって、「幹部に問題あり」といわれるのは酷なことでしょう。

自社にとってどのような「幹部」が必要か、その人数、それぞれに担ってもらう役割を明確にすること。幹部登用を含む人事考課の基準やキャリアパスを設ける。社長の目指す自社の方向性や経営方針を幹部に伝え、しっかりと理解してもらう。社長・幹部、そして、幹部間の相互理解を深め、役割分担を明確にして経営に取り組む。これらの過程で知識・力量が十分でないと明らかになった事項については教育・研修によってカバーする。

そうして、社長と幹部とが「一枚岩」になって自社の経営に取り組むようになれば、会社健全度は向上し、長期・安定的な成長軌道に乗せることができるでしょう。

「会社の健康診断」を通じて、社長と幹部の関係性や言葉には表しにくい感情などを浮き彫りにすることができます。

画像はメインドライバ「社長」のドライバ値を測定するための19の設問と、社長、幹部、一般社員それぞれによる回答結果(職位ごとの平均値)です。画像の事例では、幹部による社長の評価が、一般社員による社長の評価よりも低くなっていることが特徴です。その原因は何か一つ特定できるというわけではありませんが、それぞれ自省する、対話による相互理解のきっかけとすることができるでしょう。

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