ウィズコロナの時代に経営者が考えなければならないこと

新型コロナウィルスの猛威が事業活動へ影響を及ぼすようになって、早いもので半年が経過しました。政府や自治体により発出された緊急事態宣言や、なかなか収束の見えない感染拡大状況において、事業活動や私たちの生活は大幅に見直さざるを得ない状況に追いこまれました。

在宅勤務やウェブ会議が拡がり、通勤や取引先訪問のための時間が激減しました。出張もなくなり、会食などの機会を持つことなど考えられない状況になりました。そこで手にした時間で何を考え、何をするか。新型コロナウィルスのおかげで立ち止まることができたからこそ、会社経営において大切なことは何なのか、見えてきたことも少なくないのではないでしょうか。

春先、コロナ禍が始まって以来、私自身も、新型コロナと経営のあり方、経営者のあり方、良い会社、この試練を社会はどう生かすべきか、そのために自分たちは何をすべきか、・・・など、つらつら考えることがありました。
ここでは、少し長くなりますが、所感のようなかたちで、感じたことやそこで考えたことなどを書かせて頂きたいと思います。

コロナが浮き彫りにした経営者の力量差

この半年の間で、新型コロナウィルスによる危機への対応如何によって、企業間で大きな差が生じてしまったのではないかと感じています。危機を前向きに捉え、変化の好機としてポストコロナ、ウィズコロナの時代に向けた対応を迅速化した会社。事業活動への甚大な影響を前に企業存続のために資金繰りなどの活動に奔走せざるを得なかった会社。いつか危機は消え去るだろうという希望的観測のもと目前の問題の処理にのみ奔走していた会社・・・。

コロナの前には、企業間の違いは少なくとも表面的にはあまり見えませんでした。新型コロナウィルスによる危機的な状況が、経営者による事業観、変化対応力、そして社員を大切に想う心などの面での違いを浮き彫りにしたとも言えます。

私の身の回りでも、今回の新型コロナウィルスによる危機において、ぐずぐずしていないで迅速にあらゆる手を打った上でその他の不確実性への対応力を高めるための備えを進めた経営者、会社がいくつかあります。それとともに、そのような会社や経営者は、「どんなことがあっても会社は潰さない。潰れることなどない」という自信を深めています。

新型コロナウィルスの危機に直面しても迅速、的確な対応を図ることのできた会社の特徴として、社員の面で共通した特徴があるように思います。社員が自律的に行動することができる会社であるという点です。いかがでしょうか、みなさんの身近にも、こうした危機に直面して、自然と社員の自律性が出てきた、あるいは引き出されたという会社もあるのではないでしょうか。それは単に社員の能力の差ということではありません。うまくいっている会社とそうでない会社の違いは、経営者がこれまで社員との間で信頼感を醸成し、社員が仕事を通じて学び、成長する環境づくりに真剣に取り組んできたかどうかが、大きな差として表れたものではないかと思います。

良い会社づくりの理論である成長ドライバ理論でも「自律」はサブドライバの一つであり、非常に大切な概念です。危機に直面し、これまでの常識、過去のやり方が通用しないという状況に陥ったときに、社員一人一人が自ら考え、判断し、臨機応変に対応し、的確に行動する。いちいち上司、経営者に承認を求めていたのでは現場の動きは停滞しますから、こうした危機下で事業活動を止めないためには、経営者だけではなく社員がこのように自律的に行動することが決定的に重要です。

もちろん、こうした危機に直面したからといって、突然「自律的に行動せよ」と言っても無理な話です。普段から社員には指示されたことしかさせず、業務手順書やマニュアルから外れた行動を厳しく制約していては、「指示待ち」型の社員ばかりとなってしまいます。一方で、明確な経営理念・ビジョンのもと、社員一人一人に期待する貢献や役割を社員との間で適切に共有し、日々の業務において自ら考え行動することを奨励している会社は、こうした危機下においても迅速、的確な対応を図ることができています。

権限を委譲しただけでは、自律はできません。情報の共有も必要ですし、なにより社員が経営理念やビジョンをしっかり自分のものに落とし込んでいる必要があります。そのような状況が作れていた会社は、自律的に社員が行動しているようです。コロナ禍での会社の差の拡大は、コロナ以前に経営において社員をどれだけ巻き込めていたかによるように思えるのです。

良い会社づくりが高める危機や変化への対応力

各分野のさまざまな専門家、有識者が未来予測をされていますが、共通しているのはプレコロナの状態に戻ることは考えられないということです。新型コロナウィルスの脅威にさらされ、度重なる流行期を経験しつつ、経済活動、事業活動を行う。さらには、今回の新型コロナウィルスを上回る感染力、致死率の新型ウィルスが現れる可能性も否定できません。ポストコロナの時代は正にこうした脅威と共存する(ウィズコロナ)、「ニューノーマル」が必須となる時代であると言えるでしょう。

このような時代に経営者は、変異、進化するウィルスへの対応に加え、政治経済、気候変動、自然災害、技術革新などのこれまでにも直面してきたさまざまな不確実要素を前に、その動向を直視し、自ら先の動きを洞察して的確な手を打っていかなければ、企業を存続、発展させることはできません。

それと同時に忘れてはならないことがあります。前述の「自律」も含めて健全な会社づくりを計画的に進めておくことが大切だということです。健全な会社では、環境の大きな変化があっても、今回のように社員のチカラが発揮され、社長の指揮の下、より進んで会社の生き残りと発展に貢献してくれる存在になるでしょう。

もちろん、このような時期に良い会社、健全な会社づくりに取り組むのは難しいという会社も少なくないと思います。それでも、できることは少なくないように思います。まず、社員に目を向けましょう。

これはどんな時にも当てはまることだと思いますが、会社を成長させたい、大きくしていきたいと思うのなら、いかに社員に夢をもってもらうか、いかに社員に希望を与えるか、これが決定的に大切なことです。経営者が一人でできることなど、たかが知れているのですから。

そのためには、経営者は5年後、10年後の会社の姿を具体的、明確に思い描き、その会社のありたき姿をストレートに社員と共有し目標として掲げるのではなく、「社員の夢」「社員の希望」というフィルターを通してこれを表現することです。いま、がんばってここを乗り越えればどんな世界が待っているのか。自分はどんな状態になっているのか。社員一人一人の夢や希望と重なるように目標を掲げることです。会社の目標と社員個人の目標とを重ね合わせるということですね。「5年後に年間売上高100億円を目指す!」などと言われるよりは、「5年後に業界シェアNo.1を達成し、社員の給与を倍にする!」という目標が掲げられた方が自分ゴトとして取り組むことができるため、同じ目標を掲げるにしても実効力には大きな差が出てくることでしょう。

パンデミックという危機に直面した今、平常時よりも大きな不安を社員は抱えています。こういう時だからこそ経営者は、ポストコロナの時代の経済、社会の姿を予測し抜き、この危機を乗り越えた後の自社のあるべき姿を明確に思い描いた上で、社員目線に立って共有し、指針を示す必要があります。

そのためには、これから先の経済、社会についてさまざまな予測がなされていますが、それらを参考にしつつ、しっかりと自分で考え、自社の経営の基本メカニズムを改善、強化するにはどうすればよいか考え抜くことです。すなわち、良い会社づくりにしっかりと向き合うことです。

繰り返しますが、コロナ以前の状態に戻らないことは明らかなのですから、何もせずに、いつか元に戻る、感染の広がりはいつか収束するということを期待するのではなく、業態や業種の変換を含め、中長期的視野に立って、進むべき道を考え抜き、手を打っていくことが求められます。こうした転換は、時がたてばたつほど困難な状況に追い込まれます。クライシスに直面した今だからこそ、一気にやってしまうことも考えられます。今であれば、政府や自治体、金融機関、業界団体などによるさまざまな支援策を活用することができます。危機に直面した今だからこそ(慣れっこになっていない)社員や取引先を巻き込んだ大胆な転換、変換を行うことができるとも言えるかもしれません。

強すぎるリーターシップには要注意

今回のコロナ禍のような危機的状況は、会社を変えていくチャンスであることは間違いありません。でも、だからと言って「ピンチはチャンス」とばかりに強引に改革を進めていくことだけを考えていればよいというわけではありません。社員がその動きについていくことができないというような事態を起こしてしまっては元も子もなくなります。

危機は変革のチャンスであることは確かなのですが、同時に、経営者が「上滑り」して組織がバラバラになってしまうリスクがあることも念頭に置いておく必要があります。しっかりと社員に思いを伝えることです。理解を深めてもらうため社員との対話も行うも効果的だと思います。

経営者が考え抜く中で意識して頂きたいことがあります。ひとつの物事には、どんなことにもプラスの面とマイナスの面がある、つまり両面あるということです。プラス面を生かして事業変革、組織変革に結びつけていくという発想はできやすいのですが、そこには必ずマイナス面も同時に存在しているので、そこにも配慮する必要があります。

特に重要なのは、マイナス面だと捉えていたものが、それをどう解釈するかによって、実はプラス面だった。あるいは、それにどう向き合うか、どのように利活用するかによってプラス面になるという可能性があると思うのです。例えば、観光業界はコロナ禍で大打撃を受けていますが、マイクロツーリズムによる地元の魅力開発につながっています。コロナ禍による不便、不満、不都合・・・などが、実はプラスの価値に転化できる原石だということです。物事には、両面あって、「絶対的にマイナス」と決めつけるのはもったいないということです。視野を広く持つ必要があると思うのです。

こうしたことを踏まえ、考え抜くことです。そして、経営者は偏った狭い視野でものごとを決めつけ、拙速な判断、行動をするのではなく、社員の気持ちにも寄り添って目指すべき方向性を指し示し、理解と共感を育みながら行動することを心がけたいものです。

大きな変化に直面し、大きな変化を起こしていかなければならない時だからこそ、独りよがりな「べき論」をふりかざすのではなく、社員一人一人が自ら気づき適応していっているのだという実感を持たせながら、変わっていく必要があります。このような危機下においても、常に社員が安心感、安全感を持てるようにしてあげるということが大切なのです。そのために、平常時以上に留意すべきことは、より積極的な情報開示、より丁寧でわかりやすい説明、納得感のある施策を講じることです。

いくら素晴らしい経営改革であっても、社員が少しでも「やらされ感」を感じてしまっては、改革のスピードは極端に落ち込んでしまうものです。社員のチカラが発揮されることなく、危機に打ち勝ち成長していくことはできません。指示・命令ばかりでは社員の自律性を引き出すことなどできません。これは、平常時であろうと危機下であろうと変わりません。危機下においてはありとあらゆることが変化する、あるいは、変化しなければなりません。だからこそ、トップのスタンスが試されているとも言えるでしょう。


さて、有事に直面した経営トップの在り方、考え方について縷々述べてきましたが、次節からは成長ドライバ理論のフレームワークを用いて具体的な思考ポイント、チェックポイントを紹介していきます。

経営のフレームワークを活用して対応をチェック

これまでであれば5年、10年かけてゆっくりと起きていく変化が、新型コロナによってわずか数か月のうちに起きてしまいました。また、アフターコロナ(実態としては「ウィズコロナ」)の時代に起きていく変化や人々の価値観なども見えてきました。ある程度方向性が見えてくれば、それと自分の会社の現状と比較して、変化への対応が可能なあるべき姿へと近づけていく。そのあるべき姿をイメージする際には、経営の基本メカニズムである成長ドライバ理論のフレームワークを用いて検討するとスムーズに行えるでしょう。世の中は大きく変化しましたが、ものごとの本質は変わっていない、変わらないはずです。

自社の状況を10個のドライバの視点でチェック、検討し、方向を見据えて準備する、あるいは、一歩踏み出す。こういうことに早々に取り組んでいただきたいところです。

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社長

こんな時だからこそ、社長が自省する絶好の機会であると言えます。危機に直面した時、社長として、社員に対して的確・明確に対応方針や進むべき方向を示すことができたでしょうか。社員が将来に対して不安を抱くことなく、共に乗り越えていこうという気持ちを喚起させることはできたでしょうか。このように大きな環境変化にさらされても事業を通じて成し遂げたいことや思いは揺らぐことがなかったでしょうか。社員やその家族の生命の安全が脅かされるという事態になった時、何を優先していたでしょうか。経営者として、コロナに立ち向かう自分の姿勢や思いを、立ち止まって考えてみていただきたいところです。

クライシス対応の本質や、これから先の経済、社会におけるさまざまな変化を読み解き対応を図ることなど、本稿の前編で記述したことを踏まえ、先頭に立って「経営理念・ビジョン」「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」の各ドライバを実際に動かしていかなければなりません。社長自らがこれまでのクライシス対応を振り返っていただき、新たに方向性を見定めたら、どこからでもいいのでまずは動くことです。できることは限りなくあるはずです。すべてを同時にやる必要はありません。この機会を生かして企業変革を起こし、成長軌道に乗せていきましょう。

経営理念・ビジョン

こうした危機に直面し、この影響がいつまで、どこまで続くのか分からないといった状態に陥った時、それでも人心を一つにまとめて危機を乗り越えていく力の源となるものが経営理念・ビジョンです。あなたが示してきた経営理念・ビジョンは、危機を乗り越えるパワーを備えたものだったでしょうか?経営理念・ビジョンが社員の皆さんにほんとうに理解、共感されていて、会社経営の軸となっているかどうかは、こうしたクライシスが起きたときにこそ分かるものです。経営理念・ビジョンが判断の軸として機能していなければ、厳しい経営環境に直面して、事業面でも、組織面でも次々と問題が起こり、成果を上げることなどできなくなるでしょう。

一方、経営理念・ビジョンが全社でしっかりと判断の軸として機能しているのであれば、その経営理念・ビジョンを今回のコロナ禍とを結びつけて見つめ直すことにより、新たな気づきを得てスムーズに先手を打っていくことができるでしょう。自社の経営理念・ビジョンを危機的な状況やそこで起きたさまざまな事象と関連付けて考えることにより、経営理念・ビジョンに対する解釈をより深めていくこともできます。

経営者にとっては、これまで掲げてきた経営理念・ビジョンの本気度、思い入れの強さを測る良い機会となるでしょう。例えば、経営理念に「社員の物心両面の幸せを追求する」と掲げておきながら、こうした危機に直面して安易に社員を解雇するようなことをしているようでは、その経営理念は上辺だけのものだったということになります。経営理念に反するようなことを考えていたり、実行してしまったりしていたとしたら、経営理念に対する考え方や思い入れが足りていなかったということ。そのようなレベルのものであるならば、平時であっても到底、会社、社員を動かす力になどなり得ないということです。

ビジネスモデル

コロナ禍になって既に半年。ポストコロナ、ウィズコロナの時代の姿がある程度見えてきたと言えるでしょう。それを踏まえて、自社のビジネスモデルを見直し、新たな時代に適応したものにしていく必要があります。ここでも、これまでと同様に、ビジネスモデルを吟味するフレームワークをそのまま活用することができます。

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良いビジネスモデルを構築するためのフレームワーク「バリュースターモデル」についての詳細は、こちらを参照してください;
https://note.com/yoikaisha/n/n0bbce1a67080

モデル図の中央の「提供価値」、すなわち「顧客が求める価値」は、このコロナ禍を経て大きく変化しました。商品・サービスに対して顧客が求める価値として、「安全・安心」「健康」「リモート」「バーチャル」「ソーシャルディスタンシング」といった要素がより重視されるようになっていくでしょう。こうした要素を重視し変化する顧客の嗜好に対して、コロナ以前からのビジネスモデルをそのままの状態にしていたのでは、顧客をつなぎとめることはできません。顧客の嗜好の変化に対応して、自社の商品、サービスを改良・改善していかなければなりません。もし、ビジネスモデル、特に提供価値を変化、進化させることができないのであれば、ターゲット顧客を変え、集客の方法も変える必要があるでしょう。例えば飲食店のケースですと、まず安心・安全を重視して座席数を減らし、相応の感染対策を施すために回転率を意図して引き下げる必要があると考えた場合、それでもビジネスとして成立させるためには食事やサービスの価値をそれまで以上に引き上げる必要が生じます。もし食事やサービスの価値を向上させることができないのであれば、これまで同様の座席数、回転率でも受容可能という顧客層を新たなターゲットとすべきということになります。

そして、ターゲット顧客や提供する価値が決まれば、その価値をどう生み出していくか、ターゲット顧客をどう集客するかという点も再考しなければなりませんし、また、提供価値が変われば相応しい課金の方法も変わってくるでしょう。こうした新たなビジネスモデルを具体的に動かしていくためのシステム化・型決めも相応しいものへ変化させなければなりません。

システム化・型決め

システム化・型決めは、ビジネスモデルや組織運営などの多岐に渡る局面で重要な役割を果たします。コロナ禍においては特に次の3点についてスピーディな対応が求められました;
・無駄・非効率の徹底的な排除
・リモートワークを促進する工夫
・上記2点を実現するシステム化

ソーシャルディスタンシングの要請は事業活動や業務運営の制約条件となりますが、だからといって手をこまねいているわけにもいきません。まずは、制約を受ける業務プロセスを省略、排除する、やり方を変えるなどをして、制約から逃れることを考えるべきです。さらに、その制約をクリアするためのさまざまなシステム、ツール類が利用可能となっています。自社の事業や業務に合わせて適切に選択し、導入を図っていきましょう。

一方、ビジネスモデルの「価値を生む方法」の観点からは、こうした制約を工夫次第でむしろ競争優位にしてしまうということが考えられます。「安全・安心」「健康」「リモート」「バーチャル」「ソーシャルディスタンシング」などを、同業他社よりも圧倒的に高いレベルで提供できるような仕組みを作ることです。

組織運営の面では、テレワークやシステム化を促進することによって失われがちな「人と人とのコミュニケーション」について、その影響をカバーするなんらかの仕組み、ITツールなどの導入により補完しなければなりません。むしろ、そうした工夫をすることによって、従来よりも一層、有効で充実した社内コミュニケーションを実現することができるでしょう。コロナ禍を契機にITツールがどんどん進化・発展しているので、常にアンテナを張っておくべきです。「このウェブ会議ツールを導入したからもう十分だ」というように、そこで満足してしまうべきではありません。Zoomも不満に感じることも少なくありません。会議システムとしてはまだまだまだ初期的なものでしかありません。「文明の利器」の導入による生産性アップなどの効果はこれまで以上に大きくなり、導入する・しないの差が大きくなっていきます。

それから、リモートワークの進展との間でよく話題に上るのが、評価や処遇の問題です。在宅勤務が中心になると評価の仕組みを変える必要があるのでしょうか。リモートワークではこれまでのような評価ができないとあきらめるのではなく、工夫することが大切です。むしろ、リモートワークのメリットをもっと生かすことを考えるべきなのです。上司と社員との面談も、リアルで実施するよりもウェブ会議ツールを介して話をする方が話しやすいという意見も多く聞かれます。リアルでの面談よりも画面を通した方が、むしろ深い話ができるのかもしれません。また、オフィスという同じ場で仕事をしていたとしても、果たしてどれくらい部下の仕事を見ていたでしょうか。物理的には近い距離にいても、何を考え、何をしているのか。どれだけ社員の仕事を把握していたでしょうか。オンラインでの深い対話を通じて、単にオフィスという場を共有している以上に社員の業務遂行の状況や成長の様子が分かるようになるはずです。

さて、上述のようなオンライン化、システム化を一気に進めるのは良いのですが、ここで注意しておきたいことは、どうしてもそうしたツール類に苦手意識を持った人が一定数いるということを忘れないことです。ついていけない社員を「置いてきぼり」にしないこと。スピードも大切ですが、一人残らずしっかりフォローし組織全体として着実に変革することを目指しましょう。今後の感染拡大の状況にもよりますが、感染拡大が収束し「ウィズコロナ」の状態で安定すれば、リアルとリモートの組み合わせによって最適なワークスタイルを構築することができるでしょう。以前のような完全リアルのワークスタイルに戻るということでもなく、完全リモートを維持するということでもなく、リアルとリモートそれぞれの良さを生かしつつ、ハイブリッドな最適解が一般化していくのではないでしょうか。そうした動きにも関心を持っていくというのが大事だということです。

行動環境

ビジネスモデルやシステム化・型決めを具現化するのは社員ですから、「行動環境」如何によって成果は大きく変わってきます。先にも述べましたが、こうした危機に直面しても組織として迅速、的確な対応ができる会社というのは、社員が仕事を通じて学び、成長する環境を育んできた会社です。「リモートワークの環境では社員のマネジメントができない」「社員の育成ができない」「社員の評価ができない」という人もいます。でも、そう決めつけて何もしない経営者、上司は、そもそもコロナ以前の状況でも経営者、上司の役割をきちんと果たしてきたのでしょうか?むしろ、この機会に自省すべきです。プレコロナでもしっかりと経営者、上司の役割を果たしてきた人は、リモートワークの環境に変化したとしても、むしろ社員がより育つようなことをしているのです。そもそも自分の役割はなんだったのかと整理してもらいたいところです。

以下、この行動環境を構成する5つの要素に分けて見ていきましょう。

信頼

これまでに誰も経験したことのない今回のような甚大な環境変化にさらされると、誰もが不安になるものです。「うちの会社は、コロナの影響でつぶれてしまうのではないか」「これから先、生活は大丈夫だろうか」などといった不安を抱えた社員に対して、会社として、経営者としてどのように考えているのか、どのような手を打っているのか、財務状況はどうかなど、社員に理解できるようにわかりやすく伝えることが肝要です。こうしたことは、もちろん平常時でも必要で大切なことではありますが、クライシスにおいてはさらに強いメッセージをわかりやすく、伝わるまで繰り返し発信する必要があります。

また、パンデミックは生命の問題にかかわることなのですから、社員やその家族の生命の安全に配慮しているということを、「言わなくてもわかるだろう」というのではなく、具体的に語りかけ、ありとあらゆる施策や方針をもって明示的に伝えるとよいでしょう。

リモートワークの環境下では、経営者と社員、上司・部下、社員同士が離れて仕事をしなければならない状況となります。それまでに社内で信頼が培われていたかどうかということが白日の下にさらされたことでしょう。うまくリモートワークへシフトすることができなかった会社、リモートワークになった結果うまくいかなくなった会社は、そもそも、マネジメントにおいて最も重要な、押さえておかなければならない「信頼」が抜け落ちていたということになります。ですから、それぞれの仕事がバラバラになったり、自律した仕事ができなかったり、ストレッチができなかったりということなのではないでしょうか。組織における信頼感が十分に醸成できていれば、社員が自律し、ストレッチして、危機への対応を率先して行うものです。経営理念・ビジョンをしっかりと伝え、全社でこれが共感・理解きれていれば、経営理念・ビジョンに沿った行動がなされるはずです。危機対応においては、むしろ社員の裁量の幅、自由度が拡がるため、社員がより一層育ち、良い成果が上げられるのだと思います。

ストレッチ

経営者からは、こうした時にこそ、皆の力、皆の発想が会社を救うのだという「経営者からの期待」を示し、「共に行動しましょう」と働きかけることが有効です。信頼が醸成されていればという前提条件が付くことにはなりますが、社員に自分の素の状態、感情を見せる、自分の弱い部分を見せる。社員から、上司、経営者を助けたいという気持ちを起こしてもらうには、自分の力だけではこのウィズコロナの時代を乗り越えることは難しい、ましてや会社を成長させることは難しいという弱さを示すことです。すると、社員の人たちが「今こそ自分たちの出番だ」と思うようになるでしょう。経営者からのそうしたメッセージによって、社員は「ストレッチをしてもいいんだ」ということが理解でき、行動に移すことができます。

むしろ、こうした危機時は、社員の自律やストレッチを伸ばす絶好のチャンスだと捉えるべきです。平常時であれば、決められたことを決められた通りにやってさえすればある程度の成果を上げることができますが、こういう時期だからこそ、一人一人に求められるものが大きく、一人一人、自分で考え、判断し、行動しなければ危機を乗り越えることができません。

生命の安全が脅かされる事態だからこそ、「皆が困っているんだから、何か自分でできることがないか」という気持ちが自然と湧き上がってくるものです。困っている人を助けたい、皆と協力して一緒に乗り越えていきたいという自然な感情を大切にして、具体的な言動へと導いてあげるとよいでしょう。

サポート

これまでに誰も経験したことのない状況、環境ですので、言葉で説明するということは困難です。率先してやってみせることで、「こうした行動が求められているんだ」と具体的に考えられるようにしてあげることが有効です。そして、一緒に考え、伴走してあげるというサポートも有効です。

リモートワークが拡がっていますが、そのメリットとして「距離感が近い」ということはサポートにプラスに生かせるのではないかと思います。リアルのワークプレイスでは確かに場を共有しているものの、接点は極めて薄いものだったのではないでしょうか。オンラインでの面談では、リアルでの面談よりも、むしろ深い話し合いをすることができるようです。公私の両面にわたって社員のことを深く知ることができるため、評価や成長支援もリアルよりもずっと効果的にできるはずです。部下が成長するような支援、サポートも、リモートの「深くコミュニケーションできる」というメリットを生かせば、社員を成長させるサポートができる。こうした意見に違和感を覚える人もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも、そうした仮説をもって取り組むかどうか、この取り組み姿勢如何で大きく変わってくるはずです。

また、リモートワークの広がりにより、孤独感を覚える社員や、仕事をやりすぎてしまう社員が生じがちです。そうしたところをいかに守ってあげるか、「目が届かない」とあきらめるのではなく、工夫をすることです。

自律

「ストレッチ」のところで述べた通り、こうした時だからこそ、社員一人一人が自分で考え、判断し、行動することが求められます。経営者としては、社員にどのように自律を促していくかを考える必要があります。損益や財務状況などの経営情報を適時に社員と共有することはもちろん、時々刻々変化する社会の情勢についても、文献やデータとともに経営者としての視点・分析を添えて全社に発信していくとよいでしょう。

自社の経営理念・ビジョンをコロナ禍と関連付けて解説し、理解を深めるよう働きかけることも有効です。

コロナ禍で社員が活躍できる場、自ら工夫することのできる領域が広がっていることは明らかです。そこにやりがいを見出してもらえるようなマネジメントを進めていくことが肝要です。社員にとっては大きく成長できるチャンスです。こうした機会を捉え社員の自律を引き出し、促すことのできる会社は、このコロナ禍をむしろ追い風にして成長することができるでしょう。

規律

リモートワークが広がることによって、これまで以上に、社員一人一人に任された仕事をしっかりとやり遂げないと組織として成果を出すことが難しくなります。「規律」がさらに重要性を増す時代になったと言えるでしょう。こうした時だからこそ、経営者として規律ある行動を率先して見せるべきです。トップがしっかりと行動して規律を示すのです。但し、組織としての成果を上げるため、また、環境変化に適切に対応するためには「自律」を高めることが重要なので、「規律」でしばるものは少なくする方向性の方が望ましいでしょう。そのことに留意しながら、重要な必要最小限の規律についてはしっかりとやり切るようにしていくべきです。



以上、コロナ禍の中で経営者がどう考え行動するとよいか、私なりに感じ、考えたところを書いてみました。できれば「成長ドライバ理論のフレームワーク」のnoteについてもお読みいただけると幸いです。 (東渕)

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