経営の基軸として機能する経営理念・ビジョンとは?

会社が成長する原動力となる要素。次に「経営理念・ビジョン」について説明します。

これは、もはや言及するまでもないことかと思いますが、経営理念・ビジョンは経営の核となるものです。何のために我が社が存在するのか。何を重視するのか。どこを目指すのか。そうしたことを明らかにし、事業や経営にかんして何らかの意思決定するときに常に判断基準となるものであるということですね。常にそこに立ちに戻って意思決定をするということです。

「行動環境」のサブドライバとして「自律」が大切だと説明しました。つまり、自分で判断し、行動するということです。その時に、自分の判断基準と会社の判断基準がずれているとまずいことになりますので、社員一人ひとりに会社の理念・ビジョンが浸透していることが必要となります。自ら共感し、理解した経営理念・ビジョンに照らして、社員が自分で自分を、自分の行動を決めていくということですね。その時の基準となるのが経営理念・ビジョンです。

それから成長ドライバ理論のフレームワークで描かれているように、「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」の拠り所となるものが経営理念・ビジョンです。

以上のように、経営の基軸としてひじょうに重要な経営理念・ビジョンなのですが、言葉としての経営理念・ビジョンが先行してしまっていて中身がついていけていないということが往々にしてあります。

そうならないために決定的に重要なことは、「社長の想いと志の結晶」と言えるまでのものにするということです。

経営理念・ビジョンでいくら崇高なことを掲げていたとしても、社長の人格がそれに伴っていないようでは絵に描いた餅としか言えません。私人である社長と法人である会社とは、法人格としては別ものではありますが、社長個人の想いや志、人格のすべてを結集した経営理念・ビジョンが掲げられていること、社長個人の想いや志、人格を反映した会社であることが極めて重要なのです。

介護シューズの国内シェアナンバーワン企業で、盛和塾世界大会や「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」など多くの表彰を受けている徳武産業株式会社の十河孝男会長は、「経営理念は変えていってもよい」と強調します。社長個人の成長とともに経営理念が変わっていくことが、むしろ自然なことだとおっしゃっているのです。

経営理念・ビジョンは単なる飾り物ではなく、経営の基軸として有効に機能しなければなりませんから、社長自身の想い、それから志というものを強いメッセージとして経営理念・ビジョンに込めなければならないということです。だから、社長自ら自分と深く対話して、自省を込めて経営理念・ビジョンを策定していくことが大切だということです。

それから、上述の通り、社員一人一人の判断、行動の拠り所として機能するためには、経営理念・ビジョンが組織全体に浸透していることが必要となります。

私は、以前、組織においてよく浸透している会社の経営理念・ビジョンはどういうものなのかということを調べたことがあります。そこでわかったことは、①社会貢献と自己実現の要素が込められていること、②繰り返し説き、率先垂範で実践すること、③順番を間違っていないこと(「信頼」の醸成が先)の3つでした。

まず、社会貢献と自己実現の要素が必要です。「社会に貢献する」は、本心からかどうかはともかくとして、たいてい、どの会社でもこの要素はある程度入ってるかと思うのですが、これは最低限必要なものであり、さらに自己実現の要素が大切です。自己実現というのは社員の自己実現。仕事を通じて成長することができる、自分の能力を生かすことができる、自分の夢を実現できるんだということを経営理念の中にうまく投影できているといいですね。

それから2つ目、「繰り返し説き、率先垂範で実践する」は、そのままの意味でとらえてください。

3つ目に「順番を間違えない」ということを挙げさせていただきました。

私が関与してさまざまな改善行為や実験をさせていただいたいくつかの会社さんで、経営理念・ビジョンを作って、次にクレドの策定や日常的な読み合わせなどの施策も実施したのですが、あまりうまくいかなかった時に、なぜうまくいかないのだろう?セオリーでは経営理念・ビジョンがより深く浸透するはずなのに・・・とその要因を探ったことがありました。その分析から、信頼感の欠如が決定的な阻害要因となっていたことがわかりました。信頼していない社長のもと、信頼感がないところでいくら経営理念を浸透させようとしても、それは無理でしたね。だから、そういう場合には経営理念・ビジョンを浸透させようと強引な努力をするのではなくて、ちょっと一歩立ち戻って、従業員との間で信頼感を取り戻せるような、あるいは培うことができるような取り組みを実施して、ある程度のレベルに達した後に経営理念・ビジョンを浸透させていく努力をしていくということが必要です。

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