「信頼」を高めるには
日本の中堅・中小企業において社員が育っている職場に共通する特徴として、「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」、そして、真ん中に「信頼」が置かれるとご説明しました。日本では、欧米(および日本の大企業)とは異なり、「信頼」が中心に置かれる。「信頼」が低ければ、かたちとして「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」というものがあったとしても実際には効果が発揮されないということです。
ということで、いつも、日本の中堅・中小企業において「信頼」というものが会社が長期安定的に成長するために極めて重要なものとなるというご指摘をさせていただいております。
そんな中、先日、ある地方銀行さんで「良い会社のつくり方」セミナーを開催した時のこと。
質疑応答で最初に手を挙げてくださった経営者の方のご質問は、「『信頼』がすべてのベースとなるものだということでしたが、その『信頼』を上げるにはどうすればよいのでしょうか?」。
これに対して私の口をついて出たことばは、
「信頼」を上げようと思わないことですよ。
でした。
回答になっていませんか(笑)?
「会社の健康診断©」の70の設問には、売上高経常利益率や社員の離職率、顧客満足度の向上など明らかな結果指標のほか、その設問項目について直接改善できるものもあれば、「私は自分の会社に愛着を持っている」などのように直接向上させることが難しいものも含まれています。
ドライバごとに、それぞれのドライバ値を算出するために使用する設問項目を見ると、特にサブドライバ「信頼」においては、それを直接向上させることが難しい設問項目が多く含まれていることが分かります。
良い経営者となるための、良い会社にしていくための、さまざまな事項に真摯に取り組んでいくことによって、結果的にそれらのレベルが向上するという項目が含まれているのです。
「信頼」を上げたいと思ったら、少なくとも年一回は全社員を対象とした匿名のアンケート調査を実施することが不可欠でしょう。そして、そこで判明した社員の声なき声に耳を傾け、経営者や幹部による言動、施策、改善行為などによって具体的に「対応」をしてみせることです。
できれば、アンケート結果についてひとりよがりな解釈をするばかりではなく、社員さんたちと話をするとよいでしょう。
そうすることで、個別・断片的なテーマに気まぐれに取り掛かるのではなく、いま自社にとってもっとも大切なことに取り組むことができ、速やかに成長軌道に乗せられるようになるはずです。
私のこれまでの経営診断と改善助言の経験から、会社健全度が50点から60点台前半くらいまでの状態では、「信頼」から手を付けることは必ずしも効果的ではないと判断しています。
その前に、長期的な会社が目指すべき方向性を明らかにすること、それに向けてしっかりと事業のベースを整え、稼ぐ仕組みを作ること。それが、「この会社で働くこと」に対する不安や心配を払しょくし、経営者、幹部に対する肯定的な見方へとつながっていくのです。
また、もう一つ重要なこととして、特定のメインドライバ、サブドライバを上げるための具体的な個別手法は何か・・・という視点に飛びつく癖が、全体思考、統合思考の経営に逆行するということが挙げられます。
会社経営は、さまざまな要素が相互に複雑に関連しあっているものです。特定の事項について、小手先の即効性のある手法を探そうというスタンスでは、全体最適を実現することが難しく、かえって逆効果になってしまうということが起こりがちです。
常に成長ドライバ理論のフレームワークを頭に思い浮かべながら、全体的な思考で経営に取り組まれると良いでしょう。
以上を踏まえていさえすれば、「信頼」を直接向上させるために有効な手法を採用することになんら問題はありません。
次回は「信頼」を向上させる極めて効果的な手法についてご説明させていただきます。
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