良い会社の事例を学ぶ際に大切なこと
優良会社の見学やヒアリングを通して学んだことを自社の経営改善に生かすことを、「ベンチマーキング」といいます。ベンチマーキングというと何やら固くなるので、良い会社の見学ツアーと言っておきましょう。良い会社の見学ツアーに参加されたことのある方も多くいらっしゃると思います。
でも、良い会社の見学ツアーは参加しても思ったほど成果が上がらないことってありませんか。往々にして優良な会社の表面上の素晴らしさしか目に入らず、「すばらしいな~」で終わってしまって、自分の会社の経営改善に役立てられないことが多いのですよね。
今回は、学んだことが役立てられなのはなぜか、役立てられるようにするには、見学の際にどのようなことを学べばよいかということについて簡単に書かせて頂きます。
一例から。高知市にネッツトヨタ南国株式会社という会社があります。全社員が幸せになることを経営の目的にしながら、280社あるトヨタのディーラーの中でお客様満足度日本一を13回も獲得している会社です。非常に良い会社ですので、2002年に日本経営品質賞を受賞後も、今でも多くの見学ツアーやベンチマーキングの対象なっています。
見学者の多くは、NICOシステム(来社したお客さまのクルマのナンバーをインカムで伝え、キーボード入力するとデータベースが一瞬で表示され、スタッフが名前を呼んでお出迎えすることができるPCシステム;ネッツトヨタ南国が開発)が顧客満足の大きな要因だと思ってしまいます。たしかに、お客様は名前を呼ばれてお出迎えをされて感激される、ということです。
この話を、見学会の中で聞いた他の自動車ディーラーの経営者の中には、このシステムがお客様満足向上の強力なツールだと考えて、自社に導入したケースがこれまでいくつかあるそうです。
ところが、実際、このシステムを導入して成功したディーラーはないようです。なぜ、同じ業態で、同じシステムなのに効果を挙げられないのでしょうか。
理由はこうです。NICOはお客様情報のデータベースのメンテナンスが大切です。来店時のデータを細かく毎日追加して、常に最新の正確なデータベースにしておく必要があります。
でも、直接売上げに繋がりにくいので、社員はこの作業をつい疎かにしてしまいがちです。そうなると、あっという間にデータは古く、不正確になり、だれもNICOを使わなくなってしまうということです。
お客様にもっと喜んで頂きたいという強い思いが多くの社員にないとNICOは機能しないのです。 ネッツトヨタ南国で、この手間暇かかる作業ができているのは行動環境が非常に優れているからなのです。
行動環境、信頼はもとより、とくにストレッチ、サポート、自律、規律のレベルが高いのです。このことが、データのメンテナンスを厭わずに行うことに繋がり、NICOを機能させていたのです。
導入してもうまく機能しなかったディーラーの経営者は、無理もありませんが、見学の際にNICOが有効に機能する前提条件(「イネーブラー」といいます)にまで、意識を広げて見ることができていなかったのです。
成長ドライバ理論のフレームワークでいえば、NICOはシステム化・型決めに相当します。だから、社長、経営理念・ビジョン、ビジネスモデル、行動環境と相互に影響し合っています。
ここまで広げてNICOシステムを理解する必要があったのです。そして、そのうえで、NICOだけではなく、行動環境等まで含めて真似る必要があったのです。
では、仮にビジネスモデルが優れた会社を見学するときはどうでしょうか。お分かりですね。
そうです。ビジネスモデルだけ熱心に学ぶのではなくて、それが機能している条件を、社長、経営理念・ビジョン、システム化・型決め、行動環境を思い浮かべながら聴いて学ぶことが大切なのです。
お分かりいただけましたでしょうか。良い会社見学ツアーやベンチマーキングでは、成長ドライバ理論のフレームワークを頭に思い浮かべながら、10個のドライバは、それぞれどうなっているのか?を意識しながら学ばれるとよいでしょう。