会社が長期・安定的に成長するためには社員が仕事を通じて学び、成長する行動環境が備わることが必要
会社が成長する原動力となる要素「成長ドライバ」。次は、メインドライバの一つ、「行動環境」について説明します。
これまで、会社が短・中期で成長するメカニズムについて説明しました。
会社は、顧客に商品やサービスを提供して利益を得ます。どのようにして利益を生み出すのか、その仕組みが「ビジネスモデル」です。中には、ちょっとしたヒット商品や新規サービスを原動力にして急成長している会社もあります。そのような会社は、効率的な生産体制やサービス提供方法が整っていないことが少なくありません。当然、それでは顧客に飽きられたり、すぐに真似されて他の会社が類似の商品・サービスをより安く提供したりすると、一気に売り上げが落ちて会社が傾いてしまいます。その意味で「一時的な成功」と言わざるを得ません。
しかし「システム化・型決め」が伴うようになれば、ビジネスモデルの効率性が高まり、精緻化され、一時的ではない実効力を持つようになります。これによって初めて、ある程度の期間にわたってしっかりとした成長が可能となります。
とは言え、時間が経てば顧客のニーズが変わったり、ライバル会社がより良いものを提供したりするなど、ビジネスモデルは徐々に陳腐化していきます。その意味で、システム化・型決めができ上がったとしても、まだ成長軌道に乗ったとはいえないでしょう。それは、常に改善し続けたり、イノベーションを生んだりする力が伴っていないからです。改善やイノベーションの原動力は「社員」、つまり「人」です。「人の成長」を生み出す力や仕組みが経営に組み込まれていなければ、中長期的に安定した企業成長は実現できません。
ここでいう「人の成長」とは、単なるスキルの向上だけを意味するものではありません。「お客さまに満足してもらいたい」「仕事のやり方を改善したい」「仕事を通して自らを高めたい」等、マインド面での成長も意味しています。経営がうまく回り、企業が中長期的な成長軌道に乗るためには、単に「ビジネスモデル」や「システム化・型決め」ができているだけでなく、人が成長できる「行動環境」を同時につくっておく必要があるのです。
このように企業環境はどんどん変わっていくわけですから、短期の視点でメカニズムがうまく動いていても長くは続きません。企業環境が変わればビジネスモデル、システム化・型決めが古くなるので、これらを常に進化させていく必要があるのです。
どういう方向で進化させていくべきか道しるべとなるものが、経営理念・ビジョンです。一方、ビジネスモデルやシステム化・型決めを変化・進化させていく主体は社員です。メインドライバ「行動環境」は、この社員が有効にビジネスモデルやシステム化・型決めを進化させるための原動力となるのです。すなわち、会社が長期・安定的に良い会社として生き残っていき、成長していくためには、仕事を通じて社員が育つということが決定的に重要だということです。
では、職場がどういう条件を満たしていれば社員は働くことを通じて成長することができるのでしょうか。これを「行動環境」と言います。どのような行動環境が備われば、社員が仕事を通じて学び、成長するのか。
この重要性に初めて言及したのが、先に紹介したゴシャールとバートレットです。
クリストファー・A・バートレット&スマントラ・ゴシャール著『The Individualized Corporation 』(邦訳:『個を活かす企業』ダイヤモンド社)。1998年に発行された書籍です。彼らが欧米を中心に社員が成長している大企業20社を対象に、1社あたり6か月ほどかけて精査をしました。そして、社員が成長している会社の職場には、「ストレッチ」「サポート」「規律(=自分で自分を律する自己規律)」「信頼」が共通して見られると結論づけました。