日本の中堅・中小企業における「社員が仕事を通じて成長する」組織の特徴
職場がどういう条件を満たしていれば、社員が働くことを通じて成長することができるのか。どのような行動環境が備われば、社員が仕事を通じて学び、成長するのか。この重要性に初めて言及したクリストファー・A・バートレット及びスマントラ・ゴシャールによる研究結果を見て、私は、なるほどそうだという風には思いました。
ただ、大企業ばかりを対象とした調査、まして日本企業は2社しかないということで、果たして日本の中堅・中小企業にもそのまま当てはまるのだろうかと疑問を持ちました。そこで、日本の中堅・中小企業において、社員が育っている職場に共通する特徴を自ら調査することにしたのです。約7年間ずっとこの課題を掲げてフィールドワークを続けておりました。一社あたり最低でも6ヶ月、長いところでは3年くらいにわたって月一回ペースで訪問し、さまざまなヒアリング調査や、ヒアリングを通じて明らかになった課題に対する改善の取り組みを提案し、実際に取り組んでいただいてデータを取り仮説検証を行うという積み重ねでした。
そしてその結果、社員が育っている日本の中堅・中小企業の職場の特徴というのは、ゴシャールとバートレットによる結論とはやや異なるということが確認できたのです。
それが、画像の図に表したものです。
この図を見ますと、社員が育つ行動環境の条件として、「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」、そして、真ん中に「信頼」ですね。これらの要素が表されています。ゴシャールとバートレットによる図と似ているのですが、違いがいくつかあります。
まず「自律」です。ゴシャールとバートレットが「規律」と呼んでいるものです。でも、私は、「規律」というよりも、内容としては「自律」だろうと考えています。自らの価値判断基準に基づいて自らの行動を律していくということ。
それから、右側に「規律」とありますが、ゴシャールとバートレットが言う「規律」は「自己規律」を意味していたのですが、私は、そうではなく、会社とか組織がやると決めたことは自分自身はそれが十分に理解できていなくても形だけでもやり続けるということがとても重要だというように考えました。
2014年に「成長ドライバ理論」のフレームワークをまとめ上げる段階で、過去の長年に渡る調査を振り返り、結果的に社員が育った会社と育たなかった会社を全て総括してみました。そこで浮き彫りにされた特徴が「規律」だったのです。
良い取り組みをしている会社でも、3ヶ月、6ヶ月・・・と経つにつれてだんだんとマンネリ化するなどしてその取り組みをやらなくなってしまう。そういう会社では社員が育っていないなと、10年近く経過して振り返って見てみることによって改めて認識することができたのです。逆に、社員が育っている会社では、そうした取り組みを愚直にやり続けているんですよね。会社の規模とか社長の能力とかという問題ではなく、愚直にやり続ける風土がある会社って社員が成長しているんだなということを、改めて、12社を全部並べてみて振り返り、考えた時に、確信するに至りました。それで、2014年にまとめた「成長ドライバ理論」のフレームワークに「規律」を盛り込んだのです。
それからもう一つ、ゴシャールとバートレットとの違いですが、真ん中に信頼が置かれています。どういう意味かと言うと、「ストレッチ」にしても「サポート」にしても「自律」にしても「規律」にしても、信頼関係がなかったら全てそれらは絵空事になってしまうのですよね。例えば「サポート」と言った時に、上司と部下との間に信頼関係がなかったら、上司は部下を真剣にサポートしようというように親身には指導・支援しません。その部下のことをずっと見続けていくということはしない。逆に部下の方からすると、信頼しない上司からいろいろとサポートをされても「ありがた迷惑」のように受け取ってしまう。つまり、形として「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」というものがあったとしても実際には効果が発揮されないということですね。
ただ、これはあくまでも仮説に過ぎなかったので、2014年から2015年にかけて愛媛県内の中小企業5社ほどを対象に、私の大学院博士過程で研究されている方が非常に精力的に調査をされ、これを実証されました。つまり、信頼関係がないグループのストレッチ、サポート、自律、規律と、信頼関係があるグループのストレッチ、サポート、自律、規律の効果を見ると、信頼感の低いところはやはりストレッチ、サポート、自律、規律が低い。信頼感のあるところでは高く出ているということで、前提として信頼感というものが非常に重要な要素であるということが確認できました。
日本では「信頼」が中心に置かれる。もしかすると欧米でもそうなのかもしれませんが、少なくともゴシャールとバートレットはそう位置付けていませんでした。