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変わり者からトレンドに:グローバルで溶けこむ日本のカルチャー

車内の会話は、いつも宝の山だ。ほぼ毎週、僕は早朝5時半に目を覚まし、サーフィンの準備を整えてから友達をピックアップしに行く。海へ向かう道のりはちょっとした儀式みたいなもので、ここでみんな一週間の出来事を話し、ニュースを交換し、さまざまなトピックに夢中になる。BGMにいつも何かしらの音楽をかけながら、90分のドライブを楽しむのが習慣だ。

この日のBGMは松原みきの「真夜中のドア〜Stay With Me」。ビートが心地よく響き、City Popは気持ちが高まる。この曲が特にお気に入りなのは、よく一緒に行くフランス人の友人だ。彼は日本でデザイン会社を運営していて、もう10年近く日本に住んでいる。日本拠点の外国人ファウンダーやチームのクライアントを担当している。

その日も彼との会話が弾み、ふと話題が「どうして日本のカルチャーが今海外でトレンドとして受け入れられているのか」というテーマに移った。彼は、当時フランスで学生だった頃の話を思い出したようで、笑いながらこう言った。「昔、フランスで日本が好きって言ったら、そいつはクラスで間違いなくモテてるヤツじゃなかったね。でも今じゃ、"いけてる日本食レストラン知ってる?"って聞かれる時代になった。イケてるやつは、イケてる日本のものを知ってるやつって感じ。」

彼の言葉には大きな変化の実感が詰まっていた。僕はそれを聞いて、自分の中にもある共通の記憶がよみがえった。昔アメリカに留学していた頃、日本のポップカルチャーの話を現地の大学の友人に言うと、ちょっとオタクっぽくみられていたのかもしれない。その当時、あまり日本のカルチャーはカッコよくみられていなかった印象がある。しかし今では、ファッションからライフスタイル、料理に至るまで、日本の要素は広く受け入れられ、多くの分野でシームレスに溶け込んでいる。

バンビーノにて

去年の9月、僕はNYの友人の結婚式に出席するためスペインへ向かった。その道中でパリに立ち寄り、現地に住む友人の家に泊めてもらった。彼は「バンビーノ」というナチュラルワインバーに連れて行ってくれた。到着すると、そこは若者たちであふれ、みんなワインを片手にポーション(軽めの料理)をつまみ、スピーカーから流れるレコードの音に身を任せている。

驚いたのは、店内の音響システムが「日本式」だということだった。オーナーが日本のジャズ喫茶文化に影響を受け、数えきれないほど日本に足を運び、そのたびにレコードを集めてきたのだという。彼は日本人のシェフまで招き、料理にも日本のエッセンスを加えていた。この異国の地で、まさに「ジャパンカルチャー」がパリ流に再解釈され、新しい価値を持って存在していることが新鮮だった。

スペインのシッチェスで朝食。NYの友達。

さらに面白かったのは、その後に結婚式で再会したNYの友人から「パリに行くなら絶対バンビーノに行けよ!」と言われた時だった。「音楽もいいし、日本人シェフが作る料理も最高だぞ」と。もう行ったよ!!、と答えつつ、ニューヨーカーの彼までもが知っているこの店が、単なるローカルスポットではなく、日本カルチャーの一部が、その土地に取り入れられ、象徴的に存在している場所であることに気づいた。

「日本」という一言では語り尽くせないが、僕が好きな海外ブランドの中には、日本文化から強い影響を受けているものがいくつかある。例えば、香水ブランドLe Laboのシンプルさには「引き算の美学(禅の精神)」が宿っている。A.P.C.の控えめでクリーンなデザインにも、日本のデニム技術や機能的デザインへの敬意を感じるし、Ace Hotelは地元のアーティストや職人と協力していて、日本的な「場の精神」を大切にしている。

Appleのスティーブ・ジョブズもまた、日本文化に影響を受けた一人で、彼はインタビューの中で、ソニーのプロダクト哲学や、顧客が商品の質を単にマーケティングからではなく、実際の体験から感じ取ることを強調していた。これもまた、日本の「ものづくり」へのリスペクトが込められた表現だ。

かつて「変わり者」のカルチャーと見なされていた日本が、今では世界で「クール」と称され、文化的なメインストリームに融合している。この変化は、ソーシャルメディアとサブスクリプションサービスの普及が大きく後押ししていると思う。かつてはレンタルビデオでしか観られなかったアニメが、今ではスマホ一つで簡単にアクセスでき、アニメや音楽を楽しむ機会が世界中に広がった。また、インフルエンサーが日本カルチャーを取り上げることで、ファン層がより深い理解を求めるようになっている。こうした「知っているから好き」ではなく、「知っている人が好きだから、自分ももっと知りたい」という動機が、日本文化の普及に一役買っていると思う。

今や世界中で日本のカルチャーが「カッコイイもの」として愛され、また、サステナビリティや職人技といったトレンドとも調和している。そしてその中には、日本特有の審美眼や精神性が生きている。日本のカルチャーやIPが、他国のスタイルや価値観と掛け合わされ、全く新しい形で受け入れられている。こうしたグローバルな視点で再構築された「日本」は、単なる伝統の継承だけでなく、未来へ続く豊かな文化的な流れとなっているように思える。

この変化は、ただ「日本のものが好き」という段階を超えて、世界中の人々が日本から学び、日本と共に何かを創り上げる新しいムーブメントに発展している。今後も、世界に向けて日本文化がどのように融合し、新しいインスピレーションを与え続けるのか考えていきたいし、僕たちも何かコミュニティを盛り上げるイベントや学びの場を提供できないかと思ったりする。


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