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「失われた30年」を超えて〜2025年"リベラルアーツラジオ"配信〜

(はじめに)

日本企業とそこで働く従業員に活力をそして明るく生き生きと楽しい社会を作りたいものです。
しかし、コロナ禍が過ぎても、時代の変化についてこれない悩みの多い企業、組織人、いわゆる「大企業病」のような病理がみられます。

そんな中で、ミンツバーグがその主著「ミンツバーグの組織論」の中で経営が「アート」「サイエンス」と「クラフト」である提唱され、随分と論理や理性だけでなく、
直観や感性が、経済・経営の中でも徐々に重視されるようになりました。

<ミンツバーグの組織論>

ロジカル思考だけでなく、デザイン思考からビジョン思考、センスメイキング理論、知識創造、二項動態などを現場の企業戦略立案作業、コンサルティング作業、特にファシリテーション作業を実施して参りました。
16社の企業と対話(組織はますます横断的になり、マーケティング企画、コミュニケーション、研究開発R&D、人事H R、経営企画、などにまで)しながら、新しい知を創造する肝になってきたのは、知を生み出すリソースを各人が持つことである、
つまりSTEMA教育のようなものを同時にすることではないかと考えました。

これが、リベラルアーツをファッションではなく、われわれの生き方を考えることが大切だと理解したわけです。

哲学、絵画、歴史、歌舞伎、オペラ、演劇、建築、坐禅をテーマにして、自分自身の生き方に関わるような対話、問題意識を問いながら、批判的な思考力、伝える力を鍛えていくことをこの一年間プロジェクトとして続けてました。(このリベラルアーツ活動は、KMIとしては10年前から徐々に広めてきました。

今回は2025年からそんな内容を更に分かりやすくpod castを使って、さりげなく習得する『リベラルアーツラジオ』として配信してみようと考えております。
「リベラルアーツとマーケティング」がテーマです。

そんな話をしていたら、マーケティングリサーチ会社の池谷さんから、疑問が投げかけられました。
「文字面みて、音だけ聞いていると何となく納得してしまいそうですが、リベラルアーツとマーケティングってどういうことでしょうか?」
疑問に思うことを7つの質問にしてくれましたので、今回はこのQ&Aを通して、リベラルアーツとマーケティングを考えてみたいと思います。

1.リベラルアーツが注目されるわけ

Q:リベラルアーツが大切」というビジネスの世界でも話を以前より聞きます。そういうことは教養として大事だよね、というくらいの認識はありますが、いろんなところで耳にするのはなぜでしょう?

黒木)
私は,現在AIの存在が大きいと考えています。
人間の存在価値を考えざるを得なくなってきたことが背景にあると考えます。
AIに人間の仕事が奪われて支配されてしまうという誤った悲観論があることから、【人間としての尊厳】を考えるという視点です。
もう一つが大切なんですが、日本の経営が、企業系列、株式の持ち合い,コーポレートガバナンスなど極めて閉鎖的になり,内向きになりイノベーションが生まれなくなってきたこと。
why?を、五回言ってから始めようと以前、noteで話しましたが、what?からでなく、why?から考えると、人間の本質、なぜ生きるのか、なぜ仕事するのか、異なる視点が出てきます。

ジョブ型雇用も効率化と短期的収益しか考えていないから新しい動きに一歩踏み出せていないことがあると感じます。
【自己変革】をするしなやかさを発揮することの大切さを主張したのが,センスメイキング提唱者の組織心理学者カール・E・ワイクです。

「自らについておよび自ら考えるところについての意味形成(センスメイキング)が,変化に対応する能力を左右する(中略)新しいイメージ 多様な技能や感性がしみこんだイメージで、自らを見ている組織は、それゆえ,状況が変わった時に対応できる」

「組織化の社会心理学」第二版1997年 文真堂p323
<組織化の社会心理学>

リベラルアーツが極めて重要なのは、カールワイクのいう自らについておよび自らを考えるところについての意味形成、即ち「問題解決力」と「より多くの情報に基づいた意思決定」 「変化する世界への適応」という実践的スキルも目的としていることにあります。

特にファートランスファー・・・違う分野に知識を応用すること。これは,ある状況下で学んだことを,別の状況下で応用できることで,批判的思考のメタ認知スキルの中核をなしている。

池谷)
なるほど、リベラルアーツを学ぶことで広がる知識、視点、視野などが閉塞した思考を打破することに繋がると感じているのですね。多くの人が閉塞感を感じているということでもありますね。

黒木)
はい、閉塞感は,どのようにできているかというと、組織全体での戦略目的が明白でないこと、今やることにしか目を向けていないこと、縦割り組織体制、減点主義、さらに不都合な情報を隠蔽する体質に起因しています。
・社内調整ばかり時間を使う(ミドルマネジメント)
・上司への報告の為の時間が長い
・稟議が多く顧客よりも社内事情を優先させる体質
・前例や慣習の踏襲に重点が置かれている   
大手コンサル,大手代理店に頼めば、とりあえず失敗しても問題がないと考える組織体質と風土
上記の閉塞感に対応する時に,自己変革を可能にするリベラルアーツを学ぶことが今こそ必要だと考えます。

2.リベラルアーツは幅広い知識を得ることか

Q:リベラルアーツというと文化や歴史を知ることのように思いますが、黒木さんのセミナーで絵画を見ながら行うVTS(Visual Thinking Strategy)の時は、絵の作者や知識は関係なく見ることにこだわっている。そこにはリベラルアーツの捉え方の違いがありますか?

黒木)
絵画という素材は同じですが、VTSの目的によっても違います。
弊社でVTSを活用するのは 観察力、批判的思考力、言語能力の複合力を上げることにあります。作品の背景を言わないことで、鑑賞の自由度を上げることにある。
リベラルアーツをベースに思考をするときには、VTS的アプローチをするが、ケースにより歴史的背景をいう方がファートランスファー的要素で接する場合には良いこともあり、キャプションの言い方,中身を検討して対応しているように気をつけています。

池谷)
思考力、表現力を鍛えるという意味では、VTSもリベラルアーツに繋がるわけですね。
知識だと思うと、答えを知りたくて絵を見てしまいますが、思考力、表現力の鍛錬だと思うとよく見て考えるようになりますね。

黒木)
表現力の鍛錬は,大切です。ここを広告代理店など他者に依存した作業ではなく,自ら考えて,創作することを今は必要です。

3.リベラルアーツは社交の場のコミュニケーションツールなのか

Q:リベラルアーツの活用イメージは、社交の場で語れるような、コミュニケーションの道具のようにも感じますが、そういうものではないのですか?

黒木)
表現力と論理力が、リベラルアーツでは重要になり,コミュニケーション能力を高めることになります。
特に日本語での考える力と英語でタイムリーな情報を収集し、的確に伝える力が必要になります。

池谷)
表現力っていうとずっと論理的な説明が求められてきていて、正しく表現しようとするから説明のような他人事になってしまうのですね。
リベラルアーツをベースにその歴史的な背景とか生い立ちとか、表現手法とか、組み合わせて考える論理力と、それを自分の言葉で語る表現力が合わさってこそのリベラルアーツということですね。

黒木)
よくいうように正解は一つではないのです。
その人なりの自分なりのストーリーメイキングこそが大切になっており、多くの方に共感、共鳴を引き起こします。

4.リベラルアーツとマーケティングってどうつながるのか

Q:リベラルアーツとマーケティングというつながりは、おもしろいテーマだと思いますし、なんか関係ありそうだとも思うのですが、どうつながるのですか?

黒木)
先ほどお伝えしたように、従来のマーケティングではなく,自己変革や新しい知を生み出すマーケティング、というより経営は、リベラルアーツが極めて重要になります。
カールワイクが組織の在り方を様々論じたり、 セオドア・レビットのマーケティング近視眼での指摘を考えるとリベラルアーツの大切さが見えてくると思います。

<セオドア・レビットのマーケティング近視眼>

池谷)
中長期に考える、人間の本質を考えるというような、根本から思考するにはリベラルアーツが必要で、イノベーションを求められる時代になって、これまでのようなその場しのぎ、近視眼的なマーケティングでは課題が解決できない、というか課題そのものをつくり出せないということですね。

黒木)
そのいう意味では、人間の本質「人間とはいかなる存在なのか?」という人間観を考えることが重要であります。
1960年代のアメリカに生まれコンティンジェンシー理論にあります「組織の有効性は、環境特性に依存し,環境の生み出す情報処理・意思決定の負荷に対して最大の効果を発揮する最小の情報処理システムを構築することにより最もよく環境に適応できる」

しかしこれは,受動的適応論であります。
今では、組織は主体的に環境に働きかけて、そのプロセスを通して新しい知をダイナミックに生み出す方向に舵を切り出しています。野中先生の組織的知識創造論です。
この理論は,経済学的アプローチというよりも経済,経営にギリシャ以来の哲学的観点をつまりリベラルアーツ的観点を加えたものといえます。

5.リベラルアーツを学ぶにはどこから手を付けるべきか

Q:リベラルアーツの捉え方は広すぎて、学ぶにしてもどこから手を付けたらいいのかわからないのですが?

黒木)
まずは、現在直面している課題,問題を設定してみる 問いを立てる力から始まるのではないでしょうか?
人間を中心に据えるために何が必要かを自問自答しなければならないと思います。

池谷)
リベラルアーツというとまず哲学を学ぼうとか、絵画を見よう、宗教を理解しようとかいうことになりがちです。そういうアートに触れたり、勉強したりということではなくて、まずは自分の中の問いを立てることが大事という意味ですね。
それも机の上であれこれ考えるのではなくて、アートに触れながら、料理をしながら、本を読みながらでも、アクションを伴うことでより思考が活性化する感じがします。

黒木)
自らアクティブに活動しながら、学ぶという姿勢が大切だと思います。
オペラを観劇したり、歌舞伎、絵画、音楽を体感しながら、感じながら考えて、対話するところが大切だと思います。
まず,自らの周辺を見渡すところにさまざまな素材があるはずです。

6.一通り幅広く知識を得るようなファスト教養は役に立つか

Q:最近は一通りいろんなことを幅広く知っておくための書籍や情報番組が氾濫していますが、リベラルアーツを学ぶ、親しむという意味で、こういうことも必要と考えますか?

黒木)
闇雲に情報に接しても、自分で習得することはなかなか難しいと考えます。問題意識を持って考え抜くこと。他人との対話が極めて大切ではないでしょうか。

池谷)
確かに、他人と対話していると「そういえば!」とか「だとしたら!」とかよく思いますね。自問するにしても、自分一人だけでやる必要はないということですね。

黒木)
全くその通りです。
暗黙知を豊かにするのは、身体知を伴う直接体験です。「いま・ここ・私だけ」という主観的なものが、「いつでも,どこでも,誰でも」という客観的なものに切り替わることです。これは対話によって引き起こされます。

7.日本のマーケットを考えるには日本人のリベラルアーツだけを学べばいいのか

Q:黒木さんは、日本人の哲学者、西田幾多郎や九鬼周造の著作や思考を引用します。日本のマーケットを考える上で、日本人の持っている価値観を学び、考えるのはわかりますが、絵画をはじめ、キリスト教的な思考など外国人の思考を学ぶことは、日本でマーケティングを実行する上でどう生きてくるのですか?

黒木)
普遍的価値という視点から見ると,西田幾多郎の 絶対矛盾的自己同一、ジャックダリデや、ドゥールズ ミシェル・フーコーなどの 脱構築理論などは,宗教観とは異なる共通概念が出てきます。

人間とAIの概念を語る時には、キリスト教やユダヤ教的アプローチと日本の明治以来の欧米の科学を信奉しての表面的な部分の導入・改善もあります。
そこで必要なのは,根っこの理解だと思います。
一神教的理解と東洋的な世界観の身体知などの要素は、常にフィルターをもたなければなりません。

九鬼周造は,サルトルやフッサール,ハイデガーとの接点から,ヨーロッパの哲学の自己同一性を求めるものでは、日本のもののあわれが説明できないから、異質を描き、いきの構造に行き着いたわけです。
共通の概念と異質のものを理解し、比較するから、より一層違いも理解できるわけです。

<いきの構造>

池谷)
これも先ほどの対話の話とも通じますね。
自分を理解するには自分だけ知っていてもダメで、思考を常に開いておくことが大事なんですね。
当たり前のように日本人だから言うまでもなく、と思っていることをそれはつまり何かと考えてみて、それがどう日本人だからなのかを日本以外と比べることでわかる、あるいは、通底する人間の本質みたいなものを理解することにもつながるということですね。

黒木)
その通りです。
リベラルアーツの根源には多様性,他者理解があることで,これらはAIには全くできません。
最初の論議に戻ります。AIにできないことが、AI研究者によってなされているのも、人間存在を考える哲学的アプローチからです。
あのフッサールの現象学やハイデガーの実存哲学を基づくドレイファスが,リベラルアーツ的アプローチをしているのも興味深い話です。

池谷)
ありがとうございました。
組織にいると、コンプライアンスだらけ、社内ルールだらけで、誰を見て仕事しているのか、と思っている人もたくさんいるでしょうね。
結局組織風土はその組織に所属する人たちの思考行動様式が作り出しますから、それを変えないと閉塞感は打破できない。
それは組織の取り組みでもありますが、個々人が自己変革に取り組むことから始めないといけないと。

リベラルアーツは、その自己変革を促進する刺激であり、知識あるということがわかりました。そして、リベラルアーツは、人間を考えることであり、それは現代の生活者を考えることでもあり、自社の顧客を考えることにもなる。
マーケティングは顧客創造とコトラーは言ってますから、そこに繋がるのですね。
スタートは、自分を知ること、自分はどうしたいかを考えることですね。

また、少し理解が進んだ気がします。
Pod castも聴きながら、更に理解を深めたいと思います。

今回は質問に答える形でリベラルアーツとマーケティングを語ってみました。タイトルにあるように失われた30年を超えていくことが目的です。
Podcast「リベラルアーツラジオ」は以下の方の協力でスタートします。
トークアイ 池谷雄二郎
黒木マーケティング室 渋谷和美
オフィスワンアップ 原小百合

最後までお読みいただきありがとうございました。


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