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「SDGs」って、ファッション企業のものだと思っていませんか?

「SDGs(エスディージーズ: Sustainable Development Goals)」という言葉、最近さまざまなところで見聞きします。もちろん企業活動においてもよく出てきます(企業視点だと、投資や資産運用で用いられることが多いESGの方が注力されている場合もありますが...)。
浸透しつつある言葉ですが「結局なんだ?」と言われると実は説明できる言葉を持ち合わせないとか、実態が捉えにくいものではないでしょうか。

「SDGs」ってなに?

地球上には環境、戦争、貧困など日々流れるニュースを見ているだけで多くの問題がありますが、その問題が解決され、誰もが安心して地球で暮らし続けていけることが理想ではないでしょうか。
そのために国連が意を決して2015年、地球上で生じている問題を整理して解決への道筋を作った計画「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が定められました。そしてこの中で設定された2030年までに達成を目指す17の目標(169の小項目)がSDGsなのです。
17つの目標ひとつひとつの説明は今回は省きますが、目標の数だけ問題があることと、困難に直面している人がいることには変わりありません。そして、17つに分類されているものの、それぞれが重なり合い、つながり合っている、というのも重要なポイントだと私は考えます。

本日のテーマ

さてさて。持続的可能な開発目標を追求するというアジェンダである「SDGs」は、日本においてどう捉えられているのでしょうか。
今回はこのことをテーマに、国・地方公共団体や企業が「SDGs」の持つ本来の意味を理解し、生活者の為の活動支援となっているのか否か、いくつかの事例を交えて考えてみようかと思います。
私としては、これらについて考えるキーワードとして「利他、利他主義」という言葉の意味を理解することが、極めて重要になると思うので、そこを軸にはじめてみましょう。

「利他、利他主義」を考える

まず定義からです。「利他」の反対語は「利己」ですが、対立概念ではありません。しかしながら、19世紀中頃のフランス人社会学者オーギュスト・コントによる提唱の際には「利他主義は、利己主義に対置される言葉」として想定されていたようです。つまり「他者の為に生きること=自己犠牲」と意味していました。
一方でフランスの経済学者経済学者ジャック・アタリは、某国営放送の番組内で「利他主義は合理的利他主義と言われており、"自分にとっての利益"を行為の動機である」と語っています。

このように学者の立場によって異なるこの「利他」という概念を、経済学やマーケティングの視点だけではなく、文化人類学や哲学、現象学の視点から考えれれば「SDGs」の本質に行き着くのではないかと私は思っています。

「利他と利己」は、メビウスの輪のようになっていると捉えています。例えば"利他的な行為"には同時に「相手にいい人間だと思われたい」「社会的な評価を得たい」という"利己心"が生まれるのは想像に固くありません。しかしこれでは、善意の押し付けになってしまうのです。
▼参考:「小僧の神様」

昨今、金融業界・市場において「SDGs」「ESG」に関連した商品が、かなり話題になり人気商品になっているようです。これは環境、社会性、ガバナンスを考慮した企業の株を商品化したもの、と定義されているでしょう。
そして、顧客への売り文句といえば「SDGsやESG関連に積極的な企業は、社会的価値、経済的価値のありそれらの企業への投資をすれば、あなたは社会的貢献をしながら、利益を得ることができる」というストーリーかと思います。

しかしです。「SDGs」に取り組めば、売り上げが上がってもコストがかかり利益が低くなる。つまり「SDGs」商品の課題は、社会的価値を高めるのによいのですが、同時に経済価値を上げなければならないことにあるのです。言い換えるならばトレードオフ(二項対立)になりやすい。
これをトレードオン(二項同一)にするには、"思考のイノベーション"が必要になります。

ここでいう思考のイノベーションとは「繋がりを考える」という視点です。企業におけるステークホルダー(顧客・従業員・株主・バリューチェーン上のパートナー・コミュニティ・競合各社)を同時に視野に入れ価値創造をするというスキルを持っているか、それが重要なのかもしれません。

事例:ネスレの"知識価値の提供"

スイス企業のネスレの"知識価値の提供"という考え方は非常に興味深いものです。
以下はネスレが提唱しているものの抜粋です。
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ステークホルダーへの知識価値の提供>>
a)顧客:栄養と健康に関する知識の提供
b)サプライヤー:農家への知識提供(食のバリューチェーン)
c)同業他社:模倣や競争を通じた知識の伝達、食産業全体の効率の向上
d)従業員:従業員教育の実施
e)コミュニティ・政府:子供の健康などに関するコミュニティ教育の提供
f)株主:生態系全体の価値向上に関する資本主義の理解向上を通じた価値の向上
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これら知識価値の提供が、イノベーションを引き起こし、経済価値と社会価値を同時にひきおこす。「SDGs」構想実現には、自社能力だけではイノベーションを起こすことが厳しくなってきた今、既存の研究開発に留まることなく"オープンイノベーションエコシステム"概念を導入するというモデル的な取り組みなのかもしれません。

事例:ルンド市 - これからを考える種として-

「SDGs」の目的は、今までの市場システムアプローチの時の、自社/株主利益の追求ではなく、エコシステム的アプローチとなり、共通/社会的目的の追求となるといえます。
故に顧客と社会との結びつきを強めていくエコシステム(生態系)としての"場"が重要となります。そしてこの"場"には、プラットフォームとして、地域・空間の側面としてがあるのです。

スウェーデン南部スコーネ地域の中核都市・ルンド市。この街は「イノベーションなルンド」をスローガンにして、若者が未来に活躍できるグローバルな知識経済の中心の一つになることを目指しています。
その為にどのような動きをしているのか、以下に列挙してみましょう。
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:中性子利用開発の為の欧州最大のESS(欧州核破砕中性子源)建築が進行
・陽子線加速器、世界各国の研究所とスパコン間のデータ管理施設
・クリーンエネルギー、食品、医薬、ITなどの各分野の基礎研究と応用研究
・ルンド市庁舎、ルンド大学、多国籍企業、医療施設などが近接
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これら構想実現のためには、従来の単一企業による効率性を追求する量の論理ではなく、複数企業によるアプローチが必須であり、創造性を追求する質の追求が大きくなります。
例えば工場空間においては、従来はコストで考えていましたが、知識社会においては空間は"企業・教育・地域セクター"を超えた経済・社会の知識創造などの連携・協業の場として、ルンド市は重視しているのです。
つまりこの街は、物理的な都市空間とサイバー空間を分けることのできないイノベーション都市を目指しているといえます。
「SDGs」に必要な概念は一社ではなく、エコシステム的アプローチが必要ではないかと考えるわけです。

つまり「SDGs」ってなに?

正直、今の日本で謳われている「SDGs」を軸とした企業活動がちょっとしたブーム、ファッション的な扱いになっているのではないかと懸念して本日のnoteを書くことにしました。私が伝えたいこと、それはシンプルです。

(SDGsに限らず)全ての事象は、それぞれが重なり合い、つながり合っている」だからこそ単体で考えるのは危険ではないか、全体像を把握することの重要性があるのではないか、量ではなくて質、浅くではなくて深さということに他なりません。
えてして、マーケティングの世界ではKPIといったゴール設定を持って「マルかバツか」を判断してきました。しかし、時代の変化によって、そして企業個体ではなく、関わりある環境において判断する時がきた、いえ変化してきたのだと私は思います。
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前回の反省をもとに、平易な言葉でお伝えできるように努めてみました。
今回もまたお付き合いありがとうございました。

ご質問やご意見あればお気軽にお声がけください。

(完)