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VOL.14寄稿者&作品紹介29 朝井麻由美さん

すごいなぁ...としか。朝井麻由美さん原作のテレビ東京【水ドラ25】「ソロ活女子のススメ」、2024年もシーズン4として放映中であります。令和の「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」みたいな存在になって、今後も続いていくのでしょうか。。それで、同ドラマの源流を辿ると、そもそも朝井さんの『ソロ活女子のススメ』(単行本/大和書房)が出版されたのは2019年3月18日。さらにその水源は、というと、同書はウェブサイト《レッツエンジョイ東京》での連載がもとになっているので...2010年代半ば(平成20年代)。当時の記事、いまでも検索すると閲覧できまして、もちろん『「ぼっち」の歩き方』という著書がある朝井さんだからということもあるのだろうけれども、「ぼっち」「ソロジャー」等、令和6年だとやや「!?」なワードも散見されて時代の流れを感じたりもして...振り返ると、朝井さんは世の中の意識を変えてきた、パイオニアなのだな、と。そんな朝井さんの小誌今号への寄稿作は〈裂けるチーズみたいに〉。読んでいて、私(←発行人)の心も裂けそうになっちゃいました。テレビ業界を舞台としているのですが、しかしもう少し視野を広げて、現在の旧マスメディア(広告業界でかつて「新雑ラテ」とか「ラテ・新雑」とか呼ばれていたもの)の現況と捉えてみても、主人公である「私」の心情に共感できる1作だと思えました。


少し前、テレビを付けると大谷翔平だらけでした。ああいまのテレビは大谷に夢中な人しか相手にしてないんだろうな、と思ってすぐに消していましたが、しばらくして付けるとまだ、大谷。数十分この話題で引っ張ってるのか...そこで思ったんですが、この大谷の話題で盛り上がってる人たちを信用できるんだろうか、と。この人たちのあいだで「ねえ、大谷よりもっと大事なニュースがあるんじゃない?」は、きっとタブー。朝井さんの作中の言葉で表すと、そういう〝当たり前のルール〞を守れる人だけがテレビ局に選ばれているのだな、と。

〈裂けるチーズみたいに〉はテレビ界のいまが云々ということだけではく、さらに踏み込んだ〈引き裂かれ状況〉を描いていて、そこに胸が痛くなりました。番組の制作現場に関わる「私」は“それでも、私はこの人たちが好きだ”と、“打算を超えた「好き」がそこにある”と、心情を吐露するのです(...だいぶ酔っ払ってそうですが)。このへんの引き裂こうにも縺れ絡まった描写もまた、すごいなぁ...としか。みなさま、ぜひ小誌を手にして「私」の複雑な思いをお確かめください。


ウィッチンケア第14号(Witchenkare VOL.14)発行日:2024年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりー/発行人の屋号)
A5 判:248ページ/定価(本体1,800円+税)
ISBN::978-4-86538-161-0  C0095 ¥1800E 


 隣の席では、私と同じくフリーのアシスタントプロデューサーとして働く森下さんが、当たり前のようにセクハラを受け、当たり前のように笑っていた。森下さんは容姿がかわいい。そして、自身の性体験をあけすけに語る〝キャラ〞だ。たまたまあるときの飲み会で、森下さんが酔っ払って最近の性体験の話をしたところ、プロデューサーやらディレクターやらの偉い人に気に入られ、セクハラまがいのいじられ方をするようになったわけだ。誕生日プレゼントに大人のおもちゃをもらう〝ギャグ〞も通例となっている。港区の某所。午前一時。向こうの客が80年代の名曲を歌う年末。こちらのテーブルでは、「森下を主演にして映画を撮るなら」というテーマで、下品なプロットが嬉々として語られている。もともとスタッフの中ではかわいいほうだった森下さんから、下ネタという門戸が開かれたことで、彼らが水を得た魚のようになったあの日のことを私はよく覚えている。


~ウィッチンケア第14号掲載〈裂けるチーズみたいに〉より引用~
 

朝井麻由美さん小誌バックナンバー掲載作品:〈無駄。〉(第7号)/〈消えない儀式の向こう側〉(第8号)/〈恋人、というわけでもない〉(第9号)/〈みんなミッキーマウス〉(第10号)/〈ユカちゃんの独白〉(第11号)/〈ある春の日記〉(第12号)/〈削って削って削って〉(第13号)
 


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