寄稿者&作品紹介10長谷川町蔵さん
昨年2月3日の夜、私は渋谷モディをウロウロしていました。そこがかつて丸井渋谷店本館だったことを知っている身として「ずいぶんざっくりしたテナント構成になっちゃったんだなぁ」と、一抹の寂しさなど感じながら。時間より少し早く着いたので、HMV&BOOKS SHIBUYAで「ディスク・コレクション ファンク」なんて本を買うか買うまいか迷っていたら(けっきょく買った)、長谷川町蔵さんとばったり。...って、モディにいたのは長谷川さんと大和田俊之さんの「文化系のためのヒップホップ入門3」刊行記念トークイベントに参加するためだったのだから、べつに不思議でもないことなのですが、しかし、あの日の対談ではまだ「新型コロナウイルス感染症」の話題って、出ていなかった記憶。その後、バタバタと世の中がコロナモードになって、アメリカではBLM〜合衆国議会議事堂襲撃事件なんてことまで起こって。いまの状況で、あらためて長谷川さんと大和田さんの話を聞いてみたいと強く思います。
長谷川さんの今号への寄稿作〈川を渡る〉で描かれているのは、「あたしたちの未来はきっと」(小誌掲載作をベースに2017年に刊行された小説集)のなかの一篇〈彼女たちのプロブレム〉で触れられていた、ある事件の詳細。東京都町田市と神奈川県相模原市を隔てて流れる境川周辺が物語の舞台で、〈彼女たち〜〉では〝「見ず知らずの相手にクスリを盛られてラブホでマッパのまま死にかけた」という危険な伝説の持ち主〟とされていた田中真由。彼女と今作の「俺」こと寺山翔太のあいだになにがあったのかが明かされています。東日本大震災の3年後、という設定でして、作中には真由が計画停電のことを思い出して「あの時はすごく心配だったし、もう元通りにならないって思ったけどあっさり戻っちゃったよね」と翔太に語りかけるシーンが印象的。...2011年の夏は暑かった。なぜなら、国民の多くが暑くても節電してたから。2014年の夏、エアコン全開で店の扉を開けている店、東京では普通にあった。
もうひとつ、翔太の台詞として「近くに親戚のおじさんが住んでいるんだけど」という一節がさらりと盛り込まれているんですが、ストーリーと照らし合わせて「えっ、そのおじさんってもしや...」と気づいた人は、かなり幸せな気分になれるはず。ちょっと、これ以上の内容に関する説明は野暮なだけなので、みなさまぜひ小誌を手にとってお楽しみください!
「服着てるとこ、見ないでよね」
「誰が見るかよ」
俺が大輝と映美に「大丈夫だった。これから帰る」とショートメッセージで送っているうちに真由は帰り支度を終えた。スモーキーグリーンの長袖Tシャツにスカジャンを羽織って、ボトムは黒のスリムパンツ。黒のコンバースを履いている。町田の女子高校生の間ではちょっと知られたダンス・パフォーマンス部のスターの出来上がりだ。「今ちょうどクラブ・イベントが終わって店から出てきました」みたいな澄ました顔をしている。上下スエット姿で汗だくの自分がアホらしく思えた。
〜ウィッチンケア第11号〈川を渡る〉(P058〜P063)より引用〜
長谷川町蔵さん小誌バックナンバー掲載作品:〈ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド〉(第4号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈プリンス・アンド・ノイズ〉(第5号)/〈サードウェイブ〉(第6号)/〈New You〉(第7号)/〈三月の水〉(第8号)/〈30年〉(第9号)/〈昏睡状態のガールフレンド〉(第10号)
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