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VOL.12寄稿者&作品紹介07 インベカヲリ★さん

とにかくいま、インベカヲリ★さんは超忙しそう。小誌に前回寄稿してくださったのは2019年発行の第10号で、そのころは写真家としての活動で第43回伊奈信男賞を受賞(2018年)、日本写真協会新人賞受賞(2019年)と順風満帆そうだったのですが、その後ノンフィクション・ライターとして昨年9月に『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』を上梓。さらにその後もライター/インタビュアーとしての仕事が怒濤のごとく続いたようで、来月には初のエッセイ集『私の顔は誰も知らない』が16日に、インタビュー集『「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理』が19日に正式発売...って、これだけでもたいへんそうなのに、つい先週、昨年出版された『家族不適応殺〜』が第53回「大宅壮一ノンフィクション賞」にノミネートというニュースが。思わず「オオタニサーン!」と叫びたくなりそうなのは、私だけか。でっ、そんなインベさんの小誌今号への寄稿作なんですが、ここまで記したインベさんの多忙環境の前後について、インベさん自身が自己心理分析をしているような作品なのです。その内容がまたインベさんらしいとしか言いようのない、冷静さと激しさが平熱感覚で交錯したもので、必読。

希死念慮。ググってみればトップに「こころの健康相談統一ダイヤル」が出てくる、穏やかならぬ言葉なのですが、インベさんは作品の冒頭近くで自分にはそれがアリ、とさらりと書いています。“よく「人生で死のうと思ったことが〇回ある」みたいなことを言う人がいるが、数える感覚があることに驚いてしまう。私は死にたい気分がデフォルトで、そうじゃない状態を体験したことがない”、のだと。それで「つらつらと考えてみたい」、のだと。ただし、インベさんは常に「死にたい」と思ってはいても、自殺企図に至ったことは一度もない、と。そして、作中ではむしろ心身の健康を気遣って生活している様子や仕事観なども率直に語られ...。

しかし作品の終盤になって、それまでの話が大転換を迎えます。ネタバレににならない範囲でお伝えしますと、私が寄稿依頼したのが昨年秋。その後、わりと早い段階でお原稿に手を付けてくださったようなのですが、多忙になり途中で3ヶ月ほど放置。新年を迎え、私からの催促で再度原稿に向かい、フィニッシュさせようとしたら驚きの結末に! これは『家族不適応殺〜』に圧倒された読者も、今後『「死刑になりたくて〜』や『私の顔は〜』を読む人にとっても、スリリングかつ目から鱗な一篇ですぞ。ぜひ、実際に手に取ってお確かめください。

 似たようなことを考えていたという女性に会ったことがある。彼女は小学生の頃、鬼ごっこで鬼をやりながら青空の下を駆け回っていたとき、ふいに「人生、長っ」と感じたらしい。大人になった今でもその感覚からは抜け出せないという。

 私もまったく同じだ。あの頃と変わらず退屈が心に巣くっている。退屈など絶対にない世界で生きていきたい、と強く願っていたから、高校時代の将来の夢は過労死だったくらいだ。ところが私の人生は不思議なもので、どれほど望んでもキャパオーバーするほどの忙しさにはならない。理由も実は分かっていて、私は意外と仕事を選んでいるからだ。常に選択肢として「そんなのやるくらいなら死んだほうがまし」があるので、自分がやるべき仕事ではないと感じたら、やらないのである。

〜ウィッチンケア第12号〈希死念慮と健康生活〉(P040〜P043)より引用〜

インベカヲリ★さん小誌バックナンバー掲載作品:〈目撃する他者〉(第7号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈日々のささやかな狂気〉((第10号)

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