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VOL.13寄稿者&作品紹介27 柴那典さん

柴那典さんの前号(ウィッチンケア第12号)への寄稿作、タイトルの「6G呪術飛蝗」からは読み取り切れませんが、最新テクノロジーのもとでの戦争のありようにも言及した、かなり先鋭的な内容でした。でっ、ちょうどお原稿が私(発行人)のもとに届いたころ、ロシアがウクライナへの侵攻開始。作中にはドローン兵器、さらに人間を兵器の端末として使用するような話も出てきて、そういえばつい数日前、私たちはクレムリンへのドローン攻撃を見てしまったし、その後ロシア内のGPS(全地球測位システム)に異変が起きていたり。真相はまだ闇ですが、とにかく私にとって、柴さんはある種の予言者的存在なのです。ご自身はWitchenkareへの寄稿作を「怪文書っぽいかも」なんて仰っていましたが、根も葉もない出自のテキストとは、とても思えず〜。そして、今号への寄稿作。お預かりした時点(2月中旬)では、作中のかなりの尺を要して紹介されている映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、巷ではまだそこまで話題になってはいませんでしたが、WItchenkare VOL.13がそろそろ校了となる3月12日、同作が第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門を受賞、というニュースが。また、当たってる!

私はまだ『エブエブ』を観れてないんですが、柴さんには監督・ダニエルズが同作に込めた思いが、ストンと腑に落ちたのだと想像します。《これはクィアに関する物語。そして選択と受容にまつわる物語》、と柴さん。...思い出すのは、終了してしまったTBSラジオ「たまむすび」での、赤江珠緒さんと町山智浩さんの会話です。たしか、「町山さ〜ん、『エブエブ』観ました。とっても感動しました」「それはよかった」「でも、事前に町山さんからあれこれ聞いてなかったら、変な映画、で終わってたかもしれない」「(笑)」...みたいな。

もうひとつ、今号への寄稿作を初読のさい、私はごくナチュラルに拝読しておりました。7割がた読み進めて、「えっ!? そうなの!」...ここでは秘しておきますが、いかにも柴さんらしいことを。さて、そんな楽しいギミックも織り込んだ本作に一貫した共通性を持たせている一節は、おそらく《「人間て、ほんとに量子的な存在だね」》。この「量子的な存在」を、読者のみなさまがどんな意味合いで受容するのか発行人として興味津々です。ぜひ小誌を手に取って内容をお確かめください。

「『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の脚本を執筆するということは、冷たく、無関心な宇宙に対しての、愚かな祈りでした。それは、すべての矛盾を調整し、最も大きな問いを理解し、人類の最も愚かで、最も冒涜的な部分に意味を吹き込むという夢でした」
 ダニエルズはこう語る。
 僕は試写会でこの作品を観た。荒唐無稽なマルチバースのカンフーアクション映画だから、ほとんどの人は「面白かった」とか「わけがわからない」という感想を持つんじゃないかと思う。でも僕は心の深いところに刺さってしまって、途中からずっと泣きながら観ていた。間違いなくここ数年で一番の映画体験だった。
 余韻はしばらく続いた。すすり上げながら交差点をわたって、とんかつ屋に入って、タオルハンカチで涙を拭いながらロースとんかつ定食を食べた。


〜ウィッチンケア第13号掲載「ベーグルとロースとんかつ」より引用〜

柴那典さん小誌バックナンバー掲載作品:〈不機嫌なアリと横たわるシカ〉(第9号)/〈ブギー・バックの呪い〉(第10号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈ターミナル/ストリーム〉(第11号)/〈6G呪術飛蝗〉(第12号)

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