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VOL.13寄稿者&作品紹介28 清水伸宏さん

清水伸宏さんは〈擦れ違い小説〉の名手なのではないか、と今号への寄稿作「アンインストール」を拝読して私(発行人)は思いました。前号(第12号)に掲載した「つながりの先には」でも、インターネット時代ならではのすれ違いが物語の基盤にあったし、今作にもLINEとか、《こんなページを立ち上げてしま》ったり(どのSNSだろう?)とか、いろいろ2020年代ならではの舞台装置が登場しますが、しかしよく読むと描かれているのは人間同士の〈擦れ違い〉でして。もし清水さんが昭和の時代を描いたら、たとえば「僕が待ち合わせ時間を間違えて、○○と銀座ソニービルの前で会えなくて、公衆電話は行列で」みたいな設定での擦れ違いを描く!? それはともかく、〈僕と君はほんとうにわかり合えていたのかな?〉はいつの時代でも胸熱のテーマです。今作はとくに切なさ全開で、もしドラマ化したら主役の「僕」は誰が適役だろう、なんて想像してしまいました。ジャニーズ系だったら、草彅剛? いや、大森南朋とかもいいかも。あっ、でも《35歳会社員》という設定なので歳がいき過ぎてるし...松坂桃李なんてどうだろう。

「僕」の妻が失踪。困った僕はネット上にページを立ち上げて万人からのアドバイスを求めます(でもアクセスはしばらくゼロ)。《やっぱ男ですかね。それともなにか事件に巻き込まれたとか……。マジ不安です》《なんか、一方的に離婚を通告されたみたいで不気味です》などと心境を告白したりもします。書き込みが増えるにつれ、「僕」が自分の知りうる限りの「妻の居場所」を、懸命に訪ね歩いていることもわかってきます。冗談めかした書きかただけれども、これは、かなり必死。やがて、《奥さんは家出して10日目に何事もなかったような顔をして帰ってきた》という経験を持つ《山Pさん》が、コメントをくれたりもするのですが...。

探し歩けば歩くほど、自分の知らなかった妻の姿が浮かび上がってくる。記憶を辿れば辿るほど、いままで気にもしていなかった妻の「何気ないひとこと」の真意がわかってくる。いまは令和5年。さすがに「メシ、風呂、寝る」「うちの愚妻が」「家庭に仕事とセックスは持ち込まない主義」といった類いの“昭和の遺物”男性は絶滅したと思いますが、それでも〈僕と君はほんとうにわかり合えていたのかな?〉は...だってあたりまえですが、配偶者はもっとも身近で生活している〈他者〉なんだし。

 さっき妻の実家に電話を入れましたけど、電話に出た義母はもろ孫待ちしている態度で、妻の家出のことなど何も知らないのがバレバレだったので、すぐに電話を切っちゃいました。
 妻の両親には、入籍の際に開いた両家の食事会以来会っていません。お盆と年末年始は、僕は大宮、妻は名古屋、とそれぞれの実家に別々に里帰りしました。二人して両方に行くとお金もかかるし、休みが全部潰れてしまいますからね。
 電話を切ると、LINEのショートカットに新着マークがついているのに気づいてすぐにタップしました。でも妻ではなく学生時代の友達からで、都内で行われる飲み会の誘いでした。学生時代や本社勤務時代の友人とは今でもつき合いがあり、二か月に一度くらいは都内で遊んでいます。そんな時は大宮の実家に泊まりますが、そういや僕の留守中に妻は何をしてたのかな。いけませんよね、どんどん物事を悪い方向に考えてしまう。
 妻が出て行って6日目です。今日もLINEに既読はつきませんでした。

〜ウィッチンケア第13号掲載「アンインストール」より引用〜

清水伸宏さん小誌バックナンバー掲載作品:〈定年退職のご挨拶(最終稿)〉(第11号)/〈つながりの先には〉(第12号)

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