VOL.12寄稿者&作品紹介05 長井優希乃さん
「令和GALSの社会学」の著者・長井優希乃さん(あっこゴリラさん、三原勇希さんとの共著)。今号ではひょんな偶然が重なり、小誌へ初寄稿してくださることになりました。最近ほとんどテレビを見なくなった私(←発行人)は自分の部屋でネット聴取していることが多く、Spotify経由でのPodcastにもいくつかチェックを入れていて、お気に入りのひとつが寄稿者・柴那典さんもときどき出演する「三原勇希×田中宗一郎 POP LIFE:The Podcast」。その♯070に“三原さんのソウルメイト”として長井さんとあっこさんが出ていて、興味深い話が満載だったのです。それで「令和GALSの社会学」を買いまして、それからしばし時が流れ、小誌第12号の準備を始めた2021年秋。ある調べごとで私の住む東京都町田市の広報ウェブサイトを閲覧したら、なんと長井さんが紹介されていました。《町田市野津田育ちの「生命大好きニスト」(芸術教育アドバイザー、ヘナ・アーティスト)》...これはなにかのご縁かもしれず、とFacebookの町田関連コミュニティの「友達」に聞いてみると、「令和GALSの社会学」の書籍編集者も町田在住とわかり...と、そんな流れで無事長井さんに寄稿依頼することができたのでした。でも、一番の偶然は、コロナ禍で長井さんがアフリカから日本に戻っていたこと、かな。そのへんの事情は、ぜひ寄稿作「牛の背を駆け渡る」でお確かめください。
作品の舞台であるトゥルミはエチオピア最深部でスルマ・オモ川の流域。地図を見てみると南スーダン、ケニアまでもう少し、といった場所です。いまから10年前、長井さんは「大学を休学して行った1年間の旅の途中、ひょんなことからエチオピアに行くことにした」そうで、首都のアディスアベバから長距離バス〜ミニバス〜NGO関係者の車を乗り継いでトゥルミに到着した、と。以後、現地での体験談が続き、その内容があまりにもおもしろいのでそのまま魅了されてしまいましたが、今回あらためて作品を読み直してみて、旅に出た理由が「ひょんなこと」としか説明されていないのが、逆になんともリアルだなぁ、と思ったり。移動が制限された昨今ではちょっと事情が違いますが、世の中には「目的(地)に至ることが旅」な人と「旅自体が目的」な人がいるよなぁ、と。
作品の後半では、現在の長井さんの日常生活が語られています。具体的には記されていませんが、国内で職を得て規則正しい社会人生活を淡々とこなしている感じ。...ちょっと、町田とか東京とか日本とかだと、長井さんにとっては狭すぎる環境なのかもしれず、このコロナ禍が一段落したら、また長井さんはどこかへと旅立っていきそうな予感が、読了後にしてなりませんでした。
ガイドのギノによると、彼女らにとって、ムチに打たれて傷ができることは、自分が牛跳びをする若者をいかに応援しているか、ということを示すしるしとなる。ムチに打たれず傷を作らないことは、応援の気持ちを表すことができないのと同じなのだそうだ。ゆえに、女性たちは積極的にムチに打たれ、その傷を誇りとする。しかも、応援してくれたことのお返しに若者の家からヤギがもらえることもあるらしい。あの女性たちの迫力を見ると、「ムチに打たれてひどい、かわいそう」などとは全く思えない。私もハマルの女性だったら、ムチに打たれにいくのだろう。
牛跳びをする若者が現れた。彼は頭髪の一部を残して後は丸坊主だった。そして全裸に、交差させた紐を上半身に巻くのみ、という格好だ。いざ、15頭ほどの牛が、1頭に2人がかりで角と尾をつかまれ、一列に並べられた。
〜ウィッチンケア第12号〈牛の背を駆け渡る〉(P024〜P028)より引用〜
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