VOL.14寄稿者&作品紹介17 3月クララさん
インパクトのある女性のイラストに惹かれて「るるるるん」vol.4を某書店で入手したのは、昨年の夏の終わりごろでした。同誌はかとうひろみさん、UNIさん、3月クララさんによる文芸ユニットが、各号同じお題目のもとに小説を発表しあう、というスタイルの刊行物。ちなみに私(←発行人)が「なんでこっち見てるのさ!?」と気になった表紙画は、唐澤龍彦さんの作品です。さて、今回が小誌への初寄稿となる3月クララさんは、「るるるるん」vol.4で「影は夜、自由な透明になる」という一篇を執筆していまして...なんだか妙に後を引くというか、読みながら気掛かりを残す作風だと思いました。たとえば主人公のサオリが元夫・崇宏と再会するシーン。九月某日(日曜日)の午後~夕方 のできごとを淡々と描いていますが、そのなかにいくつか〝危険な種〟が投げ込まれていて、前後の状況が見通せた後に「なるほど、そういうことか」とわかる、みたいな。“黒光りする崇宏の革靴が気に障り、もう一度誘われたら断らないと決めた”(「影は夜~」より引用)...なるほど、だから「気に障」るし「断らない」のか、みたいな。それは冒頭の病室のシーンも母と図書館と付箋の関係も......って、私がここで語るより、「るるるるん」vol.4をゲットしていただいたほうがわかりやすいですね。そんな3月さんとは名古屋市で小誌をお取り扱いいただいているTOUTEN BOOKSTOREの店長様のご仲介で連絡がつき、寄稿してもらえることになったのでした(大感謝です!)。
「ゼロ」というシンプルなタイトルの寄稿作。前半はカナコとバーテンダーの2人による“無”(ゼロ)についての会話が続きます。なんかオレ、いまからでも宗教にでも入っておこうかな、と改心したくなりそうな殺伐とした...でも妙に低体温で生煮え感のあるカナコのアティチュードは、「影は夜~」のサオリを彷彿とさせたりもして。こういった、狼狽えることのないコミュニケーションで物語を綴っていくのは「書き」の技法というより、作者のお人柄=品の良さ、に起因しているのじゃないかな、とも。
作品後半は、いきなりデカい展開が待っています。バーのカウンターで酒飲んでたカナコさん、そんな人だったとは! ここでネタバレなんて、もったいなくてしたくないので、以下の引用箇所も前半からにしておきますね。↑のほうで私は《前後の状況が見通せた後に「なるほど、そういうことか」とわかる》と書きましたが、本作も、まさに。みなさま、ぜひ小誌を手に取って、3月さんの振り幅が大きい作品をご堪能くださいませ。
「無宗教のわたしの場合、幽霊になったら死ぬまで……ああ、もう死んでるのか。なんていうのかな、幽霊から別のフェーズに移行することはある?」
「まず、幽霊になったからといって、壁を通り抜けたり宙に浮いたりはできません。予知能力も得られません。施設の出入りは、生前と同じようにゲートや扉を通過しなければいけませんし、移動は徒歩か動いている交通機関を利用することになります。幽霊同士の姿は見えますが、それはホログラムと同じで、幻影だと思ってください。ご質問の答えですが、霧の町に残っても幽霊になっても、最後にはゼロになります」
「ゼロってどういう状態よ。成仏するとか?」
「無宗教ですと成仏はできませんね。消滅すると言えばいいんでしょうか。空気よりも無の状態です」
「痛い? 無になるとき」
「それは私にもわかりかねます」
~ウィッチンケア第14号掲載〈ゼロ〉より引用~
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