『Run in two』

ナオヤ
マコ
 

Zoom。ナオヤだけが入室している。ビデオはオフ。名前の欄は「阿久津慧輔」になっている
 
ナオヤ  ふぅ。もうすぐ9時か。うわぁ~緊張するな。うわ、入ってきた。ふぅ~。ん、んん。うん。あーあーあー。ううん。んん。あーあーあー。よし、入室許可っと。んんん。あーあーあー(以降声低く)
 
   マコが入ってくる。ビデオ、マイクはオフ。名前の欄は「河名寧々」になっている
 
ナオヤ  あ、どうも。
 
   マコ、マイクをオンにする。
 
マコ   (可愛子ぶった声で)あ、どうもどうも。ケイスケさん、ですか?
ナオヤ  はいそうです。ネネさん、ですか?
マコ   はいそうです。はーよかったよかった。ちゃんとつながりましたね。
ナオヤ  ですね。
マコ   いやー、なんか緊張しちゃうなぁ。
ナオヤ  はは、そうですね。
マコ   あ、すいませんちょっとお待たせしちゃいましたよね?
ナオヤ  いえいえ!ほぼ時間ぴったりですよ。
マコ   え、ほんとですか?よかった~。
 
少しの沈黙。
 
ナオヤ  あの、ビデオオンにしません?
マコ   え?
ナオヤ  いや、あの、ほら、せっかくZoomなんだし。
マコ   あ~。え~、でも恥ずかしいな
ナオヤ  まあそうですけど、やっぱり顔見て話したくないですか?
マコ   う~ん、・・・わかりました
ナオヤ  ありがとうございます。
マコ   あ、じゃあケイスケさんからつけてくださいよ!
ナオヤ  え~、それは恥ずかしいな
マコ   も~なんでよ、言い出しっぺのくせにぃ~
ナオヤ  いやまあ、そこは公平に同時にしましょうよ
マコ   え~・・・はぁい、わかりました。じゃあせーのでオンにしましょ
ナオヤ  はい
マコ   じゃあいきますよ、あ、ちゃんとつけてくださいよ~
ナオヤ  いやいや、そっちこそちゃんとつけてくださいよ
マコ   わかってますよ~!じゃあいきますよ。
二人   せーの。
 
   ナオヤ、マコビデオオン。沈黙。
 
ナオヤ  ・・・マコ?
マコ   ・・・ナオヤ?
 
   一瞬沈黙。以降普通の声。
 
二人   はぁ~!?
マコ   あんた何してんの?
ナオヤ  そっちこそ何してんだよ!
マコ   え、ちょ、確認確認確認。え、私たち付き合ってんだよね?
ナオヤ  おん
マコ   なんでマッチングアプリでやり取りしてたら彼氏とマッチングすんのよ?おかしくない?
ナオヤ  いやその言葉そっくりそのままお返しするわ。なんでお前マッチングアプリなんかやってんだよ!
マコ   はあマジで信じらんない。てかなにその名前、阿久津慧輔?あんたこばやしなおやじゃない! 
ナオヤ  うるせえな!この画数の多さにイケメンさがにじみ出ててかっこいいだろうがよ!てかお前こそ河名寧々ってなんだよ!お前の本名つちだまこだろ?
マコ   うるさいわね!響きが何かかわいいでしょ響きが!
ナオヤ  てかお前のさっきの声なんだ。あぁん?『あ、ちゃんとつけてくださいよ~』だぁ?お前俺の前でそんな声一度も出したことないよな?かわいい子ぶりやがって気持ち悪い
マコ   はぁ?あんただって下心丸見えの気持ち悪い声出してたでしょ。しかも『ビデオオンにしません?』とか言って相手の顔見ようとするあたりほんとおぞましわ。ていうかこれ、完全な浮気だからね!
ナオヤ  はぁ!?何偉そうに言ってんだよ!
マコ   だってそうでしょ?私の知らないところで他の女と出会おうとしてたわけだからこれは完全に浮気でしょ!
ナオヤ  待て待て待て、お前だって同じことしてんだろ!
マコ   男の浮気と女の浮気を一緒にしないでください
ナオヤ  なんだその理屈意味わかんねぇよ
マコ   はぁいちいち細かいな~そんなんだから浮気されんのよ
ナオヤ  いやどの口が言ってんだよ!ていうか俺が一番許せないのはお前がきた時間な。
マコ   は、時間?何よ
ナオヤ  お前俺とのデートの時は30分くらい遅刻してくるよな。そのくせに何今日は時間ぴったりに来てくれてんだよ?
マコ   30分じゃないです1時間ですぅ~
ナオヤ  もっとだめだろうが!
マコ   それはあれでしょ。あんたと会うときは一番かわいい私でいたいから準備に時間がかかっちゃって遅れてるんじゃない。
ナオヤ  おま、それを言ったら俺もその時間のおかげでお前と会う心の準備ができてんだけどよ
 
   沈黙。二人微笑み合う。
 
 
 

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