『僕の中のヒーロー』
ササベソラ 2年2組の生徒
ヒナドリルリ 2年2組の生徒
サメズミナト 2組2組の生徒
イズミシンゴ 2年2組の生徒
ミフネシノ 2年2組の生徒
サガモナ 2年2組の生徒
シオタカネト 2年2組の生徒
アサギセイラ 2年2組の生徒
ハナダコテツ 2年2組の生徒
グンジセイイチロウ 2年2組の担任
ビンロウジカナマル 2年2組の副担任
ミズノレイヤ サッカー部顧問
イズミセイジ シンゴの父
イズミエリ シンゴの母
ゲン 組織のボス
トビー 組織の部下
ツルミ 組織の部下
ロイ 組織の部下
ブルーサンダー 正義のヒーロー
オープニング
2学期が始まって少し経った2年2組の教室。グンジの司会で後期の委員会決めが進んでいる。シノ、カネト、セイラが前に立っていて、それぞれの決意表明が終わり多数決に進もうとしている。ソラは窓から校庭を眺めぼーっとしていて次第にいつもの妄想に耽っていく。
グンジ はい、アサギありがとう。それじゃあ全員の意気込みが聞けたので投票に移ります。男子はシオタしかいないから任せていいと思ったら手を挙げて、女子はミフネかアサギのどっちか、給食委員にふさわしいと思った方に手を挙げてください。それじゃあいくぞ。まずシオタで・・・
ちょっとファンタジックな銃声。
セイラ きゃー!
シノ 何?なんの音?
校庭にゲンと組織の部下たちが現れる。
ゲン くっくっく・・・ようやく見つけたぞ。まさかこんな普通の学校に身を潜めていたとはな。
ソラ あ、あいつらは。
ツルミ 今までのお礼、た~っぷり返してやるからな。
トビー ほ~ら、大人しく出てきた方が、身のためだよ?
ソラ なんであいつらにこの場所がばれたんだ?
トビーがもう一発発砲。音はまたもちょっとファンタジック。
モナ きゃー!
シンゴ 助けて~!
コテツ 怖いよ~!
トビー ははははははは!
ソラ くそ、あ、あいつら・・・。
ルリ ちょっと、ソラ!どこいくの?
ソラ、勢いよく教室を飛び出す。
ツルミ ほら、大人しく出てこい、さもないとお前の大事な大事なお友達も、この学校もみ~んな黒焦げになっちゃうぞ?
カネト どどど、どうしよう・・・!
ミナト くそっ!俺たちじゃどうすることもできない!こんな時、あいつが来てくれたら・・・
ロイ 言葉だけでわからないなら、こいつをお見舞いするしかないな。
Bサンダー そこまでだ!
ゲン ん?
ブルーサンダー、かっこよく登場
Bサンダー 青いイナズマが正義を守る。ブルーサンダー、参上!
コテツ あれは!
シンゴ 正義の味方、ブルーサンダーだ!
シノ きゃー!かっこいい!
ゲン ふ。ようやく現れたな、ブルーサンダー。
Bサンダー 学校の皆まで不安に陥れるとは絶対に許さない。今日こそ必ず決着をつけてやる!
ゲン 望むところだ。今日こそお前を叩き潰す。かかれ!
部下たち は!
部下たちがブルーサンダーに襲い掛かる。が、ブルーサンダーは次々と倒していく。
Bサンダー くらえ!シャイニング、スパーク!
ツルミ ぐはっ!
トビー くっ!
ロイ つ、強い!
ルリ さすがブルーサンダー!
モナ 頑張れ!ブルーサンダー!
Bサンダー 残るはお前だけだ、覚悟しろ!
ゲン おのれぇ!これでもくらえ!はぁ!!
ゲンが構えの姿勢を取る。
Bサンダー まずい!あの構えは、やつの最大の攻撃が来る!みんな!このままだと危ない!体育館の裏にある秘密の抜け道から逃げるんだ!
ルリ わかった。
ミナト でも、ブルーサンダーは?
Bサンダー 俺のことは良い!みんな早く逃げるんだ!
ゲン くらえ!
ゲンが教室に向かって攻撃を放つ。その攻撃をブルーサンダーが身を挺してかばう。
Bサンダー ぐ!
ミナト ブルーサンダー!
Bサンダー 早く!
ブルーサンダーとゲンがそれぞれ攻撃の構えを取る。
ゲン はぁ~!
Bサンダー はぁ~!
教室の生徒達がブルーサンダーとゲンを取り囲み渦のように走り始める。やがて全員が舞台上を縦横無尽に移動する。
生徒達の「頑張れ!」「ブルーサンダー!」などの応援の声。次第にグンジの「ササベ!」と呼ぶ声だけになっていく。それに合わせて生徒達も自分の机に戻っていく。
第一場
ソラの妄想の世界から現実の2年2組の教室に戻る。シノ、セイラの決選投票になっており、グンジがソラに最後の一票を促している。
グンジ ササベ!
ソラ は、はい。
グンジ どっちに入れる?
ソラ はい?
グンジ だから、給食委員。ミフネとアサギ、今同率だからササベの一票で決まるけど、どっちに投票する?
ソラ え、あ~、じゃあアサギさんで。
グンジ よし、アサギな。
セイラ よかった~
シノ ちぇ~。
カネト、シノ、セイラが自分の席へ戻る。
グンジ はい。それじゃあ後期の給食委員はシオタとアサギで決定な。二人ともよろしく。じゃあ最後はお待ちかね、学級委員を決めようか。
チャイムの音。
グンジ あ、時間かけすぎちゃった?じゃあ学級委員は明日決めるにしようか。あ、違うだめだ。先生明日急に出張入っちゃったんだ。どうしようかな。ちょっと学級委員決めどうするか考えるから学級委員立候補してる人たちちょっと後で先生のところ来てもらっていい?
ル・ミ・ソ はい。
グンジ じゃあ他の人は挨拶したら解散で。号令。
ルリ 起立。気を付け。礼。
生徒達 さようなら。
グンジ はい、さようなら。
生徒達、教室の机と椅子を移動させ、順番にはけていく。グンジ、ソラ、ルリ、ミナトは教室の端っこに集まり話を始める。
カネト 先行ってるぞ。
ミナト うん。
セイラ 先生、学年通信に載せるこれ書いてきたんですけどどうしたらいいですか?
グンジ あー、ありがと。そしたらそれビンロウジ先生に渡しておいてもらってもいい?
セイラ わかりました。
コテツ シンゴーこのあと暇?遊びに行かない?
シンゴ あ~、ごめん。今日はピアノのレッスンあるんだ。
コテツ あ、そっかごめん。忙しいよな。
シンゴ ううん。誘ってくれてありがと。
シノ ちょっとコテツ、シンゴくんは私たち一般庶民とは違ってお忙しいんだから。そんな気安く話しかけちゃダメでしょ。
コテツ あ~そうでしたそうでした。ごめんなお坊ちゃん。
シンゴ いややめろって。
コテツ じゃあまた明日な。
シンゴ うんまた明日。
シノ 行こっか。
モナ うん。
シンゴ、コテツ、シノ、モナはけ。
グンジ えっと、学級委員に立候補してるのはヒナドリとサメズと、ササベか。ごめんな今日中に決められなくて。
ルリ 全然大丈夫です。
グンジ 明日先生出張でいないんだけど、帰りの学活かどっかで時間使って学級委員決めておいてもらってもいい?まあ女子はヒナドリしか立候補してないから信任投票でいいと思うんだけど、男子はサメズとササベが立候補してくれてるから今日みたいに意気込み話してみんなに投票してもらうって形でやってもらっていいかな。
ミナト わかりました。
グンジ 一応副担任のビンロウジ先生にも見ていただくように頼んでおくわ。
ミナト ありがとうございます。
グンジ 他大丈夫?なんか聞いておきたいこととか不安なこととか。
ミナト 大丈夫です。
ルリ 私も大丈夫です。
グンジ ササベは?
ソラ あ、大丈夫です。
グンジ よし、じゃあ解散で。明日よろしくね。
ルリ はい。
校庭から教室に向かってカネトが叫ぶ。
カネト お~い!ミナト~!マネージャー!いちゃいちゃしてないではやく部活来いよ~!
ミナト バカ!そんなんじゃねぇよ!すぐ行くからゴール出しといて!
カネト はいはい~!
ミナト じゃあ行くか。着替えたらグラウンド集合で。
ルリ うん。
ルリはけ。
ミナト ヒナドリルリはサッカー部のマネージャー。クラスでは学級委員も務めている。去年は部活でしか関わりがなかったけど今年は同じクラスになれた。凄く嬉しかった。誰にでも明るく優しく接している彼女を見ているといつも心が救われる。ルリが俺のことをどう思っているかはわからない。でも、ルリのために何かをしたいと思うし、そう思えるからいろんなことを頑張れる。そんな思いを抱えながら俺はジャージに着替え、グラウンドへと向かった。
第二場
放課後、部活の時間の図書室。文芸部の活動が始まろうとしている。顧問のグンジが前に立っていて、文芸部の生徒達、シノとモナが近くに、少し離れてソラが座っている。
シノ これから文芸部の活動を始めます。気を付け、礼。
部員たち よろしくお願いします。
グンジ はい、よろしくお願いします。まあ今日もいつもと同じで、各々自分の作品作りを進めるようにしてください。先生は今日も教室をうろうろ周るので何かわからないこととかあれば聞いてください。
部員たち はい。
グンジ それじゃあ、はじめ。
部員たちはそれぞれの作品作りを進める。グンジが図書室を周ってそれぞれの様子を見る。グンジがシノとモナの作品を覗き込む。
グンジ あれ、ミフネ小説書いてるんだ。
シノ はい。
グンジ この前まで漫画書いてなかった?
シノ そうなんですけど、やっぱ自分は絵描くのそんなに得意じゃないなと思って。で、思い切って文字だけにしてみたら意外とスイスイ書けたのでこのまま小説書くことにしました。
グンジ へぇ~そうなんだ。いいねいいね。お、サガは相変わらず小説か。
モナ はい。
グンジ あれ、もしかしてサガ、三島由紀夫好き?
モナ え?
グンジ この表現技法めちゃくちゃ三島由紀夫じゃない?
モナ え、先生三島由紀夫知ってるんですか?
グンジ もちろん知ってるよ。先生小説詳しいもん。
シノ まあ文芸部顧問だしね。
モナ あ、そっか。
グンジ あはは。まあそれもあるけど、先生元々は小説家目指してたからね。
モナ え、初耳です!
シノ そうなんだ!意外!
グンジ 意外ってどういうことだよ。
モナ え、じゃあ先生も小説とか書いてたんですか?
グンジ もちろん。今のサガみたいに好きな作家さんの文体真似して書いたりしてたよ。
シノ え~それパクリじゃん。
グンジ 違うパクリじゃないよ。リスペクト。それに最初はそれでいいんだよ。最初は好きな物まねて作って。それでもどうしても絶対に似ない部分があって、それがその人らしさになっていくんだよ。
シノ 先生いつにもなく熱いね。
グンジ 文芸部顧問だからね。
シノ なんだそれ。
モナ グンジ先生はどうして小説家にならないで先生になったんですか?
グンジ う~ん、なりゆき?
シノ なにそれ。
モナ やっぱり小説家になりたいなとか思わないんですか?
グンジ う~ん、思わなくはないのかもしれないけど、こうやって文芸部に顧問として関われてるからそんなに強くは思わないかな。小説家とは違うけど、好きな物に関われてる感じはするし。
モナ へ~。
グンジ それに、続けてて思うけど先生向いてる感じするし。
シノ ひゅ~ひゅ~!
グンジ ひゅ~ひゅ~じゃないよ!手止まってるぞ。字書け字。
シノ は~い。
グンジがソラの方へ移動し、ソラの描いている漫画を覗き込む。
グンジ お、ササベは相変わらず漫画か。
ソラ はい。
グンジ これが主人公?。・・・ブルーサンダー?
ソラ はい!青いイナズマが正義を守る、正義の味方、ブルーサンダーです。
グンジ ヒーローものか。いいね。ブルーサンダーはどういうヒーローなの?
ソラ 人々がピンチになるとイナズマのようなスピードで現れるみんなのヒーローです。
グンジ ふ~ん。なんか必殺技とかないの?
ソラ 一番の必殺技はこれです!電撃奥義、シャイニングスパーク!
グンジ シャイニングスパーク。
ソラ そうです!空から青い雷がブルーサンダーに落ちてきて、それを敵に向かって放つと青いイナズマが敵を攻めるんです!
グンジ なにお前スマップ?
ソラ はい?
グンジ いや青いイナズマが敵を攻めるんだろ?
ソラ はい。
グンジ スマップじゃん。
ソラ ?
グンジ そっか今の子世代じゃないからスマップわからないのか。じゃあまぐれで青いイナズマってこと?すごいなお前。
ソラ ありがとうございます。
グンジ あれ、ていうかこれってこの学校?
ソラ おお、先生よく気が付きましたね。実はこの漫画、この学校が舞台なんです。
グンジ どういうこと?
ソラ ブルーサンダーのアジトはこの学校の地下に隠されているんです。普段は一般生徒として普通に学校生活を送ってるんですけど、敵の襲撃を確認するとブルーサンダーが授業を飛び出してアジトであるこの学校からから出動するんです。
グンジ へぇ~。面白い。
ソラ でもあるとき、敵にブルーサンダーのアジトがこの学校だってばれちゃうんです。
グンジ え、やばいじゃん。
ソラ そう!悪の組織が学校に攻めてきてしまってまさに絶体絶命の大ピンチ!そんな時、ブルーサンダーは生徒を守るために他の生徒をを体育館裏の秘密の抜け道から逃がして一人で戦うんです。
グンジ ん?体育館裏の秘密の抜け道って?
ソラ この漫画を描くために学校のこと調べようと思って学校中を散策してた時に見つけたんです。体育館裏にある誰も使ってないけど外に出られるようになってる扉。先生知りませんか?
グンジ 知らない。初めて聞いた。今度見てみよ。
ソラ ぜひぜひ。
グンジ ふ~ん。じゃあこの漫画は現実世界とリンクしてるってことなのか。あ、もしかしてこのブルーサンダーって、ササベ?
ソラ まあ、そういうことになりますね。この漫画の中で僕は成績優秀、スポーツ万能。その正体がブルーサンダーということを隠して学生生活を送る理想のヒーローなんです。
グンジ 理想のヒーローか。ササベの理想ってどんな人?
ソラ え、そりゃ頭もよくて、リーダーシップがあって、皆からすごいって言われる人ですかね。
グンジ じゃあササベの人生は周りの人が決めるんだな。
ソラ え?
ビンロウジが図書室へ入ってくる。
ビンロウジ グンジ先生、ちょっとよろしいですか。
グンジ あ、はい。わかりました。あ、ていうかもうこんな時間か。ごめんそしたら今日みんなの区切りのいいところで終わりにしちゃっていいや。で、挨拶無しで解散にしちゃって大丈夫。
シノ わかりました。
グンジ じゃあさようなら。
部員たち さようなら。
ビンロウジ、グンジはけ。
ソラ 僕の人生。
ソラ、モナはけ。
シノ 給食委員選で負けた。漫画もずっと好きで描いてきたけど自分の絵が好きじゃなくて描くのを辞めた。でも、それでいい気もする。委員会に所属せず委員会活動がある日にすぐに帰れるのはそれはそれで嬉しいし、小説は小説で絵では表現できないところまで表現できるから書いていて楽しい。お気楽だなって思うけど、人生なんて捉え方だし、捉えたいように捉えることにする。そっちの方が絶対楽しいし。
第三場
部活が終わった校門の前。部活を終えた生徒たちをミズノが送り出している。
カネトとミナトが校門から出てくる。
ミズノ はいさようならー。ほらたまらないで早く帰れー。
カネト さよなら~。
ミナト さようなら。
ミズノ おお、シオタ、サメズお疲れ~。
カネト お疲れ様です~。
ミズノ シオタ今日のシュートなかなか良かったぞ。
カネト ありがとうございます。
ミズノ 来週の試合もしっかり決めろよ。
カネト はい、頑張ります!
ミズノ サメズもお疲れ様。
ミナト お疲れ様です。
ミズノ キャプテンとして、来週の試合もしっかりまとめてくれよ。
ミナト はい。
ミナト、ルリを待つためにちょっと待ってみたり、反対の方向から帰ろうとして見たりする。
カネト おい、お前の家は、こっちだろ。
ミナト あ、おいちょっと!
カネト いいじゃん、たまには俺とも帰ってよ。
ミナト わかったわかったよ。
カネト、ミナトを連れてはけ。
ルリ、校門から出てくる。
ミズノ おい気を付けろよ!
ルリ さようなら。
ミズノ おお、ヒナドリ。お疲れ様。
ルリ お疲れ様です。
ミズノ いつもありがとな。いろいろやってくれて。
ルリ いえいえ。マネージャーなので当然です。
ミズノ しっかりしてんな。じゃあな。
ルリ はい。さようなら。
ミズノはけ。ルリはミナトがいないかあたりを探している。
ソラが校門から出てくる。ソラとルリが鉢合わせる。
ルリ あ。
ソラ あ。
ルリ 久しぶりに一緒に帰ろうよ。ご近所さんだし。
ソラ え。
ルリ どうせ帰る方向一緒でしょ。ほら。
ソラ え、ああ、うん。
舞台上を通学路に見立てて歩く。
若干の沈黙。
ルリ なんか最近私のこと避けてる?
ソラ え、なんで。
ルリ なんかわかんないけど、勘?
ソラ そんなことないよ。
ルリ そう?じゃあよかった。
再び若干の沈黙。
ルリ なんか変な感じするよね。
ソラ なにが?
ルリ いや、幼稚園の時から知ってるソラと、こうやって中学の制服着て並んで歩いてるの、なんか違和感ある。
ソラ そうだね。
またまた若干の沈黙。
ソラ サメズくんといい感じなの?
ルリ え?
ソラ え、あ、ごめん。
ルリ なに、嫉妬してるの?
ソラ いや、そんなんじゃないけど、なんていうか、気にはなるかな。
ルリ どうなんだろう・・・良い感じ、ではあるかな。
ソラ そうなんだ。
ルリ うん。なんか、私のこと好きでいてくれてるんだろうな~って思える。
ソラ え?
ルリ (笑って)ミナトさ、めっちゃラインくれるの。これ私のターンで終わりでもいいのになっていうラインの後も絶対何か返してくれるの。おかげで私最近ちょっと寝不足だもん。あ~この人私とラインしたいんだ~ってちゃんと思える。今までそんなこと人にされたことないからさ。そりゃ気にはなっちゃうよね。
ソラ なるほどね。
ルリ サッカー部入ってさ、ちょっとかっこいいなとは思ってたの。ミナトのこと。もっと話したいなって思ったし、好きになってくれたら嬉しいなって思った。
だからマネージャーの仕事も頑張ったし、身だしなみもそれなりに気を付けるようにした。その頑張りがちょっとは報われ始めたのかな。
ソラ ルリはすごいよ。なりたい自分になってて。
ルリ え?
ソラ サメズくんのこともそうだし、学級委員も。昔は隣を歩いてる幼馴染だと思ってたけど、ルリはどんどんどんどん前に進んでる。成績はほぼオール2で運動神経もダメダメな僕なんかじゃ手の届かないところまで行っちゃう気がする。
ルリ なにそれ。
ソラ 変わったよ、ルリは。
ルリ 変わらないね、ソラは。
ソラ なにそれ。
ルリ じゃあね。
ソラ え?
ルリ え?って。ここでしょ?家。
ソラ え?あ、もう着いてたんだ。なんかあっという間だったな。
ルリ 久しぶりに話せて楽しかった。
ソラ 僕も。
ルリ じゃあね。
ソラ じゃあね。
ソラはけ。
ルリ ソラとは幼馴染。親同士の仲が良くて小さい頃からいつも一緒に遊んでた。実をいうと、昔はソラのことが好きだった。でも、幼馴染という関係から肩書きが変わることはなかった。ソラが私のことを好きなのかわからなかったし、私が何か伝えたことで、この幼馴染という関係が変わってしまうことが嫌だった。サッカー部に入ってミナトと出会った。ミナトは行動で私のことが好きだって伝えてくれる。だから私も安心してミナトのことを好きになれた。心の中で思っていることなんて目には見えない。だから私も目に見える形でミナトのことが好きだって伝えたい。
第四場
部活の後の空き教室。セイジとエリが押しかけてきておりグンジが来るのを待っている。そこへグンジとビンロウジが入ってくる。
グンジ すいませんお待たせしました。シンゴくんの担任のグンジです。
エリ シンゴの母のエリです。
セイジ ・・・。
エリ あなた。
セイジ 父のセイジです。
グンジ それで本日はどうされたんですか。
エリ 実はネットの掲示板にこんなものが書き込まれているのを見つけまして。
グンジ イズミ工業社長イズミセイジの息子、イズミシンゴの通う学校を探している。情報提供求む。なんですかこれ。
エリ わかりません。主人の会社の人間が見つけて教えてくれたんです。
グンジ 犯人に心当たりは?
エリ ありません。それから、これを見てください。
グンジ これは、うちの学校の写真ですか。しかも最近撮られたものですね。
エリ はい。今までもこういったいたずらは何度かありました。でも、学校まで特定されたのは今回が初めてで怖くなってしまって。
グンジ このあとのやり取りは?
エリ ありません。どうやらこのあとは直接やり取りを行っているみたいで。やはり警察に連絡するべきでしょうか。
セイジ くだらない。こんなことで警察に連絡する必要はないだろう。
エリ 何言ってるの!
セイジ ただのネットのいたずらだ。放っておけばいい。
ビンロウジ それはあなたは警察には連絡したくないですよね。
セイジ 何?誰だお前は。
ビンロウジ すいません。シンゴくんの副担任のビンロウジです。失礼ですが、あなたの会社イズミ工業はあまりよくないお金の運用を行っているという話を聞いたことがあったもので。ここで警察沙汰になればあなたの会社についてもいろいろ調べることになる。それはあなたにとって不都合なことなのではないかなと思ってしまいまして。あなたの会社では拳銃の製造についても行われている。劣悪な労働環境、汚いお金の流れ、拳銃、他にもいろいろと悪い噂は絶えませんからね。
セイジ なんだと。
ビンロウジ まあでも、警察に連絡しないというのは私も賢明な判断だと思います。こんなものをいちいち相手にする必要はありませんよ、お母さん。
エリ そうですか?
セイジ とにかくだ。警察には絶対に連絡しない。
生徒を送り終えたミズノが入ってくる。
ミズノ すいません。どうしたんですか?
グンジ イズミが通っている学校の情報を求めるネットの書き込みがあって、この学校であるということがばれてしまったらしい。
ミズノ え、なんですかそれ。
エリ これを見てください。
ミズノ なるほど。この写真は確かにこの学校ですね。
ビンロウジ どうせ悪質ないたずらに決まっていますよ。取り合う必要はありません。
グンジ ビンロウジ先生。
ビンロウジ 第一、ばれたから何が起こるっていうんですか。いざとなったら我々教員もついています。安心してください。
セイジ 確かにそうだよな。
エリ あなた。
セイジ シンゴのこと、任せましたよ。
ビンロウジ はい。
グンジ、ミズノ、ビンロウジ、セイジ、エリはけ。
シンゴ登場。
シンゴ 僕は生まれたときからお金持ちの息子だった。周りの人からは羨ましい、ず
るいと何度も言われてきた。でも、僕からすればみんなの方が羨ましいしず
るい。普通に暮らして普通に生きたい。普通の子は何度も何度も転校を繰り
返すことはないだろうし、普通の子はクラスの人たちからお坊ちゃんなんて
呼ばれたりしないだろ。好きでお坊ちゃんになったわけじゃない。今日も僕
はお坊ちゃんって呼ばれるんだろう。
第五場
次の日の2年2組の教室。6時間目の授業が終わり帰りの学活が始まるのを待っている。
コテツ いいよなー、シンゴは家がお金持ちで。なんも困ったこととかないでしょ?
シンゴ いやいや、お金持ちはお金持ちで大変なんだよ!
シノ またまた〜。お坊ちゃんなんだから家に馬がいたりするんじゃないの?
カネト いや家に馬って。お坊ちゃんすぎるだろ。
シンゴ 流石に家に馬はいないよ。トラはいるけど。
みんな お坊ちゃんだなぁ。
ビンロウジが入ってくる。
ビンロウジ はい皆さん席についてください。まずは学年通信を配布します。
ビンロウジが学年通信を配る。生徒は後ろの席の生徒に回していく。
コテツ アサギさんの作文載ってるじゃん。
シノ ほんとだ。二学期の目標は・・・
セイラ ちょっとあんま読まないでよ。
カネト サッカー部のことも載ってるじゃん。
シノ 来週試合なんだ。ファイト~!
カネト ありがと。でもこれいつの写真だよ。
ミナト 確かビンロウジ先生に撮ってもらった集合写真だからだいぶ前のやつだね。
モナ 夏休み前じゃない?
カネト え、なんでわかるの?
モナ 右下に日付書いてあるから。学年通信に載ってる写真はいつもそうだよ。
カネト うわほんとだ。ちょっと髪型変だもんな。
ビンロウジ 学年通信は行き渡りましたか。グンジ先生から昨日決められなかった 学級委員を決めてくださいと言われていますので今から学級委員決めを行いたいと思います。立候補する人は前に出てください。
ソラ、ルリ、ミナトが前に出る。
ビンロウジ それではヒナドリさんから学級委員に対する意気込みを表明してください。
ルリ はい。前期も学級委員を務めさせていただきましたヒナドリルリです。前期での経験やサッカー部のマネージャーでの経験を活かして皆を支えるような学級委員を目指します。よろしくお願いします。
生徒一同拍手。
ビンロウジ 次はサメズさんお願いします。
ミナト はい。サメズミナトです。前期は体育委員でしたが後期は学級委員に立候補させていただきました。サッカー部でキャプテンを務めている経験を活かして学級委員としてみんなをまとめていきたいです。よろしくお願いします。
生徒一同拍手。
ビンロウジ 最後はササベさんお願いします。
ソラ はい。ササベソラです。リーダーシップがあって、みんなからすごいって言われるような学級委員になります。何かを務めたことはないのですが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします。
生徒一同拍手。
ビンロウジ 三人ともありがとうございました。それでは投票に移りたいと思います。まずはヒナドリさんの信任投票から。ヒナドリさんを学級委員として信任する人は挙手してください。
クラスの全員が手を挙げる。
ビンロウジ はいありがとうございます。次にサメズさんとササベさんの投票を行います。サメズさんに投票する人は手を挙げてください。
クラスのほとんどが手を挙げる。
ビンロウジ 降ろしてください。ササベさんに投票する人は手を挙げてください。
クラスの数名が手を挙げる。
ビンロウジ 降ろしてください。投票の結果、後期の学級委員はヒナドリさんとサメズさんに決まりました。
生徒一同拍手。
ビンロウジ それでは三人とも席に戻ってください。
ソラ、ルリ、ミナトが席に戻る。
シノ ソラドンマイ。まあ来年やればいいって。
ソラ う、うん。
ビンロウジ それでは帰りの学活を始めたいと思います。
突然銃声が聞こえる。
セイラ きゃー!
シノ え、なに?何の音?
校庭にゲンと組織の部下たちが現れる。
ゲン ここがあのガキが通ってるって言う学校か。まさかこんな普通の学校に身を潜めていたとはな。
トビー ゲンさん、ほんとにこんな普通の学校にあの大金持ちの子どもがいるんすか?
ロイ そうですよ。もっとボンボンがいっぱい通う私立とかにいるんじゃないですか?
ゲン いや、確かな情報だ。なにせこの情報をよこしたのは・・・
ソラ え、なにこれ。
モナ 今の音、もしかして銃声?
コテツ 校庭の方から聞こえたよね?
カネト ちょっと見てみようぜ。
生徒たちが教室の窓から校庭を見る。
シノ 何?あの人たち。
カネト すごい格好してるな。
コテツ もしかして悪の組織だったりするかな?
カネト いや、マンガじゃないんだから。そんなことあるわけないだろ。
ソラ そうだ。きっとこれは妄想だ。
銃声がして窓が割れる。
シノ きゃー!
ミナト 皆危ない!窓から離れて!
ソラ もしかして、妄想じゃない?
ツルミ 見つけました!間違いありません!イズミシンゴです!
ゲン どこだ?
ツルミ あそこの教室です。
ロイ 本当だ。いた。
トビー まじでいんのかよ!
ロイ どうしましょう?
ゲン 行け。
部下たち は。
部下たちが学校の中へ入っていく。
ゲンは校門のあたりで生徒たちが出てこないかを見張っている。
カネト ちょっと待って、あの人たち学校の中に入ってきてない?
シノ え、嘘でしょ。私たち殺されちゃうよ。
セイラ でも、なんで急にこんなことになってるの?
シンゴ 僕のせいだ。
コテツ え?
シンゴ きっとあの人たちは僕のことを狙ってるんだよ。
コテツ なんでだよ。
シンゴ 僕が、僕がお金持ちの息子だから。ごめん、みんな。
コテツ そんなのシンゴのせいじゃないだろ。
ビンロウジ 皆さん落ち着いてください。私が様子を見てきます。皆さんはこの教室で待機していてください。いいですね。
ルリ はい。
ソウタ わかりました。
ビンロウジが教室を出てどこかへ行こうとする。そこへミズノがやってくる。
ミズノ 待て!イズミがこの学校にいることをやつらにリークしたのはあなたですよね?ビンロウジ先生。
ビンロウジ はい?
ミズノ おかしいと思ったんです。昨日ご家族が相談に来たとき、学校が危機に襲われるかもしれないのに取り合わなくていいだなんて。
ビンロウジ 名誉棄損もいいところですね。なにを根拠にそんなことを言っているんですか。
ミズノ あの掲示板に載せられていた学校の写真。あの写真の右下には写真が撮られた日付が載っていました。
ビンロウジ その日付が何だっていうんですか?
ミズノ 重要なのは日付じゃない、その表示です。あの表示はあなたが普段学年通信を作成するときに使っているカメラのものですよね?つまり、掲示板に載せられていたあの写真はあなたのカメラで撮影されたもの。それが何よりの証拠です。
ビンロウジ ・・・。
ミズノ こんな時に生徒達を置いてどこに行こうとしているんですか?答えろ!
ビンロウジ ・・・めんどくさいな。
ミズノ ?
ビンロウジ せっかく完璧な計画だと思ったのに。あなたのせいで台無しです。
ミズノ お前。
ビンロウジ そうです。イズミさんがこの学校にいると彼らにリークしたのは私です。
ミズノ なんで・・・なんでこんなことをしたんだ!
ビンロウジ 仕方ないでしょう。私だって、こんなことする人間になるとは思ってなかったですよ。教師という職業は、なりたくてなった職業のはずでした。生徒達を指導し、成長を間近で感じられる理想の職業だって。なのに、今の私に与えられるのは自分の思い描いていたものとは違う仕事ばかり。そればかりか、給料は安く、まともに休みだって取れない。なりたくてなった職業のはずなのにやりたいことはできず辛いことだらけ。こんな学校なくなってしまえばいい、そう思った。そんな時です。ネットの掲示板でイズミシンゴの通う学校を探している集団がいるということを知ったのは。彼らはイズミシンゴの父親の会社の元会社員で理不尽にリストラされた人たちでした。何らかの形でイズミ社長に復讐したい。そこで目をつけたのが一人息子。息子の学校を襲い、拉致し、金銭を要求する。そのために息子に関する情報を集めていて、情報を提供すれば取り分のいくらかを分け与えると言ってきました。私は迷わずイズミシンゴの情報を書き込み、学校の写真を送りました。彼らと連絡するうち、これが脅しではないことを証明するために学校を襲う時に学校ごと破壊するのはどうかと提案しました。彼らは工業会社の人間、この学校を壊すのに使える道具はたくさん持っています。私は彼らにイズミシンゴの情報を与え、彼らはこの学校を壊す。ギブアンドテイクが成立したのです。
ビンロウジはけようとする。
ミズノ おい、待て!
ミズノその場でストップ。
ビンロウジ 憧れの職業になれたはずだった。毎日がもっと輝いたものになるはずだった。なりたい自分ってこんなものだったのだろうか。小さい頃の私は憧れが持つ輝きに惑わされていただけだった。なりたいものになれたはずなのに、今私は自らの手でその憧れを打ち壊そうとしている。
ビンロウジはけ。ミズノ、あとを追ってはける。
カネト ビンロウジ先生はここで待ってろって言ってたけどさ、これ本当にここにいていいわけ?
コテツ 先生がここで待ってろって言ったんだよ?そりゃ待ってなきゃだめでしょ!
シノ でもこのままじゃさっきの拳銃持ってる人たちここ来ちゃうよ!
セイラ そうだよ!ここにあの人たちが来る前に早く学校を出ないと!
モナ でも、私たちが学校を出る途中であの人たちと鉢合わせたら?
コテツ そうだ!そんなの自分から殺されに行くようなもんだろ!
ミナト 誰にも見られずに学校から出ることができれば・・・
カネト そんなの無理に決まってんだろ!一人が校門の前で待機してる。あそこから出たら全員捕まっておしまいだよ!
ソラ あ、
シノ じゃあなに?このまま何もせずここで黙って殺されるのを待てっていうわけ?
カネト そんなこと一言も言ってないだろ!
ルリ ちょっとカネト落ち着いて
カネト 落ち着けるわけないだろ!俺たちどう転んだって殺されるんだぞ!
シンゴ ごめん、僕のせいだ。
ミナト イズミのせいじゃないよ。
セイラ なんか学校から出られる秘密の抜け道とかないの?
シノ 秘密の抜け道?
カネト そんなのあるわけないだろ!
ソラ あのさ!
ミナト ・・・なに?
ソラ え、いや、その・・・
シノ あーもう!ソラは下がってて!
ソラ え。
シノ 私たちで考えるから、ちょっと静かにしてて。
カネト そうだよ。お前に何かいい考えが出るわけないだろ!
ソラ あ。
生徒同士の議論が白熱する。
ソラ 僕の人生は・・・
生徒同士の議論がさらに白熱する。
ソラ 僕が決めなきゃ・・・
カネト 考えてるよ!でももうどうしようもないだろ!
ソラ みんな!聞いて!
ソラの叫び声でみんなソラの方を見る。
暗転。
爆弾が爆発する音。学校はゲンたちによって破壊される。舞台上の教室の椅子や机は無造作に並べ替えられている。
この事件を伝えるニュースの音声が流れる。
エピローグ
学校の近くの公園。一時的に生徒や教員の避難所になっている。
生徒達は保護者が引き取りに来て順番に帰宅していきソラだけが残っている。
そこへグンジがやってくる。
ソラ グンジ先生。出張じゃなかったんですか。
グンジ さすがに自分の学校が大変なことになってるって聞いたら戻って来るよ。悪の組織が学校に攻めてきたんだってな。
ソラ はい。
グンジ どっかで聞いたことある展開なんだけど、まさかお前が黒幕じゃないよな。
ソラ そんなわけないじゃないですか。
グンジ わかってる。冗談だよ冗談。
ソラ 悪の組織はどうなりましたか。
グンジ ミズノ先生が警察を呼んでくれて、悪い大人はみんな捕まったそうだ。
ソラ そうですか。
グンジ お父さんかお母さん、まだ来ないのか?
ソラ うちの両親共働きだから、もうちょっとしたら来ると思います。
グンジ そうか。あ、聞いたぞ。ササベがいきなり叫んだと思ったら誰も知らない体育館裏の秘密の通り道に案内してくれて、そのおかげでこの公園まで全員無事に避難できたって。
ソラ え、誰からですか?
グンジ 秘密。
ソラ 何でですか。
グンジ いいだろ別に。あと、変わったねって言っておいてくださいって言われた。
ソラ ・・・。
グンジ 他のみんなも感謝してたぞ。ササベのおかげで助かった、ありがとうって。あと、ひどいこと言っちゃって申し訳なかったとも言ってた。よく頑張ったな。お前の勇気が、皆を救ったんだ。先生からも、ありがとう。
ソラ ・・・先生。・・・僕、負けちゃいました。学級委員。
グンジ ・・・そうか。
ソラ 先生、僕、わかりました。
グンジ 何が?
ソラ なんで僕が学級委員になれなかったか。僕はなりたい自分になろうとしてなかったんです。ルリとかサメズ君とかはちゃんと理想とする自分になろうって努力してて。でも僕は、理想はたくさん並べてるのにそれになるための行動は何一つ起こしてなくて。みんなを納得させられるほどの事実はなんにもなくて。そりゃ負けますよね、学級委員選。・・・だからこれからは、ちゃんと行動しようと思いました。紙の中に書くだけじゃなくて、ちゃんと目に見える行動として。
グンジ 一つ大人になったな、ブルーサンダー。
ソラ いや、僕はブルーサンダーじゃないです。僕はササベソラです。ブルーサンダ―は僕の中のヒーローです。
幕。