【読書メモ】医者も親も気づかない女子の発達障害

 発達障害には性差があります。例えば自閉症スペクトラム障害(ASD)の発生頻度は、男性が女性の約4倍であると言われています。
 一方で近年の研究によれば、女性はその社会的な役割や立場が原因で、男性と比べ“発達障害の特性による困難さ”が見えづらいだけであり、困りごとを抱えている人の数は男性と変わらないのではないか、とも言われています。
 ADHDは、男性は「多動・衝動優勢型」が多く、女性は「不注意優勢型」が多いです。
 前者では、学校で授業中に座っていられず歩き回る、怒りを抑えられず手が出てしまうといった行動のため、周囲への影響が大きく、発見されやすいです。
 後者は、整理整頓が苦手、忘れ物が多い、ケアレスミスで試験で実力をより低い成績になってしまう、ボーっとして人の話を聞いていないように見えるなどの問題が表面化します。これらは、生徒・学生の間は、本人が叱責されることはあっても、周囲が巻き込まれることは少ないこともあり、発見が遅れます。またケアレスミスがあっても、試験で高い成績をとるだけの知的能力があれば問題になりにくいです。
 ところが、仕事をするうえでは、これらが大きな支障となってしまいます。特に、女性は男性に比べて、「細やかな作業でも、早く正確に行うことができる」ことが期待されることもあり、男性であれば見過ごされることであっても、「女性なのに、こんなこともできないの?」と叱責されることもあります。
 自分でも整理整頓が上手になり、ケアレスミスと忘れ物を減らしたいと思って努力するのですが、空回りしてしまいます。そのストレスが積み重なっていくうちに、適応障害や依存症などを発症し、受診するに至り背景に発達障害があることが見つかることが多いのです。
 なので、発達障害の支援者にとっても、当事者にとっても、性差について知っておくことは、より良い対応をするために、とても重要です。

 
 本書は、臨床&研究で第一線にいる精神科医が筆者が書いており、最新のエビデンスに基づく知見と共に、当事者であることをカミングアウトして活躍している漫画家(沖田×華さん)との対談も収められており、女性当事者の視点も知ることができるのがお役立ちです。
 沖田さんは、自分の個性がわからず、親の勧めもあって看護師になってしまいますが、「暗黒時代」だったそうです。
 看護師、特に病棟勤務では動き回ることが多いので、多動傾向ぐらいなら向いているのですが、複雑な人間観関係とマルチタスクをこなす必要があるので、発達障害との相性は悪い職業ですから無理もありません。
 沖田さんは、看護師以外にも様々な仕事についてみたけれど、いずれも適応に失敗。試行錯誤の末、子ども時代から好きで得意だった「絵を描くこと」を生かして漫画家になりました。
 真似ることが難しい職業選択ではありますが、女性の当事者として、仕事や家庭で行き詰まっている人にとって、あるいは支援者にとって対応のヒントを見つけ、自信をもてるようになるのに有用なのが本書だと思います。

  蛇足ですが、医療職はマルチタスクをこなし、正確さ、スピードも求められるので、発達障害との相性は悪いとされていますが、職種による濃淡はあります。
 例えば、薬剤師は定型的な業務を正確にこなす能力が優先されます。処方を出す際、疾患に適応があるか、用量内であるか、すでに処方されている薬剤と禁忌ではないかなどを漏れなくチェックしなければなりません。
 一方、医師は、定型外の業務を臨機応変にこなす能力も重要です。例えば、従来の処方では上手く治らない場合、別の薬を、薬の作用機序から考えて、適応外だけど処方する場合があります。薬剤師からは危険視されますが、そういう創造性、発想力によって始まった試みが研究によってエビデンスがに至り、後では、定番となった薬が少なくありません。
 あくまで私見ですが、ADHDの診断基準を満たすほどではないが、そういう傾向がある場合、薬剤師より医師の方が能力を生かせる場面があると考えます。